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2.

 

 イオの前で恭しく頭を下げる人々。十人程度の少数で、着物に軽鎧と刀、弓を持っている。

 正直、グール相手に装備が少ない。率直な感想を飲み込み、水槍の先に目を向ける。



 屍肉を好んで食らう魔物、それがグールだ。


 外見はイヌ面の人型であったり、ハイエナの姿であったりと世界によってまちまちである。

 中には魔術による変身を使う場合がある為、外見上の特徴は定まっていない。

 屍肉を食らう生物をグールと思ってもいいだろう。食べ続けた人間から変異する例もある。


 腹を満たす為に墓を荒らし、生者に手をかけ、屍肉を喰らい続ける。それだけの魔物だ。


 仲間でさえ例外では無い。この死体も棄てれば、グールが集まってきて面倒だ。

 水槍に魔力を込め、調節しながら水を生成する。突き刺さったままのグールに水が溜まり、徐々に膨れ上がり、全身くまなく破裂。

 細かい破片が砂に混じり、判別出来なくなる。処理の完了だ。



 視線を戻せば、人々はまだ頭を下げていた。それに対し、イオはわざとらしくため息を着く。



「いつまでそうしているつもりだ? 早くしないと、()()()()()()()()()()()()()()()ぞ?」


 イオの言葉に人々は慌てて顔を上げた。そして、グールの居なくなった浜へと掛けていく。


 その中で、一人の女を凝視した。

 神の力を身体に宿している女。恐らく神使えの巫女で、儀式を行うべく神の力をどこからが借り入れたようだ。


 人の身には余る力は、ちょっとした衝撃で一気に抜けていく。

 その為、巫女だけは静々と歩き、準備する付き人達を眺めていた。

 しかし、()()()()()()気がする。グールを消滅させた矢に力を込めていた分を考えても、巫女にしては少ない方だ。

 その巫女に頼らざるを得ない状況。不可思議な一行である。




 浜の整備が終わったようだ。

 整えられた砂浜に、四本の篝火が建てられた。土台が木の板であり、砂に埋める形で立っている。

 一人から手渡された神楽鈴を持ち、巫女が中央に行く。深呼吸をした後、口を開いた。




「《神降ろしの儀》」




 一言だけ告げ、儀式は始まった。



 巫女が舞う。ゆっくりと優雅に、鈴の音を響かせる。その度に、纏う神力が粒子となって飛び散る。その地に神の力が宿るよう、染み込んでいく。


 幻想的な光景に、こちらまで戻ってきていた付き人達が見惚れていた。それを横目に、イオは儀式を見守る。

 貯めていた神力を、惜しみなく注ぐ巫女。

 付き人にはそう見えているだろう。だが、イオの目には異なって映る。


 ()()()()()()()()()()()


 貯められる神力の少なさも然ることながら、放出する力にも無駄がある。

 崇められている割には、神との繋がりが薄い。そうとしか思えなかった。

 イオの推測を証拠付けるかのように、次第に巫女の顔が曇っていく。玉の汗が滴り、疲労の色がありありと浮かぶ。神力の調整が下手な所為だ。


 何とか最後まで舞い終えたが、途端に息を荒らげて膝を着いた。慌てて付き人達が近づいて解放する。

 当人達は真剣だが、邪神達(こちら)からすれば茶番だ。ジャピタも同じ感想で、不服そうな顔だ。


「イオ〜。アレ」

「言いたい事はわかる。何か事情があるようだな。その辺、聞いてみ」

「ば、バケモノ!?」


 引きつった叫びが言葉を遮る。見れば、付き人の一人が顔面蒼白になってジャピタを指している。

 その声に他の人も気づいては怯えの顔になった。

 人魚(マーメイド)やグールは受け入れているにも関わらず、ジャピタには恐れ戦いている。未知の生物だからか、見た目が凶暴そうだからか、あるいはその両方だろう。

 イオの首元で佇んでいる姿と呑気な雰囲気が汲み取れないようだ。


「コイツはアタシの連れだ、敵意は無い」

「ヨロシク〜」

「ヒィッ!」

「姫、巫女様っ!」


 ジャピタが無邪気に挨拶したものの、恐れる心には伝わらないらしい。一目散に巫女に助けを求めた。

 これでグールによく立ち向かえたものだ。逆に考えれば、見慣れる程にグールが出没しているのだろう。どちらかと言えば、珍しい方である。


 付き人達の声に応え、巫女が立ち上がった。

 まだ万全ではないようで、少しふらついている。

 それでも、イオとジャピタを眺めた後、付き人達に優しく微笑んだ。


「大丈夫よ、皆。この方は私達を助けてくれたでしょ? それなら、()()()だわ。その方に付いているなら、その黒い生物も()()()に違いないわよ」


 曖昧な内容を巫女ははっきりと述べた。

 それで納得できる奴はいないだろう。その予感とは裏腹に、付き人達から不安や恐怖が消え失せ、安堵へと変わる。


 巫女の言葉だから、無条件で信用できる。崇拝というより、盲信に近い。

 それに、巫女の態度もどこか引っかかる。

 怪しむイオの心など知らず、巫女は小さく頭を下げて話しかけてきた。


「初めまして。私はヒイラギ、この戸子照島の姫巫女よ。二人の名前は?」

「…………イオだ」

「ジャピタ!」

「イオにジャピタね。二人はこのまま、私を手伝ってくれるのよね?」

「は?」

「だって、助けてくれたじゃない。()()()でしょ? だからお願い、ね?」


 訳の分からない理論でヒイラギは笑いかけた。その後ろから、付き人達が肯定しろと圧を掛けてくる。



 今までのやり取りで、この一行を大まかに把握した。



 無意識に高慢的なヒイラギと、イエスマンの付き人達。どちらが先かは不明だが、負の相互関係だ。部外者(イオ)が指摘した所で、どうにかなる関係ではないだろう。

 それよりも、ヒイラギの傍で情報を得た方がいい。強引に誘われて驚いただけで、都合のいい展開である。


「分かった。同行させてもらう」

「ええ、よろしくね」


 イオの返答に、付き人達の表情は笑みに変わった。姫巫女の思惑通りに進んで満足そうだ。

 逆に、ヒイラギは笑顔のまま言葉を返す。他の返答など考えていなかったから、この状況を当たり前に受け入れ話を進めている。


「いろいろとお話したいけど、ここでは屍食鬼が来るかもしれないわ。野営に向かって、着いてから話を始めましょ」

「移動しながらでも会話はできるが?」

「それだと、じっくりとお話できないじゃない」


 ヒイラギが苦笑する。その反応に、イオは一瞬だけ固まった。

どこか歪な関係

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