表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/156

7.アラン視点

諸事情により遅れました。

 





 フランが街の為に、自らの命を捧げた。







 同僚達に連れ出されて目にした、地から生えたかのように街の中央に鎮座する水晶体。

 それを前に、ネルソン町長は静かに告げた。


 非人道的だと、アランが必死に反対していた計画が実行された。それも、一緒に反対していたはずのフランが最後の一人となってだ。



『彼女には前から説得していてな? やっと、決心してくれたのだ。だが、君が心配だと言っていてな? その憂いを払う為に君には眠っていてもらったのだ』



 ネルソン町長が諭すように、受け入れがたい現実を突きつけてくる。

 暫く休めと言って、ネルソン町長や同僚達はその場を去った。

 ただ一人、アランは虚ろな目で水晶を見上げた。

 結界の要である水晶は日を反射し、綺麗に輝く。それが一層空しかった。


 嘘だと思いたかった。


 だが、ネルソン町長はフランの力を使いたいとずっと言っていたのだ。

 まだ、大量発生の前兆は報告がない。その状況で、他の人を使うとは考えにくい。



「フラン…………!」



 事実を否定する為に頑張って整理するほど、紛れもない事実であると脳が判断する。


 今までの楽しかった記憶、悲しかった記憶、様々な思い出が浮かんでは消えていく。

 アランはただただ、一人で嗚咽を上げ続けた。

 十五年前の出来事だが、今でも鮮明に思い出せる。

 事実として受け止めたそれに疑問を抱いたのは、ショックが落ち着いた数年後だった。


 フランの部屋に空気を入れていた時に、本棚から急に落ちた一冊の本。

 何気なく開いたそれは、フランの日記だった。それも、人柱になる前日まで使用していた物だ。

 最後のページ、結界展開の前日には、計画に絶対反対という文字が強調して書かれていた。

 他の部分にも、同じような断言がちらほら見られる。



 ネルソン町長の言葉と矛盾している。そう考えて初めて、違和感がじわじわと這い上がってきた。



 最初、詳しくは知らなくても、急に乙女と引き剥がされた家族が抗議していた。

 その人達は少しずつ人数を減らし、最後には誰もいなくなっていた。

 説得が上手くいった。ネルソン町長の言葉を信じていたが、裏で工作した可能性がある。この計画にかけた熱意を思うと、最悪の想像までできてしまう。

 そうして結界を貼ってから、魔獣の被害は一件もない。

 それどころか、一体も見なくなった。ネルソン町長や研究者、同僚達に町民誰もが安堵している。



 いくら何でも、()()()()()()()()



