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「どうやら、このダンジョンの崖上にワープさせられたみたいで……気がついたら叔父さんとヘマタイト達がいて、手当てしてくれたんです」


 そこまで話した陽平は、飲み物に手を出した。冷たい飲み物を、音を鳴らして飲む。緊張による口渇もあったようだ。

 隣で大賢者が首を縦に振っており、続きを引き受けた。


「陽平殿の『ドローイング』は覚醒もクソもありませぬ。生命の源とも言うべき血を滴らせてこそ、発動する能力になりますぞ。偶然、怪我をした陽平殿の血が某の絵に付き、この通り顕現! 同時に緊急事態! 某、冷や汗だっらだらでしたな!」


 当時を思い出しているようで、大賢者の笑いは乾いている。今も汗を滴らせており、布で拭っても意味がない様子だ。

 ただ、絵面がよくない。視線を若干避けつつ、イオは口を挟む。


「随分と都合のいい流れだな……」

「眷属殿もわかっておりますな! そう、正しく王道的展開! ここから始まる陽平殿の快進撃!」

「…………それで? 運良く生き残った陽平の力で、この街と住民を造った、と」

「はい。でも、叔父さんが言うような事はしないです」


 改めて陽平が答える。物憂げな気持ちを表すように、コップを握る手に余分な力がこもっていた。


「もう、嫌いな奴なんかに関わりたくない。この街で、叔父さんや皆と楽しく過ごせれば幸せなんですよ。そう思ってたけど、きっと、心のどこかで憎しみがあったみたい」

「ですな? 邪神殿と眷属殿が来られたのが何よりの証拠! 憂いを残すべからず! 神はそう言っておりますぞ!」

「うん。だから……カレン達を、懲らしめてください。お願いします、邪神様」


 真面目な顔で、二人は同時に頭を下げる。頭頂部を眺め、イオは大きくため息をついた。返答は決まっている。





「アンタらの気持ちはわかった。だが、()()()()()だ」





 感情を込めず、事実だけを単直に告げた。勢いよく上げた二人は戸惑いを隠せていない。断られると微塵も思っていなかったようだ。

 こういう展開は初めてかもしれない。イオは再びため息をつき、口を開く。


「話を聞く限り、アンタが強い負の感情を抱くには当然の内容だ。復讐したいと願ってもおかしくない」

「だったら……!」

「しかし、()()()()()()()。アンタ、()()()()()()()()()()()()()?」


 陽平の反論を遮り、イオは言い放つ。

 図星らしく、陽平は目を泳がせた後に静かに俯いた。大賢者がその背を擦っている。


 親と叔父を失い、憎い相手に付き従った屈辱の日々。その詳細を話すとなれば、感情が溢れ出るものだ。

 冷静を装っても、滲み出る負の感情は止められない。

 抱えている負の感情が多い程に多くの箇所で感情的になり、負の感情が深い程に一度で強く感情を表す。




 だが、陽平にはそれがなかった。



 多少、言いにくそうな所はあったが、その程度だ。

 自分の過去を話すというより、記録として残してある文章を読み上げる。

 だから冷静で、どちらかといえば客観的に伝えられた。そういう印象だ。




 イオとジャピタは負の感情目当てで動いている。復讐劇はイオの趣味であって、主目的ではない。

 食事ができないなら、手を貸す義理はない。




「そ、それでも……邪神様は、来てくれました……」

「ああ。不思議な点で、気に食わない点だ」

「どういうことですかな?」

「ジャピタが大きなエサに反応したから、その近くであるここに来た。だというのに、可能性が一番ありそうなアンタには反応していない。じゃあ、相手は誰でどこにいる? そこが不思議な点。気に食わない点は、陽平の受動的な姿勢だ」


 嫌いな相手から離れ、大切にしてくれる人達との生活。

 それに陽平は満足していた。イオ達が現れて初めて、敵にやり返したいと考えた。


 甘い。甘すぎる。

 高みにいる敵を引きずり落としてやると醜くも足掻いて、手が届かなくても睨んで射殺そうとする。

 その位の根性がある人物でなければ、イオが求める喜劇の主人公に相応しくない。

 目の前に手段が出来たから復讐しようなど、馬鹿にしている。


 この点も考慮すれば、陽平は取引相手としては不合格。宛が外れた。

 ならば、イオがすべき事は一つ。この場所を出て、本当の相手を見つける事だ。


負の感情(エサ)がなければ、話にならない。アタシらは帰らせてもらうよ」

「待っ」

「引き止める気か? なら、辛かった日々を糧に怨みを募らせろ。アタシらの食指が動くような、濃厚で豊満な復讐心がいいな」


 伸ばした手が空中で止まり、中途半端に立ち上がりかけた陽平は椅子にもたれかかった。

 手で顔を覆い、形にならなかった声を漏らす。無念さか悔しさか。イオにはもう関係ない。

 呑気に横になっているジャピタを叩き起し、イオも立ち上がる。そのまま部屋を出ようと振り返り、眉をひそめた。


 ヘマタイトが扉の前で仁王立ちしている。両隣を胡蝶、エーチで固めていた。

 三人共、イオ達を険しい顔に鋭い目つきで凝視している。

 先程までの友好的な態度が一変、今にも襲いかかってきそうだ。


 邪神と分かった上で、この敵対心。余程、想像主(陽平)が大切なようだ。

 それでも、イオにはどうする事も出来ない。する気がない。


「そこに居られると邪魔だ、退け」

「断る」

「主を嘆かせた罪は重いぞ」

「そう言われても、コッチは慈善事業じゃない。見返りが得られないなら、話は終わりだ」

「でも~、主様を追い込むのは酷〜い」

「アタシの知ったことではないね。事実を告げただけだ。慰めなら、アンタらがやればいいだろ? アタシらはさっさと帰らせてもらう」


 徐々に邪神の力を解放していく。圧をかけても、擬態を解いたイオを見ても、顔色一つ変えない。大した忠誠心だ。


 餌を見つけていない状態で戦闘は避けたいが、避けられそうもない。エネルギー消費を最小限に抑えてここから出よう。


 最適行動を模索するイオの背後で、肉を叩く音が響いた。不意をつかれて思わず肩が跳ねた。


改めての説明。

ジャピタのエサは八つ当たりや逆恨み、自己否定でも負の感情なら何でもOKです。味に差がありますが、ジャピタは食えればいいレベル。

高みの人間が堕ちる様な復讐のエサは、イオが楽しむ為に選んでいます。あと、その方が美味しいです。


二人にとっての取引によるその後の結末は、高級ディナーショーを楽しんでる感覚です。


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