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銀の槍の聖女~青春期の終わり~  作者: ふわふわ羊
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08.銀の槍バーベキュー


 長期休暇期間はあっという間に過ぎる。

 三日に一度ほど、ギルガンの屋敷でヘレンは指導を受け、腕を上げた。

 そうでない時は、兄のアーガンの自動車売りを見学しながら手伝う。

「なあヘレン、休暇が終わりそうになったら、こいつで送って行ってやろうか?」アーガンは言った。

「うん。お願いするよ。馬車を頼むよりお金を使わずに済みそう」ヘレンはにこやかに答える。

 時々、綾子からヘレンに手紙が届いた。

 親の手伝いをさせられていること。

 旧友が親にお見合い相手を決められそうになっていること。

 露店で食べた林檎飴がおいしかったこと。

 色々と、書いてあった。

 俳句も稀に、したためてある。

 ――夕焼けを、紅蓮の竜、駆けまわる。

 ヘレンはこう思った。綾子、紅蓮竜を扱えたか?

 とりあえず、ヘレンはこう返事を出した。

 ――懐かしき、授業の後を、思い出す。

 返句ではなく、川柳であった。


 長期休暇期間が間もなく終わりそうになっている。

 ヘレンはギルガンと父に挨拶をした後、兄の自動車で魔法学校へ向かった。

 タイヤが太く、悪路だったが、無理やりに突っ切って行く。

 快適とは言えない旅であった。

 結局、着いたのは夜中である。兄は近くの町で一泊するとのことだった。

 久しぶりの寮の部屋である。ヘレンは一息ついた。

 興奮で寝付けないので、少し外に散歩へ出る。

 魔法学校の門まで、応用魔法のことを考えながら歩いた。

 その時、馬車の来る音がする。

 ヘレンは門の隅に寄った。

 馬車はそのまま通り過ぎるだろうと思われたが、意外にも門で止まった。

「おいーっす! ヘレン!」金盗みのジェンである。

「馬車の旅、お疲れ様。ここからジェンの家まで二日だっけ?」ヘレンは言った。

「三日か、二日か、もしくは四日だ! ちょっと待ってくれ――よっこらしょ。御者さん! ここで引き返して良いよ!」ジェンは叫ぶ。

 馬車は去った。

 荷物を持ったジェンと並んでヘレンは歩き出す。

「長期休暇期間は楽しかった?」ヘレンは言う。

「まあまあだね! お金もっと欲しくってさあ! サーカスに見習い魔導士として連れて行ってもらったよ! 火を口から吹くだけで観客は盛り上がったぜ! やっぱり上流とそれ以外では垣根があるんだなあと思ったね!」ジェンは楽しそうに答えた。

「生活が大変な人たちは、何かを研究する時間が無いんだろうね」転生前のことを思い出すヘレンである。


 さて、長期休暇期間が終わり、授業の日々が始まった。

 しかし、ヘレンにはゆとりがあった。一年生が取得すべき単位を次々と取得していった為である。殆んど、ヘレンは授業に出席せず、魔力の質向上に努めたり、本を読んで見聞を広めていた。

 そんな中、その日の授業が終わった夕方頃に、綾子が言った。

「ねえ知ってる? 銀の槍の話なんだけど」

「何それ」ヘレンは読んでる本から顔を上げて聞いた。

「私たちの同級生に業火の聖女がいるのは知ってるよね? その取り巻きがあちこちに言って、銀の槍を抜かせようとしているらしいよ」

「そもそも銀の槍って何?」ヘレンはぴんと来てなかった。

「この学校の敷地内にある伝説の槍だってさー。よく知らないけど、すっごい魔力が蓄積されてるらしいねー」

「ふーん。興味無し」

「あっははー! クールだねえ! 私も言ってみようかな! ――ふーん。興味無し!」

 楽しそうな学園生活であった。


 そんな感じで――月日が二年と半年、経つ。

 ヘレンの身長は伸び続けて、一七〇センチメートルに達した。

 もう間もなく、一六歳である。

 この頃にはすっかりヘレンの存在は学校中に知れ渡った。

 単位をすぐ取得して授業に出ない秀才。下流階級の人間で、交流会と称した集まりで出来の悪い生徒に魔法の指導をする。鬼教官。指導に耐えられれば、成果は出る。あと可愛い。身長高くてモデルみたい。

 そんな感じであった。

 業火の聖女も、有名人であった。

 すぐ上級生をパシる。障壁を張らせて、そこに適当に魔法を打ち込んでサンドバッグにする。気に入らない上級生を正座させて、取り巻きの声援の元、説教する。でも誰も逆らえない。学校で一番、強いから。高名な貴族の取り巻きをうまく使っており、政治力もある。

 意外にも、この二人は入学して長い間、会ったことがない。

 しかし、よりによって、とある日に初対面を迎えてしまった――。


「銀の槍入手パーティですわッ!!!」業火の聖女、マリア・A・ロンダウルフは叫ぶ。

 夕方、授業が終わってから第十三基本魔法室にマリアの派閥の人間が集った。マリアの権威向上計画の為である。

「はい。私から皆さんに詳細を説明したいと思います」マリアの取り巻き、カーチャが言った。

「数か月後、マリア様が一六歳になり三年生となった頃、銀の槍が刺さっている聖なる岩がある場所にて、バーベキューをします。本来なら全校生徒を集めたかったところですが、人数が多すぎるので、同級生のうち上流階級の約二〇〇人だけ招待します。バーベキューの途中で空気が盛り上がってきたところで、マリア様が銀の槍を抜き、威光が響くというプランです。こんな感じですが、皆さんよろしくお願いします」

 二〇〇人とは、随分と賑やかなバーベキューになりそうである。

 それにしても、本当にマリアは銀の槍を抜けるのだろうか?