 何年も、手入れも何もしていない結界が、同じ効果を出し続ける物なのだろうか。

 机の上で考えた理想が、そのままこの街に当てはまっている。


 その状態はあまりに不気味だと、心の底から思えた。


 奇妙な不安を覚えたアランは、身体を鍛えて訓練に励んだ。いつか、結界の効果が弱くなっても動けるように。

 その決心とは裏腹に、結界の効果が衰える気配がない。嬉しい反面、違和感が膨れ上がっていく。





 その違和感は間違いではなかった。





 友人であり、妹分でもあるベアトリーチェの告白を聞きながら、アランはやっと納得した。

 フランは、六人の乙女達は、十五年も苦しみ続けていた。逃げる事も出来ず、呪いの言葉と結界を流し続けている。



 それを知った今、アランはこれ以上の犠牲を出さない為に動くしかない。










 いつもよりも飾り立てた正門前に、馬車が止まる。

 三台ある馬車はどれも素晴らしい。特に一級品である中央の馬車には、王家の紋章が刻まれている。


 そこからゆったりと、壮年の男性が降り立った。ネルソン町長が頭を下げ、続いてアランや同僚達も頭を下げる。


 数秒しか見ていないか、一時期だけ自分の主を名乗っていた男を思い浮かべる様相だ。

 これが現国王、カルオ・リグランドなのかと期待がなくなる。国民を犠牲にする方法を検討している時点で期待は持っていなかったが、さらに薄れた気分だ。


「これはこれは、ようこそいらっゃいました……! 」

「うむ。よきに計らえ」


 揉み手で媚びるネルソン町長に、カルオ国王は当たり前のように受け取る。出来のよくない王という噂は正しかったようだ。

 ぺこぺこと下手に出るネルソン町長に案内され、カルオ国王は移動する。

 公に話せない内容だ。詳しい話は役場の応接間でと決まっている。そこで、一人だけの護衛で二人話し合う予定だ。

 国王の護衛としては薄いが、本来なら完全な密談にしたかったはずだ。一人でも譲歩した方だろう。



 アランは護衛に選ばれた一人だ。

 その時だけ、アランは町長と国王に一度に話を持ちかけられる。



 同行した兵士を、執務室と同じ階層の大部屋に案内する。街の自警団もそこで待機だ。

 部屋の中では、緊張感をまだ持つ兵士とだらけきった同僚と見た目でさえ差がある。もはや、落胆するだけの期待もない。





 ようやく、アランの番がやってきた。静かに告げ部屋を出て、執務室前にいる前任と交代する。

 やる気のなくヘラヘラと帰る様を見送った後、アランは深く呼吸をして覚悟を決めた。


「町長、国王様。アランです。今回の件について、大切な話があります」


 ノックと共に言葉を述べる。基礎的な敬語しか出来ないが、問題ないだろうか。緊張していると、少ししてから許可が降りた。

 ほっとしたのもつかの間、中に入り、テーブルに向かい合わせに座るネルソン町長とカルオ国王へその場で膝を立てる。


「聞き入れていただき、ありがとうございます」

「いいのだ。お前から話しかけることなど滅多にないからな? 余程、重要なことなのだな?」

「はい。結界についてです」


 重要な単語に、明らかな反応を示す二人。上位社会は腹の探り合いと聞くが、この二人は向いていないとぼんやりと思う。

 それよりも、今からが本番だ。アランは深く息を吸って残酷な事実を告げた。


「結論から言います。王都に貼る結界も、それどころかこの街の結界も、()()()()()()()()

「何じゃと!?」

「無礼者! 何をほざいてる!?」


 予想通り激高する二人に、アランも知ってまだ新しい真実を続ける。


「今、街を覆う結解は、破邪の力と真逆の性質を持っているようです。この町が無事だったのは、リーチェ……屋敷のゴーストが魔獣を消滅させてくれていたからです。だから、結界に意味はないです」

「馬鹿な! それが事実とは限らないだろう!?」

「……リーチェが言うには、原因は()()()()()()()()()()()()()()()()らしいです。町長なら、わかるのでは?」


 強制的に妹を人柱にしただろう。暗にそれを含ませて尋ねれば、覚えがあるネルソン町長は言葉を詰まらせた。

 怒りを拳に込めて落ち着かせる。

 優先順位を間違えてはいけない。

 考え込む町長と国王に、改めて本題を伝えた。


「今回、この事を伝えたのはお願いがあるからです。結界が意味が無いのなら、フラン達を解放したいです。人柱の解放、その研究をお願いしたいです」


 そう言って頭を下げる。結界の阻止と、フラン達の解放。この二点が、直談判の理由だ。


 特に、後者は厄介だ。アランには魔法の知識はほとんど無い。故に、結界の術式などちんぷんかんぷんだ。

 下手に手を出してフラン達の魂を傷つけるより、専門家の元できちんと術式から解放させてあげたい。アランはそれだけを願っている。




 だが、国王から返ってきた言葉は承諾ではなかった。




「ふむ……問おう。そのゴーストとやらは、何故この街を守っておったのだ?」

「それは………………フランを失った俺を、元気づける為の嘘をついて……それで、結界が成功していると見せかけていました…………」

「ならば、簡単なことじゃな。そのゴーストに()()()()を守らせればいい」


 さらりと言ったが、とんでもない事だ。

 この街を完璧に守るだけでも大変だというのに、その何十倍もある領土をベアトリーチェ一人で補えるわけがない。


「無理です! リーチェの負担が増えてしまいます!」

「ゴーストなんぞ、醜い化け物じゃろう? 何をそんなに肩入れしとる?」

「カルオ王。実は……」


 嫌な笑みを浮かべたネルソン町長が、カルオ国王に耳打ちをする。

 内容を聞くうちに、カルオ国王もいやらしげな笑みになった。


「成程、成程。ゴーストに気にいられておる男なのか。だとすれば……」

「ええ、ええ! カルオ王の高察通りかと」

「何を言って」


 そこから先の言葉が出なかった。



 背後に何かが降ってきた気配がして、喉が熱くなった。反射的に下を向いて喉に手を持っていく。

 生暖かい液体が手に触れる。それを確認する前に、体から力が抜けてその場に倒れた。



 何が起きたか分からない。ただ、瞼が重い。



「いやはや、流石に隠密の者はお強いですな!」

「当然じゃ。さて、こやつはどう始末するかのう……ゴーストに見つからないようにせねばなぁ」

「では、燃やしてしまいましょう」

「名案じゃな。ゴーストには、国内旅行に出たとでも言うておけ。そうすれば、こやつを守る為に国土全て守る。結界の必要もなく、予算が浮くわい」



 楽しそうに笑う声だけが聞こえてくる。

 止める為の言葉どころか、単なる音も出ない。


テンプレな悪役国王と悪役領主を目指しました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