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 疑心の目で眺めていると、クレゾントはそっと手を差し出した。握手が求められている。

 手と顔で視線を行き来しても真意が分かるはずがなく、不思議に思いながらも握手に応じた。




 途端、手を通して感情が伝わった。




 激しく渦巻く負の感情は、よく押し留められていると感心してしまう程に強い。この強大な感情は、さぞかし美味だろう。

 感情が身体を流れる様を受けながら、自然と口角が上がった。気を抜くと涎を流してしまいそうだ。


「わ、わざと抑えてんだよ。じゃないと、暴れて壊してちゃうから」

「確かに、理性を失ってもおかしくない怒りだ」

「ぼぼ、僕をダシに悪魔達を抑えつけんのも許せない。じ、自由を奪ったんも許せない。ブルーノを傷つけんのも許せない」


 昂りと共に、手を握る力が強まっていく。それでも、クレゾントの口は三日月を描く。




「今度こそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あ、ブルーノは僕が保護する。そ、それって、邪神にとっては最高の舞台だと思わん?」




 魔王クレゾントが解き放たれる。

 それは悪魔達の枷がなくなるという事でもある。


 高圧的な弱者に扱き使われて、怒りを押し殺す日々。

 そんな悪魔達が自由になったとすれば、凄惨な光景が広がること間違いなしだ。

 ガッサーを中心とした人間達の急転直下。それが見られるなど、垂涎物である。生唾を飲み込む音が大きく聞こえた。

 それを見越して、クレゾントは歯を見せて笑う。


「ぼ、復讐者()の望みは、ブルーノを傷つけずにここから出る事。たた、対価は仲間達と一緒に侵略して、復讐対象者(人間達)が阿鼻叫喚する光景を生で観られる事。ど、どう?」


 悪くない取引内容だ。いつもとは違う対価だが、魅力的な提案である。

 随分早くカタがつくとジャピタを見れば、何故か頬を膨らませて怒っていた。


「ジャピタ?」

「トリヒキ、スル! イオ、ハナス!」

「キヒヒッ。じゃ、邪神もそんな気持ちあるんだな」


 意味がわからないイオを尻目に、クレゾントが笑って手を離す。空いた手にすぐさまジャピタが巻き付き、軽く締め付けてきた。

 二人は意思疎通が出来ているようだか、イオにはやはり分からない。


「イオ! イオ!」

「呼ばなくてもいるよ。そのままでもいいが、牢の分析。詳細まで頼む」

「ハーイ」


 先に取引を成立させてもいいが、ここは固有魔法の牢だ。

 それも異世界召喚者、イチロー・タナカただ一人しか使えない魔法。入念に調査した方がいい。



 ジャピタは全体を舐め回すように凝視する。それから、イオの額に自分の尾先を軽くつけた。



 触れ合った部分から、情報が脳内に流れていく。

 情報量が多いと、話す方も聞く方も面倒だ。

 ジャピタの拙い口調だと、余計に時間もかかる。第三者を介さないなら、この方法が楽なのだ。

 脳に伝わる情報は思っていたよりも多く、それでいて細かい。強大な固有魔法と反比例するような人間性が残念だ。最も、当の本人は故人だから今更だ。


「オワリ」

「なるほど……異世界召喚者の固有魔法だけはあるな」

「ヤバい?」

「かなり強い。ただ、一部が欠けてる部分を突破口にすれば、何とかなりそうだ」




 クレゾントの力を外に出し、イオ達を呼び寄せた綻び。

 ティガル達が必ず来ると、望んでいた綻びの時。

 全てがガッサーの嘘から始まっている。




 イチロー・タナカも、自分の子孫が教えを踏みにじり、栄光の時を終わらせるなどと露程も考えなかっただろう。

 得た情報を吟味し、選べる中で最とも最善の策を探す。ふと、嫌な考えが脳裏を過ぎり、小さな声が出た。


「……クレゾント」

「なな、何?」

「アンタ、ブルーノを保護した後、どうやって振り向かせる気だ?」

「え? ま、魔王って言えば、惚れんじゃないん?」


 真顔で呟くクレゾント。嫌な予感が的中し、大袈裟にため息をつく。


 ティガルの話では、クレゾントはどんな女悪魔が寄ってきても靡かなかったという。

 それは戦闘(遊び)よりも夢中にならなかっただけであり、興味が無いとも嫌がっているとも言っていなかった。



 孤独な空間に長期間。健気なブルーノに惚れ、拗らせ、その間に相談する相手など出てくるはずもない。

 結果、典型的な初恋拗らせ男と化している。



 芯が強いブルーノが、暴力権力に惚れるとは思えない。むしろ嫌悪だろう。

 腕を組んで悩む。イオとしても、ブルーノは好ましいと評価できる人間だ。食事に関係ないなら、幸せになるべきである。

 それを踏まえて、策を練り直す。そうして出来た策は、少し時間はかかるが確実に取引相手(クレゾント)の希望に叶うものである。


「クレゾント。ブルーノからの信頼が欲しいだろ?」

「え!? い、一番欲しい!」

「何でもするか?」

「何でもする!」

「よし。なら、名を呼べ。そうすれば取引成立だ」


 そう微笑むイオに、クレゾントも口角を上げて返す。




「よろしく頼んだよ。邪神ジャンス:ピール:カブター。邪神イオレイナ」




 取引成立に笑う邪神達と、悪魔の王。

 薄ら笑いの三人は傍目から見れば恐ろしい存在だったが、それを指摘する者はいるはずもなかった。


キリがいいので、GWは休んで来週再開します

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