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「アーシはルルア! アマール族の次期巫女予定! こーちはアーシの護衛!」


 ニコニコとリーダー格の少女、ルルアは告げる。移動しながらだから砂が擦れる音が響くが、問題なく聞こえている。

 本来なら落ち着いた状態で自己紹介と事情の説明をするべきだが、イオが先を急いだのだ。遮る物のない太陽の下に長時間居られるものか。

 地上を走るラミア達に合わせ、イオ達も並走する。


「護衛がつくということは、巫女は重要な職業なのか?」

「そー! 族長と巫女が一緒ってパターンも多いんだし!」


 ルルアは器用に走りながら胸を張った。その辺りが重要そうだと、詳しく話を聞く。




 恐ろしい事だか、この砂漠はかなりの大規模らしい。

 ラミアの全力疾走でも、一週間は砂と岩の光景から抜け出せないようだ。人間なら、一ヶ月以上はかかるだろう。


 よって、この地帯に住む人間、ラミアはオアシスを拠点としている。十数個のオアシスのうち、四箇所はラミアの住処だそうだ。

 ルルアのいるアマール族は赤髪、赤目、赤尾と赤色の特徴を持つ。ルルアはその全てを兼ね揃えていた。

 アマール族には稀に直感に優れた者が産まれ、それが巫女になる運命と決められた娘との事だ。現在の巫女は、ルルアがオババと呼んでいた人物らしい。

 乾燥に強い作物や家畜化した魔物ラクダなどを育て、仲間と楽しく暮らしていた日々。しかし、二日ほど前に異変が起きた。


「なーんも起きてないってのに! オアシスの水が一気に減っちゃったんだよ!」

「死活問題じゃないか!」

「そー!」


 イオの叫びにルルアが同意する。

 長年、安定していた水源が急激に減るなど、考えただけで吐き気がしてきた。


「アーシの勘は何かスゲー奴の所為! オババの勘は救ってくれる助っけてくれるスゲー存在が出るって!」

「オババとやらがアタシを感知したのか……」

「マジすげーっしょ!」

「……言っておくが、アタシらでも解決できない場合もあるからな?」


 初対面にも関わらず、過度に期待されても困る。

 巫女の勘はルルア達には素晴らしいものらしいが、こちらからすれば輝かしい結果も何も知らないのだ。正直、疑っている部分はある。

 言葉を少し濁しつつ伝えるが、ルルアは期待の眼差しを止めない。まだ自己紹介もしていないが、ルルアの中では信頼できる人物にされているようだ。

 イオ達が解決できると何一つ疑っていない。純粋な気持ちで頼られると、邪神としては若干居心地が悪い。


「水使いの人ならイケル! アーシも会ったらイケルってわかったもん! つーわけでオナシャス!」

「ナマエ、ジャピタ! コッチ、イオ!」

「イオさんにジャピタさん! オッケーオッケー!」


 二人揃ってテンションが高い。話を聞いているだけで疲れそうだ。日差しがその疲れを後押しする。

 疲労で頭が回らなくなる前に、自分達の餌について確認するべきだろう。


「ルルア。アンタが言ってた復讐者の心当たりとは、どういう人物だ?」

「あー、あの子!? 人の子だけどねー、一目で分かるレベルで()()()()()()()()!」


 あっけらかんとした口調とは真逆の中身。ジャピタと共に目が丸くなった。



 聞けば、数ヶ月前に住処近くで歩いていたらしい。

 この広大な砂漠で、ラクダも荷物も人手も無しに歩くなど自殺行為だ。発見したラミアは食料だと思って近づいたが、死者のような濁った瞳に何も映さない姿に思わず保護したという。



「ずーと人形みたいにしてっと思うと、きゅーに笑ったり泣いたり叫んだり! 精神ぶっ壊れちゅーって、オババ達が言ってたよー」


 変わらない調子で話すルルアは、その人間への共感や同情は見られない。

 誰も指摘しなかった辺り、ラミアの非情さが滲み出ている。保護された事が奇跡だ。


「アンタらが人間をどう思っているか知らないが、よく保護したな」

「んー? みーんなこーんな感じー! 雄は種馬で雌はお肉! その子もめっずらーから連れてきたけど、すっごくうっさくて! 肉にしよーって皆言ってたけど、オババがそのまんまにしよーって! アーシも、ころすのはなんかヤバい気がすっと思ったん!」

