12.ファナン視点
ざまぁラスト。
熱い。寒い。暗い。痛い。痛い。痛い。
全身の感覚がおかしい。眼球がなくなってから、自分の身体がどうなっているか分からない。
見えない分、拷問官が説明しながら行う作業が、より一層の辛い。
悲鳴をあげすぎて、声が出ない。ビリィ、ララ、ミズリーナの安否など、もはや気にかける余裕も無い。
何故、こうなったのか。
オリーブが自分に振り向かないのが悪いのに。
あの女が惑わしたのが悪いのに。
勝手に魔王級を倒した奴が悪いのに。
ここまでされても、ファナンは自分の非はないと思っている。それは、他の三人も同様だった。
だからこそ、皇帝は拷問官に死なせるなと命じている。きちんと処刑するのだと、拷問官が笑っていた。
「処刑の時間だ」
無慈悲な言葉と共に、首輪を付けられて引きずられる。
数多の傷が地面に擦られて痛い。そう言いたいのに、まともな言葉が出てこない。
「あれは酷い……今までにないレベルだぞ……?」
「若い女って話だが、全然分からないな」
「バケモノよ……!」
「処刑されるのも納得だな」
ざわざわと耳障りな声が聞こえてくる。大勢の人が集まっているようだ。公開処刑なんて悪趣味すぎる。
胸の内など誰も知らず、力の入らない体を立たせられる。執行人が罪状を読み上げている間に、両腕と膝を曲げて固定され、ヒヤリと冷たい物が股部に当たった。
「以上の事より、この者達を串刺しの刑に処する!」
串刺し刑。聞いたことはあるが、意識も朦朧としている今では思い出せない。
そして、宣言の瞬間に体の支えがなくなった。
「ぃ、ぎぃ……!」
自重で沈む体に、冷たい細長い物が体内を進む。
痛い、痛い、痛い。歓声が喧しい。残った歯を食いしばり、痛みから逃れようとする。
だが、進入を防げるものでは無い。体を突き進む鉄の感触を直に受けながら、ファナンの意識は少しずつ薄れて消えた。
「ここがお前たちの部屋だ!」
楽しそうな声と突き飛ばされて倒れる体。ハッとファナンは起き上がる。いや、起き上がれた。
それに、目の前が見える。無機質な石造りの粗末な部屋。後ろを振り向けば、見覚えしかない拷問官が鉄柵に鍵をかけていた。
「え、何、何!?」
おかしい。自分はいたぶられた後に公開処刑されたはず。
元通りの視界で自分を改めて見れば、拷問の形跡は微塵もない。
「ちょ、おい! 待てよ!」
「ララ、死んだんじゃないの……?」
「どういう事ぉ……?」
隣の牢から、仲間達の声が聞こえる。戸惑いの声は、ファナンと同じ状態だと伝わってきた。
何が起きているのか、さっぱり分からない。
混乱するファナンとは裏腹に、外では拷問官達が楽しそうに笑っていた。
「いやー。まさか、こーんな美女達を責められる日が来るとはなー!」
「ほんとそれな! サイッコー!」
「色々やったらしいぞ。その分、俺達も愉しめるぜ」
「選り取りみどり〜。とりま、先に爪全部剥がそーぜ? 先にやっときゃ、伸びてまたできるし」
ゲラゲラ笑う拷問官達に、寒気が走った。内容もそうだが、問題は言葉。
一言一句、間違いなく聞き覚えがある。
投獄初日に、されていた会話だ。
一つ、非現実的な予想が頭に浮かんだ。
投獄された日に戻ってきた。
そんな事、あるはずがない。思い込むファナンに対し、外から拷問官が話しかけてきた。
「おーい、聞こえてるかー? 道具持ってきたら、キレーに爪剥がしてやるぜ〜」
「ヒッ……」
ファナンの記憶と全く同じ言葉だ。
なら、本当に時が戻ったのだとしたら。
再び、拷問の日々が待ち受けている。
「いやっ、いや!」
「ウソなのウソなのウソなのウソなの!」
「助け、助けてぇ……!」
「有り得ねぇ……有り得ねぇよ……」
頭はこの先の絶望に逃げようとするが、身体が動かない。
拷問などされるはずがないと、最初は牢屋でじっとしていた記憶がある。その時と同じ、壁に凭れて座るしかできない。
頭がどんなに司令を出しても、身体が言うことを効かない。
なら、この先に待ち受ける苦痛を知っていても、逃れられない事を意味する。
「何で、何でぇ……!」
泣きたいのに涙が一滴も出ない。暫くして、鉄柵を開く絶望の音が響いた。
次回、エピローグで第1章終わりです