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8.陽平視点

 

 叔父は今朝、冷たくなった状態で道に横たわっていたらしい。

 身体のあちこちから血が出て、骨が折れて酷い有様だったという。駆け付けた親戚達も見せてもらえない程だ。



 原因は複数人からの暴行。財布とかが無くなっていたから、金品目当てだろうと警察は言った。



 何故か、一番に陽平の両親にその連絡が入り、二人は車で病院に向かった。その最中に、交通事故にあった。

 別の車が追突して、停まっていた大型トラックに衝突して、即死だったという。

 だが、事故が起きた原因が分からないと警察が言う。親戚達が詰め寄ったが、警察も困っていた。



 ドライブレコーダーが三台とも動いていなかった。

 追突した車の運転手は消えていて、車の登録もしてなくてナンバーも偽造。

 大型トラックは配達業の会社名があり、積荷にはガラスの何かがあったようだが、全て粉々になっていたらしい。

 



 大好きな三人の死。陽平はその事実も現実も受け止めきれない。




 物の動きが視界に入り、音が耳を通り、椅子に座っている。それ位しか感じておらず、親戚達が心配しているとは分かった。

 最初は励ましていた親戚達は、陽平のショックの大きさに様子を見ることにしてくれたようだ。その方が楽だった。




 どの位、そうしていたか分からない。急に子供が近づいてきて、その顔を見覚えがあった。

 そのまま、目を丸く見開く。

 


「ヨー君、やっほ〜!」



 場違いな明るさで、七星が手を振っている。訳が分からない。動揺する陽平に、七星は腰に手を当てて告げてきた。




「ヨー君には悪いんだけど〜。()()()()()()()()()()()()?」

「……………………は?」

「えー、分からないのー? しょーがないな〜」




 どこまでも上から、それでいてどこかウキウキしながら七星は説明する。



 大型トラックの積荷は、七星のコレクションだったらしい。

 海外の有名なガラスメーカーの物で、美しいが壊れやすい。それを今の屋敷に引越しさせる途中で、事故が起きた。


 説明されてもピンと来ない。困る陽平に、七星は鼻で笑った。


「だ〜か〜ら〜! ヨー君の両親が壊した物、弁償してって事よ!」

「な、何でっ、パパとママの所為じゃない! 追突した車の人に払わせてよ!」

「モチロンそうするけどさぁー。その人、今居ないじゃん? パパやジィジが探すってゆうけど、見つかるかわかんないし? そもそも〜、ヨー君の両親が上手くすれば、カレンの物は壊れなかったでしょ?」


 ごく自然に、当たり前だと言うように、カレンは髪先を遊びながら言う。

 目の前の女が、何を言っているか本当に理解できない。

 事故に巻き込まれた相手に、それも亡くなった人相手に、弁償の責任を負わせる。馬鹿馬鹿しい。ありえない。


「そういう嘘、止めてくれる? コレクションが七星のっていうのはいいとして、その後が意味不明だよ。僕を見つけたからって、この場でからかいに来るとか信じられない」


 この状況といつもの不満が混ざって、自分で思ったよりも冷たい声が出た。

 途端、七星は顔を真っ赤にして怒鳴りつける。


「カレンをバカにしたわね!? ホントのホントなのに! ヨー君の両親の弁償はヨー君がするの! しないなら、()()()()()()()()()()()()()から!」

「……は?」

「またバカにしたぁー! 立場わかってな〜い! あのね〜、ヨー君のおじいちゃんおばあちゃん、それに他の人達から弁償してもらうって事だよー? パパにお願いしたら、簡単にやってくれるもん」


 どこまでも明るい七星の言葉に、陽平は本気だと実感させられた。


 七星財閥が関わっていない場所など、壱樹のいたクリエイター業界しかない。

 他の親戚は、少なからず七星財閥が絡む仕事だ。

 祖父母は七星財閥が関わる地域支援というものに頼っていて、いとこ達の通う学校も七星財閥と関わりがある。



 そこに令嬢の物を壊した責任を取れなど言われたら、金を払っても払わなくてもろくな事にならない。

 皆が不幸になってしまう。それを、目の前の女は罪悪感もなくやってのける。



 顔色が悪くなっている気がした。気の所為じゃない。

 ただ、陽平の顔を見た七星が勝ち誇った笑いをしていたから、酷い顔をしていたと思う。


「やっと立場わかったのー? ヨー君ったらホント、わからず屋だね〜」

「止めて、止めてよ……」

「え〜、どうしようかな〜? なーんて、ウソウソ! ヨー君がちゃーんと弁償してくれるなら、カレンはそれでいいよー」


 クスクスと笑いながら、同級生に弁償を求める女。陽平の目には、悪魔にしか見えない。確実に悪魔だ。



 金持ちのコレクション。陽平が想像もつかない金額だろう。

 両親が亡くなって入るらしい金も、この女からすれば満足できないはずだ。

 でも、陽平が払いきれなければ、親戚達が不幸になる。

 それでも小学生に金策のいい案が思いつくはずがなく、不安で震えてきた。



 不意に、七星の手が陽平に伸びてきた。避ける気力もなく、頬が両手で挟まれる。

 そのまま顔を上げさせられ、七星と目が合うようにさせられた。


「とーってもいい方法があるよ。っていうか、ヨー君はそれしかないんじゃいかなー?」

「方、法?」

「そうそう!」


 晴れやかで、忘れられない程に残酷な笑顔で七星は言った。





()()()()()()()()()()()使()()()()!」






 七星が言うには、陽平は住み込みで七星の付き人になる。その給料をそのまま弁償に充てるという。




 大切な三人を亡くし、嫌いな相手に従わなければならない。

 陽平の地獄の始まりだった。



私事の為、2/6(火)はお休みします


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