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14.エピローグ

 

「では~! アーシらアマール族の新しい仲間と復讐祝いに~! カンパ~イ!」

「「カンパ~イ!」」


 元気のいい乾杯の後、あちこちで大ジョッキがぶつかる音と笑い声がする。

 商人を襲って奪ったガラス製のジョッキらしい。上手く力を調整して、割らないようにしているようだ。

 全員が威勢よく飲み干し、次々とお代りを注いでいく。中身は一族で育てて造ったワイン。

 蛇を冠する魔物は、印象通り大酒飲みが多い。このラミア達も例に漏れていないようだ。



 オアシスの周りで焚き火を設置し、新しい仲間と宴。

 残虐行為をした後とは思えない。その辺りも魔物らしいとイオは感じた。



 ラミア達を見渡せる場所で、イオは一人で果実水を楽しんでいる。収納魔法から取り出した物だ。

 酒よりは果実水が好みである上、目前のどんちゃん騒ぎに混ざりたくないのだ。

 アマール族の若いラミアは、全員がルルアと似たテンションだった。それが酒により、天元突破して大騒ぎ。絡まれたくない。


「クチ、シアワセ〜」

「そうだな」


 隣で寝そべるジャピタに軽く同意する。まだ食事の余韻から抜けず、恍惚としているようだ。



 それ程までに、今回の食事は美味だった。



 (きかん)は少ないが、最高潮から最底辺へ転がった故の復讐心だ。舌で蕩けるまろやかさな極上の味は、なかなか口にする機会はない。

 この味わいを考えると、好まない環境にいた甲斐が有る。



 復讐者(ディーナ)の望みは、復讐対象(兄と婚約者、その妹)復讐対象(両親と国民)自らが絶望へたたき落とすようにする事。



  精神が壊れた後だからか、かなりえげつない内容を思いついたものだ。

 ルルアが盛り上がって、思いついたアイディアをそのまま口から出していたのも影響していると思う。

 ラミアが全員そうかと思ったが、オババは引いていた。聞けば、アマール族の若者はほぼルルアと同じ性格らしい。

 軽薄な振る舞いが多く、真面目に考えても享楽的な行動に惹かれてやすい。

 おかげで、オババのようは高齢ラミアは少ないようだ。


『私、ルルア様のようなラミアになりたいです!』


 まさかの決意に、イオとジャピタにオババの三人で大口開けてしまった。だが、一度壊れた身体に負の感情が凝縮されていた為、対価とする条件で承諾。




 バンダルク=ディーナの肉体と魂を対価に、アマール族のテーミスとして生まれ変わった。

 生まれ変わりといっても、大部分は対価として貰っている。

 テーミスにとって、ディーナの人生は臨場感ある舞台を眺めている感覚だ。

 赤の他人でも、女として踏みにじられたディーナに同情し、相手に怒りを覚えることは出来る。




 ラミアとなったテーミスは強い。ルルア達の援護もあって、より強くなっている。

 どのくらいかと言えば、兄と婚約者をオアシスにするという復讐の為、水神を取り囲んで約束を取りつける程だ。

 キャピキャピとしたラミア達に嫌味を言われ続け、自業自得でも水神が可哀想になった。


 最終的に、水神が折れた。

 今回だけ、もう二度としない、水神への信仰を忘れずに。

 条件をいくつか付け、ルーイナ国とバンダルク国の水源の移動法を授けた。


 この地帯で、人を最も動かすは水の存在。それが分かっているからこその行動だ。


 ルルアの声掛けで集まった仲間達は、残虐なショーに協力的であった。魔物としての本性が疼いたのだろう。


 婚約者とその妹がバンダルク国へ向かった頃を見計らい、ルーイナ国の水源と妹の元婚約者を奪取した。

 爛れた顔の男は妹姫への恋慕を拗らせており、復讐の一番手に持ってこいだった。

 役者が揃った所で、王家の抜け道よりバンダルク国にラミア達は侵入。楽しい復讐劇を主催、観劇した。




 同性である妹姫には、ディーナと同じ苦しみを。




 ディーナの件に直接関わっていないが、元はと言えば彼女の我儘が元凶だ。


 入手困難な物を欲しがり、取ってきた婚約者の顔が潰れたからと捨てる。

 王族として考えれば不可能な縁談を兄に頼み、叶っても当たり前と享受している。

 亡くなった兄の婚約者に罪悪感も悲愴もなく、惚れた相手に嫁ぐことを喜ぶ。


 その裏で嘆く人など露知らず、自分の幸せしか考えていない。

 甘やかされたろくでもない女だ。




 兄と婚約者は水源を埋め込み、人という理から外した。

 水を求める民によって、彼らは母国のオアシスに沈められた。

 針鼠のように突き出たパイプから水を流し続け、体内から体液が抜きでる感覚に苦しみ続ける。