「巫女二人の勘か」

「でもでもー! おかげでイオさん釣れたからバッチオッケー!」

「釣れたのはジャピタだ。アタシは帰る気だったぞ」

「エヘン」


 何故か誇らしげなジャピタを掴んで向けたが、ルルアは特に反応しない。先程といい、自分が関わらないと詳細は気にしないようだ。

 搾取されるだけの異形(ラミア)に近づかないはず。なら、その人間にはなにか理由がある。期待値が少し高まった。



 暫くして、砂の海に突起物が見え始めた。ルルア達の目的地がそこらしい。

 近づくと、大きな岩石がいくつも天へ伸びていた。意識的に置かれたか、一定区間を囲むように並んでいる。

 岩石の周りには複雑な流砂が発生し、侵入を拒ぶ光景は中央に住むラミアの防御システムに思えた。


 岩石の先に柵があり、さらに奥にレンガ造りの家と畑、家畜が居並ぶ。



 アマール族の住処に間違いない。



 そう認識した時、柵を開けて一人のラミアが出迎えに来た。

 白髪赤尾、顔に刻まれた皺が深いラミアだ。だが、こちらを見据える橙の目は強い意志が現れている。

 ルルア同様に体には刺青があり、彼女がオババと呼ばれた巫女だと把握した。


「ようこそ、救世主たる存在。ワシの事は、そこのお転婆娘から聞いておろう?」

「アンタがオババって奴だな」

「如何にも。一応名はあるが、その呼び名に慣れておるからのう。もてなしを、と言いたいところじゃが、一刻も早く事を済ませたい様子。オアシスまで案内いたそう」

「話が早くて助かる」


 直感だけに頼らず、人の起伏を読み取る技。聞いていた以上に長けた人物だ。

 イオがここから早く去りたい気持ちが消えるはずがない。この場所に来るまでに、快適な温度に保つべく水球の温度を何回か下げる羽目になった。

 腹持ちの悪いジャピタの為にも、消耗は常に最低限。居るだけでエネルギーを使わざるを得ない場所は、基本的には避けるべきなのだ。



 もしかしたら、オババはこちらの事情も見越していたかもしれない。

 それ程までに、ルルア達が到着したタイミングが合いすぎている。



「ほほ、射殺さんばかりに睨んでくれるな。救世主に無体はせんよ」


 警戒しているイオに、オババは振り返って微笑む。

 それだけ告げ、直ぐに前に向き直ってしまった。侮れない老女だと、幾分かだけ警戒を緩めた。

 畑や家畜小屋の近くに、オアシスから引かれただろう水路があった。流れる水量は水路の三分の一程度。

 高さに余裕がありすぎる。これだけで、水源が減っていると推測できた。




 僅かな緑が目の前に見え始め、そこに囲まれたオアシスへと辿り着いた。楕円形に近い湖のようだ。

 しかし、水面が明らかに低い。中心部付近では湧水する様子が眺められる。

 貴重な水源の危険を目の当たりにしたイオに、自分事ではないが寒気が走った。


「ここまで恐ろしい光景は、そうお目にかかれないぞ……!」

「イオ、コワイ?」

「アンタに分かりやすく言うと、残りエネルギーが少ないが摂取も休眠も出来ずに迫るタイムリミットを体感するしかない状態だ」

「ギャアァァァァー!」


 ジャピタの顔が恐怖に歪んで悲鳴が上がった。ここまで噛み砕いて、ようやくイオが抱える恐怖を理解したようだ。

 微弱な振動をするジャピタをそのままに、改めてオアシスを観察する事にした。

 地上に出ている範囲では、異常はなさそうだ。ならば、更に大元である地下に何かありそうである。


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