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9.ネルソン視点

悪徳領主視点

 



 自慢の街を、カルオ・リグランド国王が遊歩する。ようやくここまで来たのだと、ネルソンは感極まった。




 魔獣被害なしの記録を十年以上続けているこの街では、誰もが心から安心して暮らしている。

 その様子に、カルオはうっとりとため息をついた。


「素晴らしいのう。王都でもこの光景が見られる日が待ち遠しいわい」

「そうでしょうとも!」


 活気ある大通りに、カルオは満足した様子だ。先の部下の件で下がった気分も戻ったようで、一安心した。

 

「魔獣被害をなくしたとして、我が国は世間の注目を集めるだろう。待ち遠しいのう」

「ええ、ええ! わかります!」

「ぐふふ。お主は最初から名誉を欲しがっていたからのう」


 ニヤニヤと笑うカルオに、ネルソンは同じように笑って返す。カルオの言うとおりだ。


 今頃、アランの遺体は隠密によって始末されている。


 後は別の部下へ、ゴーストへの伝言を命令すればいい。そうすれば、どこに居るか知らないアランを守るべく、ゴーストはこの街のように国を守る。

 それはこの街の結界を張ったお陰と世間は認識し、ネルソンの名は世界中を飛び回るだろう。





 想像しただけで、頬が緩む。自分が名を残す偉業への道は、想像よりも長かった。










 王都に本店を構え、いくつか支店も出している中規模くらいの商会。その会長がネルソンの父である。


 二つ上の姉と、一つ下の弟。子供としては真ん中だが、長男のネルソン。自分が商会を継ぐものだと、信じて疑わなかった。

 実際、姉は店を手伝うだけで、弟は勉強ばかりの本の虫。対して自分は、積極的に商品開発や宣伝方法などを思いついては父に報告していた。


 商会への貢献度から見れば、自分が一番。だから、自分こそが商会を継ぐ者。

 商会を継ぐからには国一番、否、世界一の商会を目指す。その暁には、自分の名はどこまでも轟き、歴史にも名を残す程の有名人になるのだ。


 そう、ネルソンは偉人に憧れていた。死してなお名を残し、尊敬される。そういう人になりたくて仕方ない。

 その意欲と思いつきの良さが、ネルソンを動かしていた。


 しかし、その熱意に反して、父の反応は冷たい。

 いくら案を出しても、了承するどころか改善する為の意見すらくれない。そればかりか、話を聞く度に不快そうな表情を隠しもしなくなった。


「ネルソン。お前の案をこれ以上聞きたくない」


 熱心に説明していたネルソンには、冷水のような声で父が制した。唖然として顔を見上げると、呆れた父が首を横に振る。


「お前の案は、確かに利益を生む。だが、それは商会のイメージを損なう案ばかりだ。評判が命の商会で、自ら落とすような真似など出来るものか」


 それだけ言い、父はネルソンから背を向けた。


 希少種の買い占めや他商会が暗黙の了解で独占している品物の販売。()()()()()()、ネルソンには不明だった。

 多少の犠牲は必要経費だ。食事だって、家畜や作物の犠牲の上で成り立つもの。

 それを応用して何が駄目だと言うのだろうか。一人考えたが結論は出ない。


 誰かに相談するという手もあるが、ネルソンは選びたくなかった。あの様子では、父は自分で考えろと突っ撥ねる。

 だからといって、他の人に相談はプライドが許さない。姉や弟相手なら尚更だ。

 だが、ネルソンが考えている間に事態はあっという間に進んだ。


 姉が、やり手の従業員と結婚を発表した。婿養子になるらしい。それに伴い、父がその従業員を次期会長に指名した。

 皆の暖かい拍手に包まれ、嬉しそうに微笑む姉と相手。それを見守る父と、学院から戻ってきていた弟。

 離れた所で見ていたネルソンには絶望の時間だった。



 自分がいるはずの場所を取られた。あまりにも屈辱的で、噛み締めた唇から血が出ていた。

 同時に、見る目のない父にも商会にも気持ちが冷めていく。




 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 そうと分かったら話は早い。その日から準備をし、有り金を持って速やかに商会を抜けた。

 商会に熱心だったネルソンを思ってか、きちんとした立場を用意すると姉夫婦は言っていた。

 今更である。鼻で笑い、家を出た。

 その足で、自分に相応しい職場を探す。発想力は誰よりもあるのだ。他の商会、行商人、役所、軍部の扉を開いた事もある。

 そのどれもが、ネルソンを受け入れない。アイディアを出す内に顔色を変え、帰るように指示を出すのだ。


 思い描いた日々が来ない。燻りを胸に抱え、短期の仕事で生活を繋ぐ。こんな事に使われる自分ではない。

 プライドだけが高いネルソンに、とある記事が目に入った。

 弟が難病の対応策を見つけたらしい。歴史に残る偉業だと、文章全てで褒め称えている。

 怒りのあまり、その記事を破り捨てた。自分がされるべき事を、弟如きがするなど腹立たしい。


 脳裏に、自分を見下ろす家族の幻影が浮かぶ。見返さなくては。弟よりも凄い偉業を立て、後世の人でさえ頭を下げるような人になるのだ。


 ネルソンの想いが神に通じたのだろう。折良く、国から求人が出た。

 曰く、長年遊ばせていた様々な土地に町を作り、国益に繋げるという。そこの管理人、つまりは町長を何人かみつくろうとの事だ。

 絶好のチャンスだ。ネルソンは飛びつき、熱意を買われて無事に町を任された。

 ここから自分の偉業が始まるのだと、肌で感じていた。


こういうタイプのキャラ、書いたこと無かったので割と悩みましたが楽しかったです

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