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エピローグ1

第2話エピローグ!

長くなったので区切ります

 




 『平和の国』の再建と呼ばれていた街が、多数の魔獣に襲われ消滅した。





 その話は瞬く間に国中を、他国中を駆け巡った。


 街を訪れていたカルオ現国王が護衛と共に、命からがら近くの街に避難したことで発覚。

 すぐさま装備を整えて騎士が向かった時には、魔獣の楽園のようになっていた。この間、僅かな数時間である。

 長らくの平穏が災いし、まともに防衛が出来なかったらしい。

 あまりにも魔獣が多く、騎士達は一時撤退を余儀なくされた。


 魔獣がそこから移動しないように陣を組み、大規模の殲滅作戦の準備をする事となった。

 住民の生存者は、ほぼ間違いなくゼロ。悲惨な事実に、民衆の怒りは唯一逃れた国王へと向けられた。

 だが、王都に帰ってきた国王の姿を見て、その話を聞いて、気持ちは消し飛んでしまった。




 一週間ぶりに見る国王は、無惨なまでに変わっていた。




 以前の国王といえば、でっぷりと突き出た腹に脂ぎった肌、無駄に威厳がある様に見せかけていた態度が妙に癪に触る男だった。


 それが肉を削ぎ落とした位に痩せ細り、ぶるぶると震えて目玉を忙しなく動かしている。

 護衛がいなければ、挙動不審な怪しい人物としか認識できない。

 極めつけは嫌に艶があった金の髪が、老爺の如くくたびれた白の髪へとなっていた事だ。

 あまりの変貌にざわめく民衆を集め、国王は酷く吃音させながら必死に言葉を紡ぐ。




 結界に人命が使われていた事。

 それを知ってなお、ネルソンと自分は名誉の為に黙秘しようとした事。

 真実を告げた男を口封じに殺した事。





 それを告げ終えた国王は、堰を切ったように懺悔の言葉しか言わなくなった。二重にも三重にも、衝撃的なスピーチだった。


 その話も、即座に世界を巡った。

 恐慌状態に陥っている国王は、それ以来城に閉じこもっているという。その状態の王を批判しても虚しいだけだ。


 民衆は矛先をネルソンに向け、その行いを非難し罵った。


 今更言っても遅い。そう分かっていても、口に出さずにはいられなかった。多くの人の非難に、今までの評価は消え失せてむしろマイナスだ。

 偉業ではなく、悪業として歴史に名を刻むかもしれない。









 イオにはもう、関係ない事だ。ただ、そうなった際、()()()は嬉々として本人に伝えるだろう。


 復讐劇から三週間。未だに街は魔獣に支配され、遺体も建物も蹂躙され続けている。




 復讐者(アラン)の望みは、復讐対象(ネルソンと国王)への報いと、真の復讐者(人柱達)を手助ける事。

 こちらは国王へのちょっかいをお願いした程度の為、対価も要らない死体という簡単なものだった。


 真の復讐者(人柱達)の望みは、自分達が結界から解放される事、一番の復讐対象(ネルソン)を甚振れる空間の製造方法、魔獣を集める事。




 簡単な固有空間の創り方を教えれば、破邪の力持ち七人はあっという間に有利な空間を創り上げた。

 痛覚以外を固定し、狂って逃げる事も出来ないサンドバックの出来上がりである。

 それを聞きつけた、ネルソンによる他の犠牲者も集まっているらしい。皆、根が深そうだったので五百年はかかりそうだ。

 魔獣は、ベアトリーチェが退けていた分を呼び戻した。かなりの数になったが、住民達も結界に胡座をかいた結果なので構わないという。

 のうのうと暮らしていた住民達にも、妬み恨みを抱えていたようだ。

 対価として、水晶の欠片を七人分。十五年もの負の感情が凝縮された上物が七つ。

 単純に足したよりも濃いそれは、下手な物をもらうよりも美味しい代物だ。










 結果としては大満足。しかし、イオは手放しで喜べなかった。



 








