第七話 自業自得
イノリはなんと答えようか迷う。
ここで正直に持っていると言えばエルザが貴族だというの知っていたということになってしまう。
「......なんでいまさら? 俺は俺のMP量を知っていただろ、自分をその鑑定眼で見たとは思わなかったのか?」
「自分を見ることは魔王だから出来るのかと......ですが私の事も見れるとなると......」
「鑑定眼......とは少し違うんだ」
イノリは魔王の特別な力で人の力を測ることが出来ると言った。
エルザは他にわかることは無いんですか? と聞いてきたが無いと答えておいた。
エルザはあまり表情には出さないようにしていたが安心しているようだった。
「イノリさん、今日はもう帰るんですよね?」
イノリとしてはもう少しレベルを上げたかったのだがエルザの機嫌を損ねると面倒なのでダンジョンへ帰ることにした。
もちろんオーガギガの死体をアイテムボックスに入れてだが。
そしてそんなイノリの様子を見たエルザはそう言えばといいイノリに衝撃の発言をする。
「イノリさん、アイテムボックスの事ですが人間にも使える方はいますよ」
「......は?」
イノリは最初エルザが何を言っているのか分からなかった。
そんなイノリの様子を見てエルザは笑いながら言う。
「鎌をかけたんですよ」
「......」
「だからもし正体を隠して人間と会う機会があってもアイテムボックスを使っても目立つかもしれませんが大丈夫ですよ」
「......」
イノリは今日のエルザの夕飯は納豆だけにしようと心に誓うのだった。
「えっと、イノリさん? もしかして怒ってます?」
心配になったのかエルザはそんなことを聞いてくるがイノリは笑顔で返す。
「で、でもイノリさんだってえむぴーを回復出来る私がいてくれるのはいい事じゃないですか!」
イノリが怒っていると思ったエルザは咄嗟にそんなことを口にするがイノリの決心は揺るがない。
イノリはこの世界の人間が納豆を見たらどんな反応をするのかを楽しみにしていた。
「スーただいま」
イノリは帰るなりスーにそう言う。
道中でエルザが何度もイノリに向かって何か言っていたがイノリは納豆を見るエルザの反応を想像して聞いていなかった。
「よし、じゃあもう遅いし夕飯にするか、エルザMP回復頼めるか?」
「も、もちろんです!」
エルザはやっとイノリが怒りを沈めたのかと思いMPを回復する。
そしてイノリは納豆を創造する。
納豆だけをエルザに渡す。
「......イノリさん?」
「ああ、それは納豆と言うものだ」
「こ、これを食べるんですか?」
「それを食べるならアイテムボックスの件は許してやるぞ」
エルザはそんな言葉を聞き絶望していた。
イノリも流石にちょっと可哀想だと思い白米を追加した。
エルザにとっては余り変わらないだろうが......。
「......イノリさん、謝りますからどうか普通の食べ物を恵んで下さい」
泣きそうな顔でそんなことを言うエルザ。
イノリは納豆を混ぜてやりご飯にかける。
「まぁ、不味くはないと思うから食べてみろ」
そうイノリが言うとゆっくり、本当にゆっくり口に運ぶエルザ。
その際目に涙が溜まっていた。
「......美味しい、です」
イノリは心の底から安堵した。
失敗したかもと正直不安になっていたのである。
「それは良かった」
そう言い美味かったのならとイノリはラーメンを創造する。
消費MPは30。
ただそんなイノリのラーメンを見るとエルザは当然納得がいかない。
「なんで私はこの納豆でイノリさんはその匂いも全て美味しそうなものを食べてるんですか!」
「美味しいって言ってたじゃないか」
「た、確かに想像していたよりも美味しかったですけどそっちの方が美味しそうじゃないですか!」
当然の発言だろう。
「俺を騙した罰だ、我慢しろ」
「そ、そんな......」
目の前にこんな美味しそうなものがあるのに食べられないというのは地獄だろう。
特に貴族のエルザには。
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そこではある貴族の当主が娘を心配していた。
「まだエルザは見つからないのか!」
「申し訳ございません、ここまで探してい居ないとなるとやはり地獄の森に行ったのではないでしょうか」
地獄の森とはそこへ行ったものは口々にあそこは地獄だ! ということからついた名だ。
そしてそんな言葉を聞いた当主は頭を抱えるがすぐに指示を出す。
「今すぐに地獄の森へ何人か送れ」
「よろしいのですか?」
「......ああ、私が用意出来る最高級の装備を渡す」
「かしこまりました」
そう言い頭を下げながら部屋を出る男。
そして当主は誰もいなくなった部屋で一人。
「エルザ、無事でいてくれよ」
そう呟くのだった。