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台風の気圧に負けて上げ損ねました……!

新話突入です!

 


 その世界に入った途端、身を焦がすような灼熱が襲ってきた。



 日差しが眩しい。熱い、とにかく熱い。

 違和感を覚えつつ、そのまま地面に着地する。





 刹那、文字通り身を焦がす痛みが尾ひれを襲った。





「熱っ!?」

「ヒギャアッ!?」


 反射的に飛び跳ねて尾ひれを引っ込める。そのまま水魔法を展開し、全身を覆う水球を出して空に浮いた。

 いつもよりも温度を冷たくして、尾ひれのヒリヒリとした痛みを静める。イオよりも高く飛び上がったジャピタが、水音を立てて水球に落ちてきた。

 それを見てから、収納魔法を展開。すぐにフルポーションを取り出してジャピタの口に突っ込み、さらに取り出して自分の口をつけた。


 瓶を傾けて一気に薬液を口内に流し込み、飲み干す。薬液が染み渡っていくと共に、尾ひれの痛みが薄れてなくなった。


 瓶を口から離して、大きく一息。来たばかりの世界で、もう全身に疲れが出ていた。

 知りたくはないが、知らなければならない。恐怖と求知で二分する心に自分で呆れつつ、意識を下へ向けていく。

 視界に揺らめく陽炎が入る。この時点でもう止めたいが、勢いづけて地面を見た。




 一面に広がる砂、石、時々サボテン。

 上から照りつける陽射しは強く、既に水球の温度が少しだけ高くなっている。







 間違いない。ここは砂漠だ。

 恵みの雨が殆どなく、緑が育たずに砂と岩石で覆われた地。

 乾燥した空気、強い太陽光、反して夜は恐ろしい程に寒い。








 人魚(マーメイド)が嫌悪する要素で構成された場所だ。







 認識した瞬間に、背中に寒気が走る。恐る恐る周囲を確認すれば、数メートルの高さから見下ろしても何も無い。

 物があるどころか、地平線がくっきりと見えた。唾を飲むと、大きく喉が鳴る。


 普通の人魚(マーメイド)なら、ものの数分で絶命に至る。その後、哀れなミイラになって砂に埋もれるだろう。


 邪神の眷属とはいえ、イオの本質は人魚(マーメイド)のまま変わりない。つまり、この場所は好ましくない。

 数多くの世界を渡ったが、ここまで広大な砂漠を引き当てた記憶は無い。ましてや、生物すらも見つかっていない状態だ。


 餌を探して、話を聞いて、取引して。確実に時間が掛かる。数日、下手をすれば一ヶ月は優に経過するだろう。


 逃げたい。次の世界で餌を探すまでの余裕はあるはずだ。

 なくても限界まで延ばし、取引の時だけでも力が使えるようにする。

 顔をジャピタに向けると、体を曲げて焼けた尾に息を吹きかけている。フルポーションで治ったはずだが、痛みが残っている感覚があるようだ。

 イオも同様の感覚があり、尾ひれの違和感が気になる。


「イタイ……」

「そうだよな? ここ、暑いからな? だから他の世界にしないか?」


 急かす気持ちが出ているからか、無意識に早口で捲し立てた。そんなイオの焦りに、ジャピタは口を開けて首を傾げる。


「ナンデ? ミズ、ナカ、ヘイキ」

「いやよく感じろ。もう水球の温度が上がりつつある。ここにいたら干物になるぞ?」

「ミズ、アル!」

「水があっても灼熱は避けられないぞ? 夜は寒いと言うけど、それまでこの陽射しの中で餌探すのか? このだだっ広い虚ろな空間で? 無理だろ? 辞めないか?」

「…………イオ、イツモ、チガウ?」

「この灼熱地獄に平常でいられる人魚がいたらお目にかかりたい位だよ」


 真顔で本音を呟けば、ジャピタが情けない悲鳴を上げた。

 気付かぬ内に不快感が圧となって出ていたらしく、ジャピタは小さく震え始める。


「イオ、コワイ、イオォ……」

「あー……悪い」

「サッキ、スゴイ」

「殺気まで出てたのか、アタシ。悪いけど、それくらいここはアタシに合わない」


 ため息をつきながら、弱音を吐く。

 自分らしくないと思うが、本能的なものだ。

 どうしようもない。

 調子が狂うと、適当に髪を掻き乱す。その様子を見て、ジャピタは大きく首を縦に振った。


「ワカッタ。イオ、ダイジ。ココ、デル」

「本当か! すまないなジャピタ!」


 ここから出られる嬉しさに、思わずジャピタを抱き寄せた。

