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約半年ぶりの投稿です!
遅くなりましたぁ!(土下座)
「……またか……」
次の世界に降り立ったイオは、自分の身を包む熱気に気落ちする。
ここ数回、人魚が苦手な暑い場所が続いている。湿気や水溜まりが恋しい。
見た限り、石でできた空洞だ。手入れされた形跡もなく、自然の洞窟だと伺える。
通常、こういう洞窟は湿気が高く気温が低い。だが、今いる場所はゆっくりと茹だるような、気怠い熱さが満ちている。
恐らく、マグマ溜りがあるのだろう。逃げ場のない熱気が溜まり続け、壁自体も熱くなっているようだ。
ジャピタが不注意で尾を壁に付け、瞬時に悲鳴を上げて尾を引いていた。
涙目で尾に息を吹きかけるジャピタに、収納魔法からポーションを取り出して投げる。器用に体で受け取り、中身を飲み干すまでイオは見守った。
「カイフク! アツイ! イタイ!」
「そうみたいだな。落ち着いたなら、近くの生命反応を探知してくれ」
「ハーイ」
汗で肌に張り付くインナーに隙間を作りつつ、ジャピタの探知結果を待つ。
わざわざ洞窟内部に降りたということは、同じ洞窟内に取引相手がいるはずだ。早く見つけて、餌にありつきたい。
暑い場所はどうしても急く気持ちを抑えきれない。人魚として、かなり強い本能なのだろう。
「イオー、イオー」
「もう分かったのか? 案外、小さな洞窟だな」
「チガーウ。モンスター、イッパイ、ダンジョン」
ジャピタの言葉に、顔を顰める。面倒な場所だ。
世界によって細かい定義は異なるが、一定数の敵対生物と宝が一定周期で湧く敷地がダンジョンと呼ばれる。
敷地内を縄張りと認識し、範囲内へ侵入した者に明確な敵意を示すモンスター。
亜人、猛獣、植物にダンジョンの特性が加わっている場合が多い。これが無機物となると、トラップ或いは罠になる。
宝は文字通り、その世界にとっての希少な物だ。
大金、宝石、薬、武器や防具などと千差万別。ダンジョンの醍醐味とも言える為、宝箱狙いを狩るミミックといった派生モンスターも多い。
そして、侵入者。所謂、冒険者という職業であり、ダンジョンがあるということは、攻略を生業とする者が一定数いる。
そういった冒険者達は、ダンジョン内にいる人魚を敵だと認識し、即座に武器を向けるだろう。
話し合う余地どころか、こちらの話を聞く耳を持たない。
貴重なエネルギーを消費させられ、戦闘音を聞いて増援が駆けつける時もある。それでいて、得られる情報はゼロだ。
一番面倒なパターンである。できれば避けたい。
だが、ダンジョン内のモンスターはまともな情報を持っていない。そもそも、話す知能を持つモンスターがいないのだ。
これに関しては、仕組みがどうなっているか知らない。
魔王がいる世界だと、その配下がダンジョンを支配して最深部にいる例もある。
それを目指すより、外へ向かう方が確実に情報は手に入る。そうすると、高確率で冒険者達に出会う。
要するに、時空間から入った場所がダンジョン内だと、至極面倒くさい。その一言に尽きる。
まだ何も知らない状況で、エネルギーだけを消耗するなど冗談では無い。
「ジャピタ。冒険者達を避けて外に出られそうか?」
「ムリ」
珍しい即答に、数秒程呆けてしまった。速さもそうだが、弱気な断言も滅多にない。
「随分とはっきりと言うな……入口を陣取っている連中でもいるのか?」
「チガウ。ナカ、シューラク」
「は……はぁ?」
聞き間違えかと目を丸くしたが、ジャピタは真剣な顔で首を縦に振っている。間違えではないらしい。
ダンジョン内に集落。普通に考えれば有り得ない。
同種モンスターの群れならまだしも、集落ともなれば知性ある生命の集まりだ。
わざわざ危険なダンジョンを住処にしようと、誰が考えるか。ある程度の人数が集まらなければ決行しないはずだ。
稀に、ダンジョン内に商人が居る事もある。しかし、多くはダンジョンに発生したモンスターの派生だ。
冒険者にぼったくり価格で物を売る。万引きした冒険者を八つ裂きにする。そういう『商人』という名のモンスターである。
思考を巡らせても、ピンとくる発想は出てこない。その上、何故かジャピタが腕を引いてくる。
振りほどいても、しつこく頭を絡ませるジャピタ。熱さで若干沸点が低い今、単純な行為でも癪に障る。
「止めろジャピタ。構って欲しいなら後にしろ」
「イオ、スズシイ、イク?」
「……………………今、何て言った?」
「イク?」
「その前」
「イオ」
「その後」
「スズシイ!」
スズシイ、すずしい、涼しい。
つまり、この熱気から解放される場所。
結論に辿り着いたイオは、目の前で誇らしげなジャピタの顔面を鷲掴みにした。
「ギャアー!」
「それを先に言えぇ!」
「ゴメン!」
力込めて握れば、ジャピタは謝罪を口にしながら尾を左右に振る。
こういうやり取りは、もう何度かしている。その度に人魚の本能について話しているはずだが、頭から抜け落ちるようだ。
今回は鷲掴みのまま、ジャピタを眼前に持ち上げて睨みつけた。
「さっさと涼しい場所に行くぞ。異論はないな?」
「アル! シュウラク、チカク!」
「……なるほど」
涼しい場所の近くに集落。まとわりつくような熱気が常にある場所と、それより涼しい場所を比べれば、後者が住みやすいに決まっている。
最も、ダンジョン内に住む考え自体が初ケースだ。集落に行けば情報を得られるだろうが、中身は未知そのもの。
一か八かの博打。ただ、それより先に涼みたい。不快な温度下では考えも纏まらない。
「ジャピタ。集落を避けてそこに行けるか?」
「イケル! タブン!」
「多分?」
「ボーケンシャ、チカク、ヒトツ、カタマリ」
「……そこは上手く回避するしかないか」
「ウン!」
恐らく、ダンジョン内のモンスターと違う気配から、外からの冒険者と判断したのだろう。塊という事は、単独ではなく複数人が集まっているようだ。
集落が目的かどうかは知らないが、イオ達と出逢えば確実に敵対する相手だ。そのパーティーと鉢会う可能性があるという。
出来るだけ戦闘は避ける。パーティーが一つなら捻っても問題なさそうだが、集落側がどういう反応するか分からない。
無駄な労力は使わないに限る。
ジャピタを離し、移動するその後ろを追い始めた。