 バンダルク国は狂乱の夜にいた者全て、ルーイナ国は同じ場にいた護衛と現王族しか知らない。

 何も知らない者にとっては、王族が急にいなくなったということは現実しか残らない。


「それも、ディーナと同じ言い訳にするだろうな」

「流砂、ですな?」

「……オババ。アタシは何も言っていないが?」

「巫女の直感ですわい」


 いつの間にか、傍に来ていたオババが隣に座る。

 声に出してゆっくり腰を降ろしているが、手に持つ大ジョッキはワインが並々入っている。年老いても大酒飲みなのだと、イオは自分の果実水を飲んだ。


「宴の和に入らないのか?」

「改めて礼を。それに、年寄りにあの喧騒はちと辛いものがあってのう」


 遠い目で見つめる先では、テーミスと別のラミアが飲み比べしており、他がガヤを入れている。

 あのノリについていけないなら、いるだけで気力が吸い取られそうだ。


「まさかオアシスだけでのうて、あの娘も元気になるとは思わなんだ。ほんに助かったわい」

「礼はいらない。アンタらの為ではないからな」

「それでも言わせておくれ」


 しみじみと酒を飲みながら、オババは言う。感謝を伝えたという、自分を行動に納得したいようだ。それなら構わないと、イオはこれ以上は止めない。

 飲み比べはテーミスとルルアの対決になっており、二人揃って顔が赤い。それでも復讐をやり遂げた、満面の笑顔だ。精神崩壊していたディーナの面影はもうない。


 そう思っていると、不意にオババが笑った。

 横目で見れば、不敵に笑っている。


「しかし、他の神様や水神様にお会い出来るとは……長生きはするもんだのう」

「なら良かった」

「ええ、ええ。これはもう、拝み続けるしかないわい」

「それは水神だけにしな。アタシはこの地に留まる気はない」

「そうですかい……これはババアの独り言ですがな? 巫女と神はにておりますわい。信仰がなければ、嫌われ消えゆく存在じゃ」


 水を飲む手が止まる。独り言という体で、オババはイオに言っている。


 下手に水神と同列、もしくは上位の神だと風潮されたら、信仰へと変わる可能性が高い。

 新たな神として名が上がれば、逸話も必須。アマール族や巫女を広めるにはもってこいだ。

 巫女への信仰はあるだけいい。そうでなければ、前の水神のようになるかもしれない。


 はっきりとそう言っている。

 オババを睨みつけていると、前から衝撃が飛んできた。


「イオさーん!」

「イオちゃーん☆」

「おふっ」


 酔っ払い二人の急な突進だ。

 受け止めきれず、勢いのまま後ろに倒れる。息が酒臭い。


「テーミスちゃん、すっごく楽し〜の! これもイオちゃんのおかげ☆」

「こちらにも利益があったからな。酒臭いから離れろ」

「アーシらも楽しー! マジありがとー!」

「それならいいが、酒臭い」


 酒の息で酔いそうだ。しがみついてくる二人を無理やり引き剥がそうとして、耳元で囁かれた。





()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ぶっちゃけ、信仰とかそーいうの、長続きさせる方がムズいし? 巫女の信仰なくったって、楽しければオーケーっしょ☆」






 はっきりとした、真面目な雰囲気だった。呆気に取られる間に、二人は体を起こす。そこには先程と同じ酔っ払いがいた。


「酒飲みイエー!」

「対決イエー☆」


 テンション高々に、二人は輪の中に戻って行った。

 今の小声を反芻し、考え、小さく笑みを浮かべる。


 同じ話を聞いた巫女二人。オババは信仰を失った末路に恐怖し、回避しようと策を巡らせている。

 対して、ルルアはそこまで恐怖していない。この辺りの感性の違いは、生きてきた年月による物だろうか。


 イオには関係ない。ただ、ルルアにない部分をテーミスが補っているように感じた。

 あの二人なら、オババを止められるだろう。イオ達はこの世界に囚われることなく、自由に世界を渡っていく。

 下がった気分を持ち直し、賑やかな宴を見ながら温くなった果実水を冷やした。


第9話、渇望ラミア完結となります!

続きは思いついて一話書き終わり次第、更新再開となります

オムニバス形式の利点ですね

詳しくは後ほど、活動報告にてご連絡します


いいね、誤字脱字報告、感想、ブクマなどなどお待ちしております!

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― 新着の感想 ―
[一言] 一段落、お疲れ様です! なんかカタコトみたいになっちゃいますが 私このシリーズ大好きです。
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