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7.ディーナ視点

 


 地獄の生活は、日付の感覚を失わせた。

 何日経ったかすらわからない。虚ろな状態ながら、精神は夢を見ていたいようだ。


 優しい両親、頼りになる兄、親しい侍女達、愛するイッザラーム。泡のように浮かんでは消える。



 まだ、涙が零れる余地があったらしい。潤んだ瞳から溢れた雫が、頬を冷たく伝っていった。


「お、今日は一番乗りだ!」

「お頭来てねぇみてぇだな」

「やりぃ! 頭いると、まともにヤレねぇからなぁ」

「よっぽどお気に入りなんだろ。でもまぁ、オレたち全員もだがな」

「違いねぇ! 良すぎて、()()()()()()()()()()()()()よ!」


 下品な笑い声をさせて、二人の男が部屋に入ってくる。

 お頭。その単語と一人の男が繋がった。

 やけにディーナの身体に固執しており、独占欲を顕に激しく体を貪る。他の男達の回数を制限し、自分の行為を見せつける男だ。

 子分達は苦々しい表情で眺めていたはずだ。それでも受け入れているのは、力の差があるからだろう。


 ぼんやりとした精神でも、頭は働くらしい。頭に浮かぶ、一つの作戦。

 悪魔の様な方法だが、人でなし達を屠るには丁度いいだろう。


 意気揚々とディーナに触れようとする二人に、久しぶりの笑みを向けた。

 一瞬で固まり、見惚れる二人。そのまま、ディーナは口を動かす。




「私を独占したくありません? 盗みを生業とする貴方達なら、私を奪い取り合いません?」




 微笑を浮かべたまま、自分の衣服に指をかけた。男達の火傷しそうな程に熱い視線を受け、更に囁きかける。




「ただ一人。そうなれば、好きなだけ私を抱けます」




 生唾を飲み込み音が響く。暫くして、我に返った男達は再びディーナに手をかけた。



 行為が終わっても、男達は何か考えながら去っていく。その背を見送り、小さな楔が刺さったとほくそ笑む。


 次も、その次も。お頭らしき人物以外に、甘い毒の言葉を注ぎ込む。

 お頭には、別の毒を流し込む。着実に思考に根付く提案。




 事態は、思っていたより早く進んだ。





 荒々しく開いた扉。

 そちらを見れば、お頭が血塗れで立っている。返り血なのか、自身の血なのか、床に絶え間なく赤が流れる。

 息も絶え絶えにも関わらず、ディーナを見る目はぎらついていた。


「て、てめぇ……は……お、れの…………」


 必死に言葉を紡ぎ、一歩一歩よろめきながら近づく。震える手を伸ばし、ディーナを掴もうとした。

 それを冷ややかな目で見つめ、寸前で遠ざかる。


「触らないで。人でなしの女に堕ちたつもりはありません。貴方達が地獄に落ちる日を心待ちしてました」


 ディーナの言葉にお頭は目を見開き、顔を歪めながら再び手を伸ばす。だが、そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。

 どうやら、死んだらしい。この男が来たということは、子分達は反逆に失敗したようだ。



 ディーナを手に入れようとして、仲間割れで自滅。

 上手くいったと笑みが止まらない。



 部屋を出ると、通路はゴツゴツとした岩肌でできている。未発見の洞窟を拠点にしていたのだろう。


 一つ一つ、部屋を覗く。

 盗品だろう品が山積みの中、質のいい服があった。それを拝借した後、湧き水が溜まった部屋で身を清めた。

 簡素的だが、久しぶりの沐浴は生き返った気分だ。


 一際大きな部屋は、惨劇の壮絶さを物語っていた。壁や床が血だらけで、何人もの男が苦痛の顔で息絶えている。

 それを見ても、ディーナの心は微塵も揺らがない。


「地獄で苦しむ日々を送ってください」


 吐き捨てた後に部屋を探し、ようやく地図を見つけた。砂漠を根城にする場合、地図と目印がなければ迷うに決まっている。

 どうやら、バンダルク国とルーイナ国の中間あたりらしい。



 どちらの国に向かうか。もちろん、バンダルク国である。



 この状態で愛するイッザラームの前に出られるはずがない。

 密かにバンダルク国の両親と兄に相談し、しかと身を清め、改めてルーイナ国と交渉しなければならない。


 向かう先が決まれば、あとは食料と足の確認。隣接した小屋の中には、ウマラクダが優雅に餌を食べていた。

 魔ラクダの一種で、平地の馬のように砂漠を駆け回る。通りで大きく揺れた訳だ。しかし、これなら早くに母国に着く。

 ラクダの騎乗は大抵の人が覚えて育つ。ディーナもその勘は鈍っていない。



 必要分の食料と僅かな金を持ち、ディーナはウマラクダを走らせた。

 準備が終えた時点で夜明け。これなら、気温が急降下する夜になる前に国に帰れる。



 ディーナが攫われて、何日も経っているはずだ。ルーイナ国から連絡があり、バンダルク国も事態を把握しているはずだ。

 皆、心配しているだろう。早く、早く皆を安心させたい。


 そして、ディーナ自身も安心したい。その一心でウマラクダを走らせる。




 日が暮れ始め、地平の向こうに明かりが見えた。

 笑みが浮かんでくる。生まれ育った国、大切な母国。


 気持ちが先走り、涙が出てきた。もっと早く。


 だが、近づくにつれ、思っていた光景と視界に映る光景にズレが生じる。


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