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11.イッザラーム視点

 

 多くの影が砂埃を上げ、この場にいる全員を囲いこんだ。統率された行動は、そこらの魔物の襲撃ではないと示している。

 護衛が剣を抜き、ズバイッルもファティマを庇いながら剣を構えた。


 相手の数はおよそ十数人。恐らくは腕が立つ盗賊あたりだろう。

 その数倍はいる兵に勝てる訳がない。混乱の中、イッザラームは冷静を保ちながら判断する。




 だが、月明かりが照らした相手に、驚愕するしかなかった。

 現れた姿は、半人半蛇の女性。

 知能が高く狙われたら最後となる魔物、ラミアだ。



 誰かが発した甲高い悲鳴が、人々の混乱を再開させた。だが、パニック具合は先ほどの比ではない。


 ラミア一匹に、精鋭された兵が百人いてやっと戦いになると言われている。数倍の数の差など、ものともしないだろう。


 兵達も青ざめ、敵対するラミアを眺めている。それに対し、ラミア達は楽しそうに笑った。

 まるで、玩具で遊ぶ子供のように、剣を折り兵を無力化させていく。中には腕ごと吹き飛ばされ、絶叫が木霊した。

 イッザラームは冷静なまま、その光景を他人事のように眺めていた。瞳に映る光景を認識できても、上手く理解できない。


「うぐっ……!」

「ズバイッル様ぁ!」


 ズバイッルはファティマの防衛から攻撃に変えたようだ。

 だが、勢いづけた突進は躱され、飛び蹴りの要領で放たれた尾がズバイッルの腹にめり込んだ。

 後方に吹き飛ぶズバイッルに、ファティマが駆け寄る。衝撃で剣を手放しており、こちら側に武器を持つ者がいなくなってしまった。




「無力化せーこー!」

「いえーい! さぁさぁ、全員ごちゅーもく☆」




 陽気な声を出しながら、ラミアの包囲から二匹が出てきた。



 その内の一匹に、目が釘付けになる。

 イッザラームだけではない。この場の全員が、そのラミアから目線を離せない。

 レンガ色の長髪、バーントオレンジの瞳。

 口に弧を描くその造形は、見覚えしかない。



「ディーナ……?」


 誰かがその名を呟いた。


 亡くなったはずの王女、バンダルク=ディーナと瓜二つのラミア。

 その呟きに、ラミア達は思いっきり吹き出して笑いだした。


「ディーナ? だってぇ! ウケるー! ()()()()()()()()()()! 笑えなぁーい!」

「やー! そー言ーながらテーミ思っきし笑ってんじゃん!」

「ルルアちゃんや皆もじゃん☆」


 気品もなく笑う姿は、お淑やかだったディーナからは考えられない。しかし、他人の空似とも思えない。

 混乱で誰もが動けない中、王妃が二匹のラミアに近づこうとした。


「ディーナ……貴女、ディーナよね…………!?」

「おい、止まれ!」

「邪魔しないで貴方! ディーナが、娘が帰ってきたのよ!」

「アレは蛇の魔物だ! 似てようが違う!」

「わたくしが間違えるわけないじゃない!」


 止める国王の手を、振りほどこうと暴れる王妃。それを見て、ラミアは指して嘲笑う。


「九割ハーズーレー! てか、今更縋られてもって、ちょびっとも思わないんかなー?」

「ん〜。クズ婚約者とカス兄しか知らなかったからね〜。でもさー、喪に服す期間がなかったあたり、マジさないよねー☆」

「わかるー!」


 ラミアにとって、国王夫婦のやり取りは三文喜劇らしい。ケラケラと笑いが止まっていない。

 それよりも、イッザラームはラミアの話した内容に遅れて反応した。



 ズバイッルと二人だけの計画を、完全に把握している。得体の知れないラミアに、震えが出始めた。



 二匹のラミアが欠伸をする。観劇に飽きたようだ。

 そのまま、こちらの反応は関係なしに雑な説明を始めた。





「バンダルク=ディーナはみーんなの裏切りに心砕けて死にました〜☆ 裏切り者に報復したくてぇ、ディーナちゃんは身も心もやっばい神様に捧げちゃいました〜☆ ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それがテーミスちゃんでぇっす☆」

「アーシらのあったらしい仲間! イェーイ!」




 ラミア達の陽気さとは裏腹に、こちら側は青ざめ、狼狽えるしかできない。

 特に王妃は青を通り越して真っ白な顔になり、震える唇で言葉を紡ぐ。


「う、らぎり……? 流砂に、飲まれて、消えたのでは、ないの……………?」

「付き人の言葉だけっしょー? 大事な娘なら、生きてるって信じるのがフツーじゃなーい?」

「ルルアちゃんの言う通り〜☆ 実際は流砂でもなくー、兄が思ってた他国で使用人でもなくー…………婚約者によって盗賊に攫われて、嬲り物にされたの。マジ最低」


 ワントーン下げた声が、真実を告げる。自分しか知らない真実に、誰もが目を見開いてイッザラームを見た。

 否定の台詞を、この場を上手く丸め込む言葉を、言わなくてはならない。

 思考するその数秒の間に、事態は最悪の方へ進んだ。


「どういう事だイッザラーム! 好待遇な使用人ではなかったか!?」

「ズバイッル!」


 強く名を呼んで黙らせたが、既に遅い。今の反応で、ラミアの話が事実だと伝わってしまった。

 国王夫婦は力なく膝を着き、民衆はディーナへの謝罪かズバイッルとイッザラームへの罵倒に別れた。

 その反応で、ズバイッルはしでかした事に気づいたようだ。

 慌てて否定して、より罵倒を受けている。それを支えるべく、ファティマは優しく寄り添っていた。


 イッザラームは口を噤む。

 どのような事を言っても、ズバイッルと同じ目に合う。


 火に油を注ぐ行為。混乱する場でも、ラミアの笑い声はよく響いた。




「はいはーい。仲間割れは後でして〜。テーミスちゃん達は暇じゃないの☆ 復讐劇、はっじめっるよー!」




 ディーナ似のラミアが楽しそうに宣言し、他のラミアが盛り上がる。こちら側からすれば恐怖の宣言だ。


 確実に言えることは、ディーナが最も憎んでいる相手はイッザラームだ。つまり、自分への被害が一番大きいはず。


 すかさず逃げようとして、腰が抜けていると気がついた。

 力を入れる前に、一匹のラミアが急に目前に来た。

 そのまま後ろに回り込まれ、手を拘束された上で地面に叩きつけられた。



種に交われば何とやら。

この世界のラミアが全員ギャルではなく、ルルア筆頭にアマール族の若い子がギャルちっくです。


私情により、次の更新は7/21(金)になります。ご了承ください


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