第四話 イノリのピンチ
イノリは我に返る。
「あー、君は?」
そんなイノリの言葉に身体をビクッ、とさせていたが答える。
イノリは鑑定眼で見ているから聞く必要はないのだがいきなり名前を知られているなんて怪しすぎると判断したからこその質問だ。
「わ、たしは......エルザ、です」
エルザがフルネームを名乗らなかったことには触れないようにするイノリ。
「そうか、それでエルザはなんでここに?」
イノリの質問を聞くと黙って俯くエルザ。
(どうしたものか......)
エルザはここがダンジョンだとは気づいていなかったがここでエルザを無下にしたりでもし、貴族の部下が出てきてはたまらなかった。
そしてイノリは取り敢えずとハンバーグを創造する。
いきなりのいい匂いにエルザは驚いていたがイノリはそんなこと気にせずにフォークも創造する。
ここでもしエルザに何かを言われでもしたらアイテムボックスから出したとでも言おうと思っての行動だ。
もしアイテムボックスが魔王しか取得できないスキルであった場合はどうなっていたかは分からないが、幸いエルザは何も触れてこなかった、というよりはお腹が空いて頭が回っていないのだろう。
そしてそんなハンバーグとフォークをエルザに渡す。
「あ、あの?」
「食べていいぞ」
イノリがそう言うとエルザはハンバーグを食べ始める。
そして半分を食べたところで涙を流し始める。
ただイノリはハンバーグ定食とハンバーグの消費MPを比べるためにステータスを確認していたのでそんなエルザの様子には気がつかない。
スーだけがそれに気がつきエルザを慰めていた。
(んー、ハンバーグ定食の消費MPは30ハンバーグ単体だと25、卵とオムライスと同じか.......そしてフォークはスプーンと同じ10か)
そう思いエルザの方を見るがエルザはもう泣き止んでおり、ハンバーグを食べ終えた後だった。
「あ、あの......ありがとうございました、その、美味しかったです」
「どういたしまして、それで? どこから来たか教えて貰えるか? 近くまでなら送るぞ?」
「い、いえ......その私は」
そう言いまた俯いてしまうエルザ。
イノリは本当にどうしようか迷っていた。
「何か言ってくれないと俺も分からないぞ?」
「そ、それは......」
(どうしようか......魔王としてはダンジョンの場所を知っている奴を生かしておいちゃ不味いんだろうが......それは最終手段だな)
イノリは一応エルザを始末することも考えていた。
こんな世界に転生したのだからイノリも生きるために甘いことを言っていられないのだ。
魔王としてはすぐに殺さないだけ甘いのだろうが。
「あ、あの!」
イノリが色々と考えていると不意にエルザが声を掛けてくる。
「どうした?」
「えっと、まず貴方の名前を教えて貰えませんか?」
「......イノリだ」
一瞬どうするかと迷ったがここで嘘をつく意味は無いだろうと思い正直に名乗る。
「しばらくの間でいいのでイノリさんにお世話にならせてください」
エルザはそう言い頭を下げるがイノリは直ぐにそれを断る。
イノリの世話になると言うことはエルザをダンジョンに住ませるということだった。
流石にイノリもそれは許容できなかった。
「......理由をお聞きしても?」
「俺にメリットがない」
寧ろ少ないMPでエルザの食事を創造しなければならなかったり、いつダンジョンコアが見つかり壊されるかも分からなかったりとデメリットだらけだった。
「......私の身体を好きにしてくれてもいいんですよ?」
エルザは泣きそうな顔でそんなことを言う。
「そういう事は好きな人に言えばいい」
これがもしエルザが巨乳であったならイノリの答えは変わっていたかもしれないが、生憎とそんなことは無かった。
二つの意味で無かった。
「イノリさんはお優しいんですね」
「取り敢えず、どうする?」
「どうするとは?」
「俺に家の場所を教えて近くまで送って貰うか一人でここから出ていくかだ」
「イノリさん」
「何だ?」
「何故このスライムは攻撃してこないんですか?」
不意にそんなことを聞かれ少し戸惑ってしまうイノリ。
「あ、あぁそいつはテイムしたんだよ」
「テイム......とは?」
前世のゲームの知識でそんなことを言うイノリだが無慈悲なことにエルザはテイムを知らなかった。
「テイムってのはな魔物を使役したりすることだ」
先程テイムと言ってしまったことから今更さっきの言葉を無かったことには出来ないのでそう説明してみる。
「魔物を使役するのは魔王にしか出来ないはずですが......」
じゃあお前スーと寝てたじゃねぇか! と言おうと思ったが、冷静になりどう言い訳すればいいかを考える。
「馬鹿いえよ、俺が魔王だったらとっくにエルザの事を殺してるぞ?」
「それは......そうですよね」
あぶねー、と内心思いながらもイノリは表情には出さない。
「でしたら先程の料理はどこから出したんですか?」
「どこって、アイテムボックスだが?」
「......アイテムボックスというスキルは魔王にしか使えないはずなのですが」
「......は?」
イノリの間の抜けた声が洞窟に響くのだった。