10.陽平視点
過去編ラスト
「何よココ! キモイキモイキモイ!」
カレンが嫌悪感全開で、喚き散らす。
取り巻きの五人が落ち着かせようと声を掛けているが、一緒に周りの人達が話しかけて来る為に止まらない。
リキヤから命令され、陽平が周りの人達に事情を説明した。
五人からすれば損な役回りだろうが、陽平にとっては得な役回りだ。カレンに関わるより何百倍もいい。
話していると王道的な魔道士達とわかり、内心でテンションがより上がった。
やっとの事で落ち着いたカレン。そのまま、傍にいた騎士の案内で、玉座の間に行く。
見るもの話すもの聞くもの全てが想像していた異世界。楽しくて仕方ない。
カレンに心酔しているユウセイと運動好きなリキヤ、交流が好きなラックの三人はつまらなそうである。
逆に、流行に敏感なトモキやプログラミングが趣味なハヤトは、隠しているが楽しんでいる。
後ろから見れば丸わかりだ。
「よくぞ参った、勇者殿よ」
「お待ちしておりました」
異世界物のテンプレをなぞる様に、王様と王女は魔王討伐を依頼してきた。
魔王が魔物を支配し、村や人を襲い、各地にダンジョンが増えている。
平穏を求めて、古より伝わる秘術に手を出したという。
早く帰らせろとカレンはごねたが、魔王討伐しないと言われて渋々大人しくなっている。
巨木が迫ってきた恐怖を思い返すと、向こうでは死亡扱いだろうと陽平は直感した。
しかし、ダンジョンが発生ではなく増加という言い方は珍しい。詳しく聞くと、ダンジョン自体は元から存在していたようだ。
時間経過で魔物も宝物も発生する為、冒険者が一攫千金を目指して望んでいた。
だが、魔王の存在によってその数も難易度高いも跳ね上がり、名だたる冒険者が亡くなっているという。
「そんな奴らがお陀仏なら、ボク達はもっとヤバヤバじゃん!」
「いえ、勇者様方には、我々にはない力をお持ちでしょう。過去の勇者様方も、各々が類を見ない強い力をお持ちでしたから」
「過去の勇者殿も困惑していたという。だが、鑑定の魔法道具がある。これにて、皆様の力を確認して頂こう」
国王の言葉に、カレン達がいなければ飛び跳ねていただろう。
テンプレートを綺麗に進んでいる。ワクワクが止まらない。
命令を受けて、魔道士達が恭しく水晶玉を運んできた。一人が抱える程の大きな青白い水晶玉だ。
それが転がらない様に設置して、一人が実演してくれた。
手をかざすと、正しくゲームのステータス画面が空中に浮かぶ。感動で息を飲んだ。
害がないとわかり、カレンが勝手に順番を決める。陽平の浮ついた顔が気に入らないと、最後に回された。意味がわからない。
だが、長年の習慣は異世界に来たから無くなる訳がなく、無言で従うだけだ。
陽平達のステータスは、全体的に実演者よりもやや高い。
歳の差を考えると、かなり高い能力値だろう。これも、異世界転生による恩恵に違いない。
それに加えて、カギ括弧で示された一文がある。最初に鑑定したカレンには、『フルリカバリー』と表記されていた。
固有能力、固有スキル。興奮のあまり、心臓がバクバクと大きく鳴っている。
早く知りたい。焦る気持ちを抑えつつ、順番を待つ。
他の五人も終わり、遂に陽平の番だ。緊張と興奮で口が乾いてきた。無意識に唇を舐めた後、ゆっくりと水晶玉に手をかざす。
現れたステータスは、他の六人よりもやや劣る。その中でも、魔力だけはユウセイと同じくらいでかなり高い。
それよりも、固有能力が気になった。
『ドローイング』。
他の六人とは違い、読んだだけでは分からない。首を傾げる陽平に、魔道士の一人が声をかけた。
「これほどまでに魔力特化なら、固有の力も魔力に関わるかもしれません」
そう告げられて、簡単な魔力操作法を教えてもらった。言われた通りにすると、体の中で熱くドロドロした物が動く感じがする。
掌に集めてみると、一定量に達した瞬間に魔力が消えて物量がある物に変わった。
