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7.ヒイラギ視点

 

 ヨモギの状態について聞けば、キンウが渋々答えた。


 民の怒りが全部ヨモギに向かい、まともに食事も取れず納屋にいるという。大切なヨモギも護れないキンウが、帝になっても大丈夫かと心配になる。

 同時に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()とうっすら思った。



 少しの時間だが、前の様にヨモギと食事や簡単な散歩をする。

 それだけでヒイラギの心は満たされていき、祈りをしっかりと行えるようになった。大社の人達も満足そうである。


 ただ、ヨモギの態度は変わらない。ヒイラギはヨモギに会いに来ているのに、キンウや両親に引き合わせて自分は部屋に戻ってしまう。

 追いかけようとしても、侍従達も合わせて引き止めてきて進ませてくれない。

 強行突破をしてヨモギと時間を過ごすと、次に会うヨモギがより酷く冷たくなるので無理は出来なかった。



 また少しすると、今度はすんなりと会えるものの、ヨモギの体調がよくない日が続いた。

 看病しようとしたが、ヨモギの方から止めてくる。


「私の代わりに、楽しんできて。()()()


 ヨモギからのお願い。ずっと待ち望んできて、何度聞いても心が弾む。

 叶えるのがヒイラギのする事だと、素直にお願いを聞いてあげた。




 若干物足りないものの、平和で楽しい時間だった。

 だがその時間は、今はなくなってしまった。




 異変の始まりは約三ヶ月前。ヨモギの誕生日、それも成人と扱われる十五歳という特別な日の一週間前だ。


 いつもよりも真剣な顔のヨモギは、真っ直ぐにヒイラギを見つめている。それが嬉しかった。



「姉上。()()()があんの」



 また、お願いをされる。ヒイラギは小躍りしそうな程に喜んだ。

 今度も絶対に、何でも叶えてみせる。

 その意気込みは、ヨモギのお願いによってどん底に叩き落とされた。




()()()()()()()()()()

「……へっ」

「姫巫女は外の世界に出ちゃダメ。てか、本当なら外の世界を知らずに祈り続けなきゃダメだって、姉上も知ってんだよね? ちゃんと守って」




 変に口の中が乾いて、上手く声が出ない。

 一つ一つの言葉が、刀みたいに刺さっている気分だ。


「ヨモ、ギ……? お姉ちゃんに、何で、酷い事……」

「……何言ったって聞かないから、説明とかしたくない。でもこれだけは言いたいわ。……その執着が、()()()()()んだよ。だから、私は、この眼で産まれたんだろーね」


 吐き捨てられた言葉が痛い。

 島が滅びる。何故、急にそんな話まで飛んだか分からない。

 しかし、ヨモギの言い方は真剣そのもので、嘘みたいな話も本当のように聞こえた。


 俯いて震える身体を抱きしめる。上目遣いにヨモギへ向ければ、氷みたいに冷たい目をしていた。

 あまりの怖さに、部屋を飛び出す。何で、どうして、疑問だけが頭を巡った。様子が変だと気づいたキンウや両親が心配してくる。


 ただ、今回の事は話したくなかった。気分が悪いと大社に戻り、ヨモギとの話し合いを詳しく思い返す。

 何度もえづきながら、結論に辿り着いた。




 ヨモギを唆した悪い人がいる。そうに違いない。




 そうと分かれば行動のみ。

 側仕えの一人に深くお願いして、ヨモギの様子を観察してもらう。知らない人がヨモギに近づいたら、報告してもらう体制だ。

 悪い人だから、ヒイラギの知らない人だ。つまり、側仕えの人も知らないはずだ。


 すると、予想外の報告が来た。ヨモギが外に出たのだ。この状況でなければ喜ばしい事だ。


 誕生日の前日、翌日にはヒイラギも呼ばれている誕生会があるというのに、自分から外に出る。何かあったに違いない。

 急いで外に出て、報告にあったヨモギが行った方角へ馬を走らせる。

 確か、その近辺を見渡せる小さな丘がある。そこへ行き、ヨモギの姿を探す。


「ヒィッ……!」


 いた。ヨモギと、知らない男。この島の民ではない、金の髪が遠目でも目立つ。

 その男が、ヨモギの腕を掴んで引いていた。その先の木に馬が繋がれている。



 全て察した。あの男が元凶だ。

 ヨモギを騙し、内裏から出させ、島の外に連れ出そうとしている。




 ()()()()()()。ヒイラギは迷いなく、弓を構えて矢を放った。




 当たり前のように習っていた弓術は、この為だったのだろう。

 この程度の距離なら、確実に当たる。そして、姫巫女として過ごす中で学んだ術も合わせた。


 神の力、アマノ様の御力を込めた矢だ。

 真っ直ぐに進む矢はヒイラギの狙い通り、男の頭に突き刺さる。

 次の瞬間、白い光を放ち()()()()()()()。さすが、()()()()()()()()だ。


「ヨモギ! 今、お姉ちゃんが迎えに行」


 その場に座り込んだヨモギへ、安心させようと声を上げていた時だ。




 地面の至る所から、黒い霧が吹き出した。



 すぐ近くでも広がったそれに、寒気が走った。

 ()()()だ。良くない事が起きる。


「すぐにヨモギを連れ帰るわよ! 急いで!」


 追ってきた側仕え達にそう言って、ヒイラギはすぐにその場から離れた。

 放心しているヨモギを内裏に帰し、大社に戻る。



 屍食鬼が現れ、人を襲った。その報告は、僅か数時間後にヒイラギの耳へ入ってきた。


非日常は突然に

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