第十九話 あっけない終わり
イノリは周囲の物音で目を覚ます。
そうして辺りを見渡すとフェルが顔まで真っ黒で覆った人と戦っていた。
ただイノリはそこまで心配していない。
だってフェンリルだから。
エルザの方を見ると眠っていた。
こんな音の中でよく眠れるなと思うも取り敢えずフェルに加勢する。
黒い人達はイノリに気がつき一瞬動きを止める。
イノリはそれに気がついたがそこまで気にしないで近づき手加減しながら腹を殴る。
するとその場に倒れ動かなくなる。
気絶したか分からないので錨を創造して倒れている人の上に置く。
そんなことをしているうちに他の人も全員気絶(多分)していた。
「フェル、こいつらは?」
「分からないけど変な薬を使ってると思う」
「薬?」
「普通の人が吸い込むとしばらく起きない薬だと思う」
その言葉を聞きエルザの方を見る。
「だからエルザも起きないのか?」
「多分」
イノリは自分とフェルは大丈夫なのは魔王とフェンリルだからなのだろうとなんとなく分かっているので口には出さない。
「この人達どうする?」
「んー、面倒だけど話を聞き出すか」
尋問や拷問なんてしたことがないので出来るかは分からないがやってみるしかない。
本職の人に任せればいいのかもしれないがこんな夜中に行くのは迷惑だろうとどうしても思ってしまう。
一番の理由はフェルがなんとなく今聞きだしたそうだったからだが。
「フェル、少し小さめで元の姿に戻れるか?」
「なんで?」
「フェルが食べるぞーって脅したらいいかなって」
顔までわざわざ黒くしているのだからこんなことで何かを喋るとは思わなかったが一応、だ。
「フェンリル......」
一人の男(声的に)がそんなことを言う。
(よく物語とかで自害とかしたりするけどこいつらは自害どころかなんかしゃべってくれそうだな)
「よし、フェルご飯だぞ」
「我は人間なぞ食べん」
(フェンリルの姿になったら一人称戻るのかよ......でも馬鹿なとこは変わらないのね。まぁ、フェンリルの言葉なんてこいつらにはわからないからいいが)
イノリは言語翻訳のスキルで分かるがこの男たちが似たようなスキルを持っているとは考えずらかった。
そもそもイノリのスキルは固有スキルなのだから。
そして男達はフェルの言葉がわからないので自分たちを食べようとしているのかと思い、すぐにこの街の領主の男爵に頼まれたと吐いた。
嘘の可能性もあったがフェルが嘘じゃないと言うので何かそういうスキルがあるのだろうと思い、信じることにする。
そしてこの街が人間至上主義者の集まりということも分かった。
(フェルの様子がおかしかったのは......いつもの事だが今回はこれが原因か?)
他にも色々吐いてくれた。この男たちをどうするかを考えるが、一瞬で決める。
警備兵に渡すことにした。
「よし、フェル」
「ん?」
フェルはもう人の姿に戻っている。
「腹立つし領主の館潰そう」
「分かったけど、エルザは?」
「あ......しばらく起きないんだったな......もうフェルの眷属は出せないのか?」
「出せるよ」
「出せるのかよ、ダメ元だったんだがな」
フェルが眷属を召喚し人目になるべく触れないように屋根の上を走る。
足音とか消すなんて芸当はイノリとフェルには出来ないのでなるべく顔を見られないように急ぐことにする。
「これだよな」
一番大きい館の近くの屋根に立ちそう言う。
「あの部屋に男爵って奴がいると思う」
「そうか、屋敷にいる他のやつはどうしような」
さっきまでは館ごと潰すつもりだったが少し冷静になると館にいる使用人をどうしようかと迷う。
「なんでか分からないけど男爵の近くに使用人? とにかく人は居ないよ」
「ほんとか?」
「うん」
男爵が怒っていることを知っている使用人たちはなるべく男爵から距離を置いているのだ。
もちろん呼び出されたら行くしかないが巻き込まれることは無い。
「よく分からないけどラッキーって事でいいか」
イノリとフェルは屋根から飛び降りイノリは屋敷を殴る。
すると壁に穴が空く。
ただフェルが殴ると壁の穴など可愛いと思える程の穴......というか半分崩壊した屋敷が出来上がった。
「今度はちゃんと手加減した」
「あー、うん。これ男爵生きてるのか?」
「大丈夫、生きてる」
「なら......いいか」
無事な屋敷の方から旦那様ーと声が聞こえてくるのでフェルと一緒にその場を離れる。
完全気離れる前にイノリはもう一度だけ屋敷を見るが物理法則に明らかに反していた。
イノリは触れないことにする。
それが一番だ。