 締め付ける勢いになっているが、こういった行為は滅多にされないジャピタはむしろ満面の笑みである。


「イオ、ゲンキ、ヨカッタ!」

「ああ!」


 世界の出口に向かうと太陽に近づくが、すぐに出るから耐えられる。

 さっさと出ようと尾ひれを動かそうとした時だ。






「ちょおぉぉぉぉっと、そこの浮いてる方ぁぁぁぁ!」






 下から大音声が上がった。そこの人、だとしたら無視できた。だが、浮いている人など自分しかいない。流石に止まらざるを得ず、表情を固くして下を見る。


 猛スピードで近づいてくる気配が三つ。

 それは目視でも確認できる。気配と同じ位置の砂が盛り上がっているのだ。


 砂の下を潜っている。日差しを沢山浴びて熱の篭った砂を掻き分け進んでいる。想像だけで体が痛くなった。

 塊はイオ達の斜め下辺りに着いた途端、砂を巻き上げて飛び出してきた。そのまま着地し、見上げてくる。



 健康的な褐色の肌を持つ、女性が三人。リーダー格と思われる中央の人物が一番若そうだ。



 揃いの金のピアスが耳元で揺れ、各々の髪も揺れている。中央の少女だけ、他にもアクセサリーをいくつか身につけていた。

 また、地肌に直接刻んだ青の紋様が艶めかしさも出している。

 こちらを眺める瞳が特徴的で、瞳孔が縦長だ。また、服装も胸元だけ覆っている艶やかな布だけである。



 臍から下は長く、尾に近づくにつれ細い。下半身を覆う角鱗が日差しで煌めく。

 半人半蛇の美女、ラミアだ。


 そう認識すると同時に、少女が勢いよく頭を下げた。



「頼みます水使いの人! アーシらの()()()()救ってくだせぇ!」

「オアシス、だと……!?」




 適当に(あしら)ってさっさと出よう。強く考えていたというのに、ラミアの言葉で動揺してしまう。



 オアシス。乾燥しきった大地を潤す、数少ない水源。人魚(マーメイド)だからこそより一層、重要性が理解できる。

 その大切な場所の危機。その時に現れた水を使う半人半魚。必死に助けを求める気持ちは十二分にわかる。

 迷いが生じたイオに、ラミアが畳み掛けた。


「オアシスはアーシら一族の大切な場所なんだよ! そこがなんでか枯れそーで! 枯れたらアーシら、バラバラになっちゃう! ホント、助けて!」


 必死で頭を下げる少女の後ろで、仲間のラミアも同様に頭を下げている。

 オアシスの危機という事態に心が揺れるが、我に返って水球の温度を確認した。また温くなっている。

 その事実が、イオの思考をクリアにさせる。


「悪いが、他を当たってくれ。オアシス救うより先にアタシらが茹だるだろ」

「そこをナントカ! マジでヤバいんだって!」

「そう言われても、熱すぎてやる気が出ないから。目的の復讐者探しも億劫で仕方ない程だ」

「フクシューシャ?」


 熱すぎる日差しに湿度のない空気。それらが織り成す不快感から、つい対応が雑になった。

 意図も簡単に、初対面の人物への目的を零してしまう。

 イオの失言にラミアは反応して考え込む。そして、手を叩いて声を張り上げた。


()()()()()()()()

「……え」

「アーシらが保護ってる子がいんの! ヒャクパーその子だよ! 多分!」

「多分なら100%とは言わないだろ」

「ホント!?」

「え」


 懐疑的なイオと違い、ジャピタは声を弾ませ話題に食いつく。その隙を逃す少女ではなかった。


「マジでマジで! そーちの目的ついでに、ちょちょっとオアシス何とかしてくれりゃーいいから! オババの占い的に、水使いさんはアーシらよりすっげー存在なんっしょ!? イケルイケル!」

「イオ、エサ、スグ!」


 振り返ったジャピタの顔は期待に満ちている。熱さより食欲が勝ったようだ。

 イオの力の源であるジャピタが乗り気なら、イオの拒絶は無駄だ。人魚(マーメイド)の本能など、眷属としての力の前では弱いものだ。

 この熱さで動くのは骨が折れる。その予感に、イオは息をついて脱力するしかなかった。


砂漠はアラビアンナイトなエキゾチックな感じが好きです。

人魚が高温乾燥に弱い点は作者の考えによるものです。片方ならまだ我慢出来るけど、両方は無理という考えです。違うかもしませんが、この世界観ということで何卒。


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