17時25分……その時、カセットテープに呼び鈴が記録された。
これは『なろうラジオ大賞3』応募用の作品です。
【2021年12月7日】
ジャンルを『コメディー』から『ヒューマンドラマ』に移動しました。
時は昭和58年冬……本土で一番大きいと言われる県の、ある田舎町にある、ごく普通の平屋建てでは、ある任務が遂行されようとしていた。
居間に鎮座しているテレビ(ゴリマッチョ)からは、全国の子供に大人気のアニメが流れており、その前にはラジカセ(ゴリマッチョ)が、スピーカーを向き合うように置かれていた。そして……その間には、この家に住む11歳の娘『瑠々子』が、腰に手をあて仁王立ちしていた。
「これより、カセットテープにアニメの終わりの歌を録音する。総員、物音を立てぬように注意せよ!!」
瑠々子がそう叫ぶと、炬燵で温まっていた瑠々子の母と双子の妹『美姫子』が、勢いよく立ち上がり、瑠々子に向かって「了解!!」と敬礼する。
「音立てんなっつってんだろ!!」
「えー? まだ良いじゃん。まだ後半が始まったばかりだよ」
「そうよ、少し落ち着きなさい。瑠々子」
「所で、アホ親父は?」
「大丈夫! お母さんがちゃんと手刀で眠らせておいたわ!!」
「黒猫の雪は?」
「美姫子が、隣の部屋につれて行ったよ! 今も座布団の上で丸くなってる!!」
「よっしゃ! 準備万端だな!!」
目の前で、右手を力強く握る瑠々子。
「あ! お姉ちゃん、もうすぐ後半が終わるんじゃない!?」
「なぬ!? そうか!!」
美姫子の声に反応するように、テレビの方を振り返る瑠々子。すると、そこにはアニメの主人公が、前半の行いの悪さによって、ビキニ姿の宇宙人美少女に懲らしめられるシーンが映っていた。
「よし! 時は来た!!」
瑠々子はそう言うと、炬燵の上に置いておいた空のカセットテープを手にし、ラジカセにセットする。そのうちに、テレビはアニメの主人公の顔を抜き出すように、闇が画面中心に向かって覆い始める。
瑠々子は、人差し指を自分の唇にそっと添え、皆に静かにするように伝えると、その人差し指を録音ボタンに乗せ、闇が画面全体を覆い尽くのを待った。
そして、テレビの画面が黒一色になり、映像が切り替わる瞬間……
瑠々子は録音ボタンを押した。
直後、テレビからアニメの終わりの歌が流れ始める。正しく、最高のタイミング。
あとは、細心の注意を払い、曲が流れ終わるのを待つばかり。物音を立てぬよう、神経を集中させる母と美姫子。停止ボタンに手をかける瑠々子。
30秒経ち……
60秒経ち……
残り15秒となった時……
静寂に包まれた居間に『ピンポーン』という、大きな呼び鈴が鳴り響いた。
「任務、しっぱいいぃぃ!!」
……任務、しっぱいいいぃぃ!!




