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15.ヨモギ視点

 

 言っていた通り、アーサーとは数ヶ月の間隔で会うことが出来た。

 決まって、外の国から商人が来た時と一緒である。


 どうやら商人もアーサーと同じ目的で、帝や姫巫女への陽動として動いているらしい。

 本来なら社に篭っている姫巫女が、品を売りに来る度に見に来ている。仲間の人も驚いただろう。

 帝子がわざわざ商人の来訪をヒイラギに伝達しているようだ。

 外の国の品々は、ヒイラギの心をしかと掴んだらしい。


 その度にヒイラギに誘われるが、体調不良だと言えば無理強いしてこない。

 そこにヨモギを排除しておきたい帝子の思惑も加わって、断りきれている。その点だけは感謝だ。



 調査の合間にも、アーサーは絶対に逢いに来てくれる。その時間が楽しくて、あっという間に過ぎてしまう。

 勿体ない反面、アーサーの仕事の進みを応援する。

 調査は順調なようで、判明した事実を教えてもらった。




 僅かずつではあるが、瘴気の発生量は増えてきているらしい。

 それもそうだ。姫巫女(あの女)はまともに祈っていない。

 気ままに社から出ては、ヨモギを構おうとしたり帝子や両親などに甘やかされたりしている。


 純粋とは真反対の祈りで、太陽神から与えられる力も弱まる一方だ。


 アーサー達がそれとなく伝えた所で、あの女は受け入れる気など皆無。

 それで止まるなら、前宮司は死ななくて済んだものだ。


「正直、ここまで酷いとは思わなかったです……」

「……その、ごめん……」

「ヨモギの所為じゃないです。巫女が全然成長してないのが悪いです……本当にあの人、二十三です?」

「若いと幼いが区別できないんだよ。指摘する人もいないし」


 互いの口からため息ばかりが出てくる。

 こういう会話も、アーサーとしかできない。溜めていた不満も、話すだけで多少は良くなるから不思議だ。



 その間も、アーサーの本国では分析が進む。



 瘴気、姫巫女、鬼。様々な事柄を、十何人も集まって判断しているという。

 外では魔法という力を使える人が半分程おり、主にその人達が主体で進めているようだ。


 アーサーは現地の資料集めが目的らしい。最初に会った時もそう言っていた。

 協力したいが、話せるような知識は持ち合わせていない。渡せる資料といえば、翠の目と暴行の跡くらいだ。


 ただ、アーサーが泣きそうな顔をするので止めた。専ら、話を聞く係となっている。

 アーサーも抱えきれない事実をヨモギに抱えきれない事実を吐き出し、多少は楽になってそうだ。




 何せ、聞いているだけでとんでもないとわかる。





「……瘴気について、大変な事がわかったです」

「うん。今にも死にそうな顔してるもん。何がわかったん?」

「…………()()()()()()()()()()()()()です」


 曰く、ネズモットという実験動物を用いて、瘴気の多量摂取を確かめたらしい。

 かなり高いがある一定量を超えた瞬間、ネズモットは別の物に変化した。



 見た目や中身はそのまま。だが、()()()()()()()

 数ヶ月経っても成長せず、飲食をさせなくても飢えず、そして()()()()

 寿命がないだけではなく、切り刻もうが粉微塵にしようが、一定時間が経つと爪先程度の欠片からでも全身か再生するという。


「結局、変異したネズモットは凍らせて仮死状態にしたです。ネズモットの特性です」

「それって……ネズモットじゃなければ、ずっと意識あるんだよね……」

「……その通りです」


 流石のヨモギも、背筋が凍りついた。

 不老不死といえば聞こえはいいが、それは生物の理から外れた存在だ。



 恐ろしい瘴気が蔓延する場所に屍食鬼が住まう。

 そこに人が入ってしまい、限界量を迎えたらどうなるか。永遠に屍食鬼の餌だ。



「それって……ヨウキ様が儀式するまで、この島って地獄だったんじゃ…………!」

「……あの世とこの世の間にある、常世の島と呼ばれていたみたいです。流刑の先でもあったみたいです」

「怖……!」

「大昔の巫女も、邪魔だから流された、そういう考え方もあるです」


 言いにくそうにアーサーは告げたが、その説に納得する。盲信者というものは、権力者からすれば扱いにくいだろう。力を持つなら尚更だ。



 冤罪でヨウキ様は流され、たどり着いたこの島で生き残る為に儀式を行って瘴気を払った。自然な流れだ。



 互いに無言になる。恐ろしい過去を想像して、上手く声が出ない。


 この日は、それ以上の会話は出来なかった。次に会う時まで、改めて島の現状に恐怖したものだ。

 最初の姫巫女の強さを思う反面、ヨモギに構ってくるヒイラギへの感情がさらに下がっていく。もはや氷点下だ。


「ねぇ、ヨモギ。これ、この前の商人から買った珍しいお菓子よ。一緒に食べましょ?」


 こちらの不安など露知らず、ただ自分の欲をヒイラギは楽しんでいる。


 その微笑みを突き飛ばしてしまえば、どれほど胸が空くだろうと何十回も考えた。


 そんな事をしてしまえばヒイラギが周りに吹聴して、周りからの何倍もの暴力となって返ってくる。

 だから、感情を抑えて暴言暴力が最低限になるようにあしらうしかない。


少しずつ、真実が分かっていく

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