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3話目スタート!
ちょっと長いかも
前後左右にそびえる木々。生い茂る草花に、荒れた獣道。
思わず上を向けば、綺麗な水色に白が混じって見事な空模様が見える。
首を戻せば、若干暗い植物の中。
降り立った場所が森であると、嫌でもわからせられた。
ゆっくりと目を閉じ、息を大きく吸う。鼻腔を擽る草花特有の青い臭い。海どころ水場もないようで、空気はカラッとした乾燥していた。
隣に降りたジャピタと目を合わせ、ニッコリと微笑む。
長年の経験から察したジャピタが逃走を計ったが、すぐに首根っこを掴みあげた。邪神の力を抑えていても、この位は容易い。
「ジャピタァァァ!」
「ギャアー!」
片手で首を固定し、残った手でジャピタの頭を鷲掴みしてめちゃくちゃに動かす。
意味は無い、単なる八つ当たりである。
最近、森が多すぎる。それも、近くに水場が全くない森の中。初対面の人魚と会うパターンとして、非常に稀有な展開である。
復讐者からの第一印象が怪しまれては、その後がやりづらいものだ。
それに加え、欲求不満だ。
イオは邪神だが、人魚としての本能を失っている訳では無い。
だだっ広い水場、できれば海で優雅に泳ぎたい。
だからといって遠くに行けば、復讐者の取り巻く環境がどうなるか分からない。餌を求めて世界を渡ったというのに、接触前に死亡しては意味がない。
諸々の条件をクリアして一番いい選択肢が、着地点が水場近くで探索ついでに少し泳ぐ事。
つまり、森深くに着地した現状は最悪である。
散々弄った後、適当にジャピタを放り投げる。目を回したのかそのまま地面にぶつかり、小さく悲鳴を上げた。
すぐに回復し、何事も無かったかのように起き上がってくる。
「ヒドイー。イオ、ヒドーイ」
「うるさい。森は見飽きている」
「エサ、バショ、エラベナイ」
「はいはい。呼んでもいない客人もいるみたいだ。さっさと移動するぞ」
髪をかきあげる動作で向こうの視線を逸らし、辺りを見渡す。
およそ、十数体。茂みに隠れ、イオの動向を観察しているようだ。気配から人間ではなく、亜人の類だと判断する。
珍しい。大抵、亜人の類は邪神の力を感じ取って近寄らないものだ。
現に、こちらを伺う気配も怯えが隠せていない。
それでも近づくという事は、相当の理由があるという事。
だが、イオは餌の方が重要だ。ジャピタが頭で示す方向へ移動しようとした瞬間、逃がさないとばかりに姿を現した。
大きな口に不揃いの歯を覗かせ、不気味な眼でイオを見据えている。醜悪な面は成体であると物語っているが、全ての個体が人間の子供位の背丈しかない。
露出している肌は緑色かつ、でこぼこ。所々に赤黒い斑点が描かれているが、返り血によるものだろう。
構える棍棒や剣、斧にも同じような色合いがこびりついている。
それは唯一身につけている腰布にも言える事で、全て異なる材質から襲った人間の衣服なのだと推定できる。
大抵の世界に存在する下級の亜人、ゴブリン。あまりの醜さとその習性から、魔物として扱われる世界も多い。
人間よりも少し優れた身体能力、代わりに低下した知能。その思考回路は食欲と性欲で埋まっていると聞く。
雌も存在している世界もあるが、ごく一部である。殆どの世界ではゴブリンは雄しか存在しておらす、他種族の雌を攫って孕ませる。
高い繁殖能力はどんどんと仲間を増やし、数の暴力で村や馬車を襲っては雄と雌を手に入れる。その繰り返しだ。
そのゴブリンがイオを囲んで、武器を構えていた。それも、怯えつつもしっかりと欲を持ってイオを見ている。
つまり、邪神への忌避よりも、女への肉欲が勝っている状態。
面倒だ。大口開けて驚くジャピタを尻目に、ため息をつく。ゆっくりと息を吐き、気を引き締める。
邪神の力に屈せずに立ち向かった事は褒めるが、勇気と蛮勇は異なるもの。
隠していた力を解放する。見た目が変化したイオの姿に、ゴブリンはガタガタと震え始めた。
「警告はこれっきりだ。どっか行きな、雑魚共」
低く、威嚇を込めて発した言葉は、余程の強者でなければ威圧となって襲いかかる。
悲鳴を上げ仰け反る、後退る、腰を抜かす。様々な恐怖の反応を見せてくれた。共通する点は、硬直している所だろう。
とんだ邪魔が入った。ゴブリンなど頭から消し去り、餌が居る場所へ向き直った。
「だめダ! いカセナイ!」
一匹のゴブリンが悲鳴じみた叫び声を上げて、自分の身体で行く手を阻む。
それを見た他のゴブリン達も、気力を取り戻して鼓舞し合いだした。
「ソウダ! つよイめす! にがスナ!」
「つよイめす、はらマス! つよイなかま、うマレル!」
「ドウセしヌ! ナラ、かケル!」
「つよイなかま、あいつラたおス!」
いきり立つゴブリン達。叫ぶ合間に気になる単語がいくつかあった。
種の存続に関わる何かが起きている為、繁殖行動がさらに増強されているといったところだろう。
それに、この世界のゴブリンは通例通りに雄しか存在していないようだ。
イオの考えが正しいかどうか、そもそも今の状態では大人しく話ができない。
それに、ゴブリン全体の問題なら、出来れば上位種から話が聞きたいものだ。そうすれば、もう少し話も通じる。
ないものねだりだ、仕方ない。ならば、ゴブリン達の鎮圧が再優先だ。大人しく性の捌け口になる気はない。
手馴れた水の槍を使いたいが、あれは小回りが効きにくい。その為、今のような多人数相手では好ましくはない。
こういう状態を想定した武器もあるが、あれはジャピタの力の割合が強い。
つまりイオの力が占める割合が低い為、他の武器よりも扱いづらい感覚がするのだ。
とはいえ、必要な状況では使うしかない。左脛の鎖を掴み、引き抜く。
久方ぶりに出した武器の柄を掴み、手慣らしに足下へ叩きつけた。鋭い音を立てて地面が軽くえぐれる。腕は落ちていないようだ。
茶色の皮素材に、華のような幾何学模様が白で表されている一本鞭だ。魔力を伝わせる事で、当てた部分へ土魔法を使用することも出来る。
「で? 本当にやる気か?」
「カ、カカレェェエエ工!」
指示がかかるや否や、ゴブリン達は我先にと飛びかかってきた。イオは冷静に一番近いゴブリンへ鞭を振るう。
そのゴブリンを捉え、別方向に投げつけた。勢いよく飛ぶゴブリンは別のゴブリン数匹を巻き添えにぶつかり、地面に転がる。
その間に死角から近付くゴブリン達。慌てず、ゴブリン達の足元目掛けて鞭を叩きつけた。
一瞬で地面が盛り上がり、数匹のゴブリンが落下し痛みに唸る。
「ジャピタ、後ろ見てろ」
「ワカッタ」
ハイファンあるあるなゴブリン登場
でも、束になっても邪神には到底…………