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16.ヨモギ視点

次々と紐解かれていく真実

 


 また、小窓から覗く風景が変わる。



 ヨモギへの暴力か強くなる時期だ。

 ヒイラギが独りよがりで準備して祝う、ヨモギが産まれた時期である。

 そんな時に、いつもよりも浮き足立ってアーサーは駆け寄ってきた。


「やっぱりヨモギは鬼じゃないです! 立証ができたです!」

「ホント!?」


 開口一番の話に、ヨモギを身を乗り出した。


 鬼とは何か。ゴクリと喉が鳴る。


 アーサーは息を整えてから、再度口を開いた。


「この島で『鬼』と呼ばれるヨモギの眼は、本国では『祝眼』と呼ばれます」

「えっ、全然意味が違う……?」

「はい。だから、時間がかかったです」


 アーサーが言葉を選びながら、話を進めた。



 外の国でも、姫巫女のように太陽神の加護を受けた人がいる。歴史を組みといていくと、加護持ちに親しい関係で祝眼を持つ子が必ず産まれたらしい。

 その子には太陽神の魅了が効かない。原理は不明。


 祝眼は猫目で、猫は月神の下僕だから。加護を持った人が悪用しない為の抑止力。


 根拠がないから、考えればキリがないという。


 ただ、太陽神自体はそれを良しとしなかったようだ。

 万物全てに親しまれたい。万物全てに頼られたい。

 その一心から、()()()()()()()()()()()()()()


 しかし、太陽神は先を見通せなかった。

 執着が増す程に世間に触れ、加護持ちは多少なりとも穢れていく。

 結果として、太陽神への祈りも穢れ、授ける力が弱まるという悪循環。

 歴代の加護持ちも、栄華は長くなかったという。



 その話に、思い当たりがありすぎる。いつの間にか、ヨモギは自分の目を押さえていた。


「それを踏まえて、この島の現状も整理したです。巫女が祝眼に執着した事で、太陽神の弱まったです。大昔の巫女はそれを知っていたから、祝眼を鬼と伝えて防ごうとしたです」

「島に災いをもたらすって……姫巫女の祈りが穢れるって意味だったの……?」

「はい。巫女の性格と、愛されすぎる環境と、鬼は排除する思考。悪く組み合って、強すぎる魅了を持った巫女が誕生したと思うです。ヨモギに執着して、沢山な事に触れて、ろくな祈りがされていないから今の状況です」


 第三者が出した結論に、拳を強く握る。


 要は、鬼であるヨモギがいる事で、ヒイラギが穢れていき神の御力が弱まった。

 直接的な原因は、必死に崇めている姫巫女様。なんて皮肉だ。

 一気に島民達が馬鹿に見えて、思わず笑いが漏れる。


「巫女が真摯に祈れば収まります。でも、恐らく無理です。瘴気はどんどん増えます。止められない以上、あとは女王陛下の采配になるです」



 そこで我に返り青ざめた。

 原因が判明したなら、アーサーがここに来る理由がなくなる。会えなくなる。


「原因がわかったって、アーサーはもうここには来ないん……?」

「…………そうなるです」

「イヤ!」


 思いっきり手を伸ばして、小窓の横の壁に当たる。

 島民から守ってくれる壁が、今は邪魔だった。



「アーサーに会えないなんてイヤ……!」



 心からの叫びだ。

 この感情が恋慕か、執着か、依存か、親愛か、何も知らないヨモギには分からない。

 はっきりしている事は一つ。鬼で災いを与える存在じゃないなら、アーサーとずっと一緒にいたい。


 久方振りの涙が出て、視界が歪む。その中でアーサーは優しく微笑んだ後、小声で提案してきた。



「ボクは嬉しいです。ヨモギも、同じ気持ちとわかったです」

「それって……」

「一緒に来て欲しいです。島を出て、普通の人として、同じ場所で暮らしませんか?」



 優しい選択肢に、全身に歓喜が迸った。嬉し涙をボロボロと流し、首を縦に振る。

 嬉しさのあまり叫びそうになり、急いで両手で口を押えた。そんなヨモギに、アーサーも安堵した様子だ。


「あと数日だけ待っていて欲しいです。夜に、迎えに来ます」

「うん……!」


 地獄から天国へ変わる。その為の数日なんて、どうとでもなる。


 名残惜しくアーサーと別れた後も、頬が緩む。

 自然と笑みが浮かぶ。余韻に浸るヨモギには、来訪者がいつも以上に邪魔だった。


「ヨモギ、具合はどう? 大丈夫? 今日はね、綺麗な反物を買ったのよ」


 勝手に納屋に入り、ヨモギの隣に腰掛けてヒイラギは語る。暖かな余韻が一気に冷めた。

 自分語りを聞き流していると、入口に誰もいない事に気づいた。普段なら、母か帝子がいるはずだ。


「ねぇ、ヨモギ。次こそは一緒に品を見ましょ?」


 甘い声が五月蝿い。

 誰も見ておらず、ヒイラギ一人で、数日後にはアーサーと共に島を出る。変化が決まっている状況は、ヨモギに反抗心を沸き立たせた。




「姉上。()()()があんの」




 魔法みたいな言葉を告げれば、ヒイラギは旗目から見ても分かるほどに浮かれ上がった。

 真実を知った今、その態度すら癪に障る。


()()()()()()()()()()

「……へっ」

「姫巫女は外の世界に出ちゃダメ。てか、本当なら外の世界を知らずに祈り続けなきゃダメだって、姉上も知ってんだよね? ちゃんと守って」


 明らかに狼狽している。別に難題をこなせなど言っていない。正論を諭しているだけだ。


 しかし、指摘してくる相手すら排除させて自由を謳歌していたこの女には、理解し難い内容らしい。


 唇を震わせ、悲劇のヒロインを気取りだ。


「ヨモ、ギ……? お姉ちゃんに、何で、酷い事……」

「……何言ったって聞かないから、説明とかしたくない。でもこれだけは言いたいわ。……その執着が、()()()()()んだよ。だから、私は、この眼で産まれたんだろーね」


 どうしても言ってやりたかった言葉だ。

 ヒイラギが信じようと、この後に崇拝者達に死ぬ直前まで暴行されても、もうどうでもいい。

 死ななければ、アーサーとの未来がある。そう思えば安いものだ。


 絶対零度の眼差しで無言を貫いていると、ヒイラギは跳ねるように立ち上がって納屋を出ていった。


 情けない後ろ姿に鼻で笑ってやった。

 散々甘やかされた女には、あの程度でも相当応えたらしい。

 恒例の暴行時間に、ヒイラギの様子がおかしいと継母が金切り声で喚いていた。

 しかし、本人の口からは何も語られていないそうだ。その鬱憤を余すことなくヨモギにぶつけてきた。




 打たれ弱いというより、精神が幼子同然だから脆い。一矢報いて清々する。痛む怪我を手当しながら、嘲笑った。





未来は明るい、はずだった

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