「で、満足か?」

「何がかしら?」


 イオの問いかけに、真正面に座るベアトリーチェは小首を傾げる。とぼける気のようだが、その反応は想定内だ。

 イオはパイプを橙のグローブをした手で口から離し、煙を横に吹く。

 茶会でパイプはご法度だろうが、二人きりの茶会で相手(ベアトリーチェ)が許したのだから問題ない。

 パイプを吸う前の、腹を抱えて笑い転げるイオの姿が焼き付いているかもしれない。


 煙越しに大きな硝子窓、その奥の中庭で練習中のジャピタとアランを視界に映す。


 対価としてアランの身体を得たが、ジャピタが使って直ぐに生前の力を使いこなせるはずがない。

 ゴーストになった本人に教えを乞う事が、一番の近道である。

 ジャピタは空の身体、その首に絡まって身体を動かしている。


 始めた頃に比べて大分スムーズだ。自由自在に操れるまではそう掛からないだろう。


 再び口にパイプを咥え、ベアトリーチェに向き直る。時間をかけず、直球で話題を降った。





「アタシらの介入は別として、ほとんど()()()()()()()()だろ?」





 ピクリと、菓子を摘む指が止まる。すぐに気を取り直し、ベアトリーチェは小さなタルトを口に運んだ。

 返答がなくてもイオは気にせず、話を続ける。


「まず一つ。魔獣対策と言っときながら、やったのは結界だけ。他の策は用意せず、最初から結界が成功すると確信して動いてた。変だろ?」

「『平和の国』が使っていたらしいもの。疑わないと思うわ」

「でも、その国は滅んでる。人を使ったとはいえ、完璧な対応策が何一つ残ってないのは不自然だ。更に一つ言えば、そんな完璧な方法が日記に残ってんなら、倫理観が壊れていたアンタの父親がやってただろ?」


 父を出されて動揺したのか、表情が一瞬消えた。

 やっと反応が出た事にニヤリと笑い、畳み掛ける。


「事の発端は屋敷で発見された日記らしいな。結界に興味持った奴が書いた一冊、という話らしい。でも、()()()()()()()()()()()()?」

「…………どういう意味かしら?」

「例えば、だ。日記は二冊あって、人間達が見つけた本が一冊目。最初だから、日常の中で結界の良さとか方法とか書いてた。それだけ見れば、結界は絶対成功する魔獣対策だ。そこで紙が終わって二冊目。で、その途中で決定的な穴があると突き止めたんだろうな。その所為で国も滅んでバットエンド」


 その穴も予想がつき、イオは肩を竦めて呆れた。





 フラン達を考えれば、誰にでもたどり着く事実だ。

 結界の人柱が一人でも負の感情を抱えていれば、結界は汚染されて魔獣を呼ぶ。



 ならば、人柱達は望んでその身を捧げなくてはならないという事だ。



 そうとわかれば、対策は取れる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 親元から隔離し、都合のいいように洗脳する。人を犠牲にする方法を躊躇わない人間ならでは考えだ。

 人柱達を乙女と表記したのも、少女と示すには幼かったからだと推測される。


 しかし、いくら決意が固かろうと、幼い少女が結界の激痛に耐えきれるものでは無い。

 段々と疲弊していく人柱達と、比例して穢れていく結界。ギリギリになってから、再び結界を貼り直す。

 そうして平和を保っていた。



 だが、人は同じ事をしていると慣れて隙が大きくなる。

 恐らく、隔離していた人柱候補が俗世に未練を残したのだろう。貼り直した結界は既に穢れ、魔獣達が我先にと襲撃した。

 奇しくも、街は参考にした国と同じ末路を辿ったわけだ。

 あるはずの二冊目が見つからなかった故の悲劇。

 偶然とは思えない。


真実の答え合わせ。

次回、第2話完結

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