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10.

 

「ヒイラギ! よう戻った! この一月、待ちわびたぞ!」

「ヒイラギちゃん……! 良かったわ……!」


 広間に入るや否や、身なりのいい若い男と憔悴した中年の女が真っ先に声を上げた。

 前者の両親や後者の夫と見られる人間も、目に見えて安堵している。


 帝一族と両親の出迎えに、ヒイラギは胸を張って応えた。


「当たり前でしょ? 皆が守ってくれて、無事に舞を捧げられたわ。皆、()()()()だったから、私を守ってくれたの」

「精鋭ばかりを旅立たせたからのう。姫巫女と肩を並べたと、黄泉路でも鼻高々だろう」

「ねぇ、ヒイラギちゃん。そこの人魚は……」

()()()よ!」


 その一言だけで、部屋内の人間からこちらへの警戒が解けた。改めて、神が力を与えた姫巫女の強さを思い知る。

 帝子が志半ばで散った側仕え達に対する反応も、姫巫女の体質からで流されていた。


「キンウ、早速最後の舞をしたいわ。沐浴の間、場の準備をとお願いね?」

「あいわかった。すぐに準備を整えよう」

「そうそう! 最後の舞って凄く綺麗なのよ! だから、()()()()()()()()()()()の!」


 水を打ったように、一瞬で静まり返る広間。分かりやすく顔色を変える周り。

 ヒイラギだけが変わらないまま話を続ける。


「ヨモギも喜んでくれるわ! 一番最前列で、私が見える位置に連れてきてね? 絶対よ?」

「ヒイラギちゃん、鬼女を清浄な儀式に」

「鬼女なんかじゃないわ! 最後の舞で、ヨモギはヨモギは何の関係もないって正面するんだから! あ、ヨモギに似合うと思って買ってた薄紅に芍薬の小袖を着させてね! 絶対似合うもん!」


 言い切ったヒイラギは、いそいそと広間を出ていった。沐浴を行いに行ったらしい。

 しかし、地位が上であるはずの帝に対してもあの態度。どこまでも自分優先だ。

 後ろ姿を見送ってから、イオは残された面々へ視線を戻す。


 随分と暗い。儀式の準備に立ち上がろうともしない。

 理由な大まかに予想つく。呆れつつ、収納魔法からガラス瓶を取り出した。中には黒い丸薬が所狭しと入っている。


「帝子。これを使いな」


 声を出し、こちらに気づかせる。それから軽く瓶を投げた。緩やかに放物線を描いて向かってくる瓶に、帝子は反射的に受け止めた。

 大抵が不可思議な瓶を見る中、帝子の母らしき女は目尻を釣りあげてイオを睨みつけた。


「無礼者! 我が子になんという事を!」

「薬を投げただけだが?」

「薬……?」

()()()()()()()()()()まで回復する。どうせ、()()()()()()()()()()()()だろ?」


 イオの言葉に、その場の全員かハッとする。即座に侍従を呼び、ヨモギへ薬の摂取と支度を命じた。

 侍従はあからさまに嫌悪感を出すも、渋々と丸薬を持って広間を出る。



 やはり、ろくな扱いをしていなかったようだ。



 本音は、処分したくて堪らない。しかし、ヒイラギに軽蔑されるという可能性から、最低限の食事で生かしていたに違いない。

 儀式など眉唾物で、ヒイラギの気が済むまで行わせる。その後に説得して、処分するつもりだったのだろう。

 帰路についたら、早々に会うと予測していない対応だ。

 いくら盲目的でも、姫巫女から鬼女への執着は認めず、姫巫女の願いより鬼女への嫌悪が勝るらしい。


「ジャピタ、偽装」

「ワカッタ」


 意識が逸れている間に、イオはジャピタに小声で告げた。一瞬の景色の歪みで、魔法が発動された事を把握する。

 帝子達がイオとジャピタを探す姿を尻目に、広間を出て儀式の場へ向かう。



 内裏に近づくにつれ、方々から神の力が集中する場所があるのだ。

 六地点での儀式により、神力が一点に満ちている。そこで舞を行い、島全土を神力で包み込むのだろう。



 どうやら、中庭に当たるようだ。築山から水が流れ、川となって庭を巡る。

 小さな桟橋が掛けられ、川で区切られたスペースに庭石や草花があり、人工的は四季を表していた。


 その中で、ぽっかりと空いた空間は異様に目立つ。

 わざわざしめ縄で囲われており、敢えて手付かずだと知らしめている。


「ギシキ、ココ?」

「ああ。後は最後の舞が終われば、な」


 ()()()を考えると、頬が緩んでくる。




 気を引き締め、儀式の始まりを待った。




 周りから見えないまま、ジャピタを犬猫の如く扱って遊ぶ。次第に人が増え、しめ縄を解いて辺りを清掃し始める。

 かなり慌ただしい。一ヶ月の間に準備しなかったツケだ。イオはそれ以上は気にせず、ジャピタの相手に戻る。


 更に時間が経ち、帝一族やヒイラギの両親、他にも高そうな着物を着た人々が集まり出した。

 全員が主役(ヒイラギ)と今後の安寧を待ちわびている。



 その並びで一人、不釣り合いな少女がいる。

 やせ細り、腰まである黒髪には艶がない。綺麗な小袖は着せられているという言葉が当てはまる程、少女から浮いて見えた。

 表情も周りと違い、真顔。縦長の瞳孔を鮮やかな緑色が囲み、より不快感を強調している。



 ヒイラギの妹にして鬼女と呼ばれる少女。ヨモギだ。


 硬い表情のヨモギを挟む形で、三人のガタイのいい男性が立っている。

 逃亡の見張りと、不浄を目にさせない為の壁を担っているようだ。帝一族とは逆の意味で、人が離れている。



 帝、姫巫女、鬼女。()()()()()()



鬼女とのご対面

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