陽平が好んでいたスケッチブックと筆記用具一式だ。
途端に、カレンが吠える。
「ちょ、それ! またキモい絵とか描く気!? そんなの嫌!」
うるさく吠えながら、陽平からスケッチブックを取り上げる。そのまま床に叩きつけ、踏みつけようとした。
だが、見えない何かに阻まれたらしく、カレンは弾かれた勢いで後ろに転がった。
足を押っ広げて転んだから、スカートの中が丸見えだ。興味ないため、無事なスケッチブックを取り戻す。
「ヨー君! 何でカレンを心配しないの!? それに今の何!? 酷い酷い!」
「勇者様、落ち着いてください……! 魔力で出した物は、本人の意思で何度も出せますから、意味がないかと」
「意味がない!? カレンに命令しないでよ! あーもうムカつくキモい無理!」
魔道士達に抑えられながら、カレンはまだ暴れている。
加勢してくる男達に、さらなる人数で止める城内の人々。混乱だ。国王の方を見れば、頭を抱えている。無理もないと思った。
そうして、異世界生活が始まって数ヶ月。
徐々に戦闘に慣れていく取り巻き達、ふんぞり返って回復をかけるだけのカレン。その中で、陽平は荷物持ちにされていた。
別に構わない。壊される事も破かれる事もなく、好きに絵が描ける幸せを噛み締めていた。
長年のブランクはあるが、何度も描いていれば徐々に戻っていく。使っていても紙が劣化していく様子はない。
これも、魔力で出したスケッチブックの力だろう。
逆に、残しておきたいイラストは汚れなどもつかずに綺麗に残る。スケッチブックを出し入れしても問題なかった。
感が戻ってきて、叔父と共に描いた三人を描き直す。その後に、記憶に残る叔父を描いた。
この異世界に合う服装を合わせ、何でも知っていた事から二つ名は『大賢者』。二つ名は単なる趣味だ。付けるだけで笑みがこぼれる。
「邪魔だ。後ろにいろ、クズ」
「あのさー。いつになったら、お荷物君から卒業すんの?」
「ほんそれ! まじイミフ!」
「約立たず、タダ飯食らい、消えた方がいい」
「その通りです! カレン様のお傍にいるだけなぞ言語道断! ゴミ箱に屠るべきです!」
日が経つにつれ、周りからの暴言が激しくなる。『ドローイング』の効果がわからず、戦闘に役立っていないからだ。
スケッチブックが出てくるだけ、見る度にカレンの機嫌は悪くなる。陽平を貶す事で、自分の好感度を上げたいようだ。
ただ、前の世界でも同じ扱い。絵が描ける分、今の方が状況はいい。なので、陽平は気に止めなかった。
それが癪に障ったらしい。運命の日、新しいダンジョンに入ってすぐ。
突然、陽平は全員から暴行を受けた。
ここまで露骨な暴力は初めてで、あちこちに痛みが走り血が滴る。蹲る陽平に、カレンはしゃがんで話しかけてきた。
「ヨー君、どう? 能力、使えそう?」
「な、にが……」
「だーかーらー! 『ドローイング』? まじキモイし使えないじゃん! 皆に調べてもらったんだけど、そーゆーのって死にかけると覚醒するんだって!」
カレンの満面の笑みが、何時もよりもより悪魔らしい。
追放された無能力者が覚醒する、そういう話も確かにある。だが、酷くてもダンジョンに置き去り程度だ。ここまで痛めつける必要はない。
単に取り巻きが鬱憤晴らしに、カレンを言いくるめた。カレンの為に覚醒する男なぞ、さぞかしカレンの心を擽る展開だろう。
「これ以上、無意味」
「だなー。ユウセイ、シクヨロ~」
「ええ、ええ。ずっと飛ばしたいと思っていたので、とても清々しい気分ですよ」
にこやかなユウセイが杖を掲げた。全員が、気持ち悪い表情で陽平を見下ろしている。
様々な感情がごちゃ混ぜになり、吐き気がした。
「『無指定転移』」
一瞬で景色が変わり、身も心も落ちていく感覚がした。
ちょっと駆け足気味でしたかね?
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