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6.ディーナ視点

強○描写注意

 


 時々、微弱な揺れを感じる。

 その感覚のみで、移動していると認識できた。




 一人の空間というのは、なかなか慣れない。侍女達は外にいると分かっているが、視界にいないだけで心細い。

 不安な気持ちをかき消すべく、愛しい旦那様(イッザラーム)を思い浮かべる。


 初めて見た時から、心惹かれた。

 自分が彼の妻になる運命だと言われた時は、嬉し涙が止まらなかった。

 毎年、誕生日に贈られるアクアマリンの小物は、この十五年分を全て持ってきている。

 そういえば、今年は贈り物がなかった。

 きっと、嫁ぐ日程を考えて手元に残しているのだろう。配達ではなく、手渡しで受け取るプレゼントが楽しみで仕方ない。


 しかし、何故だが兄の表情が頭から消えない。最後の言葉も、妙に引っかかる。

 確かに遠い国に嫁ぐが、国に帰れない訳ではない。それ位、兄だって知っているはずだ。



 白に一滴の黒を垂らしたような、拭いきれない不安が消えない。それでも、旅路は順調に進む。



 一夜明け、二夜が明け、三日目に差し掛かった。あと少しで、ルーイナ国へ着く。

 愛しいイッザラームがこの帳を開けて、笑みと共にディーナへ手を差し伸べてくれる。

 その手を取って外に出れば、きっと国民が周りにいて、歓声を送ってくれる。想像するだけで、胸がポカポカと暖まった。





 幸せな未来予想図は、突然の振動でかき消えた。





 今までとは違う、不愉快な大きい揺れが続く。中のディーナを気遣っていない乱暴な運び方だ。

 急な変貌に戸惑いが隠せない。


「な、何? どうしました? 何か、起きました?」


 困惑の問いかけに、返事が戻ってこない。

 おかしい。明らかな異常事態に、身体が縮こまる。


「答えてください! 何が起きています!?」


 聞こえていないかもしれない。僅かな望みに賭けて、声を張り上げる。だが、やはり返答がない。


 どこに運ばれているのか。周りにいた護衛達はどうしたのか。


 自分で確認が取れない事実が不安で、胸が締め付けられて息が苦しくなる。

 最悪な状況だと考えると、魔物の襲撃が思いつく。

 特にラミアという半人半蛇の魔物は知能が高く、相手の状況を確認した上で襲撃を成功させると言う。

 もしかしたら、護衛や侍女達は殺されてしまったのか。なんと恐ろしい事だ。

 動物の呼吸のように短く息を吸っては吐く。輿の隅で小さく蹲り、震える体を抱きしめる。



 怖い。幸せが一転して恐怖に変わり、涙が零れ落ちてきた。




「助けて、水神様、ズバイッルお兄様……イッザラーム様……!」


 手を組み、必死に祈る。

 この砂漠で最も信仰されている水神と、ディーナが最も信頼している兄。そして、ディーナが愛して、到着を待っているイッザラーム。

 ルーイナ国で、彼と生きる。それがディーナの存在意義であり、ディーナが一番に望む生き様だ。その運命の第一歩で、躓きたくない。


 暫くして、輿が一段と大きく揺れて振動が止まった。何処かに降ろされたのだとわかる。

 周りがガヤガヤと騒がしくなった。ルーイナ国の歓迎だと思いたかったが、男達の下品な声ばかり聞こえる。



 嫌な予感がする。瞬間、帳が思いっきり開かれた。

 ディーナは希望を見出そうと顔を上げ、絶望に陥った。




「おお! 聞いてたよりイイ女だな!」

「堪んねぇぜ!」


 花婿が開ける帳は、風体の悪い幾人もの男達によって開けられていた。

 全員が下卑た笑みに厭らしい目でディーナを見定めている。その姿に、ディーナの恐怖は最高潮へ達した。


 稀にだが、七国以外にも小さなオアシスが出来ることがある。そこを根城に、盗みを生業にする人々が集まって被害を出した過去が何件かあった。


 盗賊団と呼ばれる悪人達野の登場は、魔物の襲撃と同等に旅路には最悪の展開である。

 何れも血気盛んな男達。そこに連れてこられたディーナ。

 怯えるディーナに、無数の手が伸びる。無骨な手がディーナの肌を触り、髪を掴み、体を引きずり出す。


「は、離しなさい! 無礼者! わ、私を誰だと……!」

「どっかの花嫁だろぉ!? 関係ねぇ!」

「ただの戦利品のオンナだ! せいぜい俺たちを楽しませろよ!」


 薄暗い部屋で、ディーナは床に押さえ付けられた。その上に、欲に塗れた男達が見下ろしている。







「いやっ、いやっ…………いやぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!」








 抵抗も絶叫も、男達を止める手段ではなかった。



 いとも簡単に、ディーナの身体は穢された。

 愛しい夫に捧げる純潔は散らされた。



 生涯、夫だけを受け入れるはずだった身体。幾人もの男達が、我が物顔で蹂躙していく。

 底知れない、獣の様な性欲が何度もぶつけられる。




 いつしか、ディーナは思考を手放した。僅かに残った心を守る為に、本能がそうしたのかもしれない。

 



 最低限の衣食住だけ揃えられ、向こうの都合で好き勝手に扱われる日々。

 他に人が居た形跡と、血の跡がくっきりと残る部屋がディーナの住まいだ。男達によって命さえも失った女性が何人も居たようだ。

 いつか、ディーナも仲間入りするかもしれない。

 その日を願う時もあれば、拒絶する時もある。自分が真っ二つに分かれた気持ちだ。

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