 ――大丈夫。だって彼女は天才で、なおかつ予言にあった名前を持っていますから。

 マリアの取り巻きたちはそう考えていた。

 着々と準備を進めるマリアたちに対し、ヘレンは吞気なものである。

 さっさと授業の単位を取り、自由な時間で魔法の研究をする。交流会の準備もする。平和であった。


 さて数か月後、運命の日の直前――。

 ヘレンたちは三年生になった。私服が許可されるようになる。

 転生前の記憶がある為だろうか、ヘレンは中々、当時としては珍しい恰好をした。

 ブルーのスーツである。

 ネクタイはしていない。ジャケットの前は止めておらず、シャツのボタンが一つ開けられている。

 それに、頭に羽の付いたハンチング帽をかけた。髪型もそれに合わせ、ショートカットにする。

 下級生、及び同級生の中流階級や下級階級には好評であった。

 廊下を颯爽と歩く様は見事なものである。

 綾子が言った。「中々、噂になってるよ。彼氏はいないのかってね!」

「そりゃお節介な噂だね。ふむう」ヘレンは答える。

「そういえば知ってる? 今週末の休みに上流階級のパーティがあるんだってさ」

「関係無いね」ヘレンは本当に興味無さそうであった。

「だけどさ、そこで銀の槍を抜くんだって。ちなみに私も抜こうとしたけど、駄目でした」綾子は舌を出す。

「あぁ、アレか。まあ良いんじゃないの」

 しかし。

 そんなヘレンと綾子に招待状が届くのである。


「何で私に招待状が......?」訝しむヘレン。

「まあまあ、お気になさらず。どうぞ普段着でいらっしゃって下さい。いつものスーツ姿で。風魔法を使うので、スーツに匂いは付きませんよ。綾子さんもよろしくお願いします」マリアの取り巻き、カーチャがヘレンと綾子に言う。

「いやあ、中流階級の私にもこんな日が来るとはー! カーチャさん感謝ですー!」綾子は元気に答えた。

 ヘレンは、

 ――まあ、上流階級とのコネを作っておくのも悪くない、のかな?

 と、そんなことを思った。


 さて、当日。

 バーベキュー台が予備含め四〇台も運び込まれる大きなパーティである。

 貴族お抱えの料理人及びスタッフが――合計四〇人!

 中々のものであった。

 パーティ会場は銀の槍を囲うように、設営された。

 開始の挨拶は無く、各々が勝ってに肉を食べている。

 ヘレンと綾子は周りを見渡した。

「居場所無いなあ」ヘレンは言う。

「ちょっと雰囲気が良さそうな場所探しておくよ! 待っておくれヘレン!」綾子はそう答えるなり、あちこちの上流階級に声をかけた。

 しばらくして、ヘレンは声をかけられた。

「ヘレン君。君も来ていたのか」勇者のヴァランダである

「ヴァランダ。上流階級ばっかりで、私は居場所が無いぜ」兄の口調が思わず出たヘレンであった。

「なら私のスペースに来たらどうだ? 男だらけだが......まあ君なら問題は無かろう」

「ありがとう。綾子も一緒で良いか?」

「綾子君も来ているのか。あのマリアにしては妙だな......まあいい。来いよ」

 ヘレンはあちこち歩いてる綾子を探し出し、ヴァランダの元に向かった。

 勇者の仲間は他の上流階級と比べて気さくであった。

 ――案外、楽しいパーティになったな。

 そんなことを考えたヘレンだった。

 その時、ラッパの音が響いた。

 銀の槍の近くにいるカーチャが従者に鳴らせたのである。

「これより、銀の槍を抜きます。マリア・A・ロンダウルフ、ヘレン・F・カミンググラフ、前に出て下さい」

 唐突な事態に混乱するヘレン。

 ヘレンが逡巡していると、マリアの取り巻きがヘレンの両腕を左右から固めて無理やり前に連れていってしまった。

「ごきげんよう。秀才のヘレンさん」業火の聖女、マリアの最初の一声はそれだった。

「どうも」適当に返事を返すヘレン。

 ――何故、私も前に出てくる必要があるんだ?

 そう思っていると、ヘレンにマリアがこう言った。

「私を除いて、聖なる岩から銀の槍を抜く試みをしていないのは貴方だけです。ヘレン。他の全校生徒は抜くのに失敗しました」

 そう言われて、ヘレンはようやく、自分を取り巻く悪意に気付いた。

 要は、

 ――下流階級の生意気な秀才に、聖なる岩から銀の槍を抜かせようとして、失敗させる。その後で、満を持してマリアが銀の槍を抜く。下流階級と上流階級の差を衆人にさらし、パーティを終了する。

 というシナリオが描かれていたのである。

 ヘレンは言った。「私が失敗したら、最後は貴方だけ? マリア」

 マリアは答える。「そうです。そして私が最後に槍を抜く試みをします。さあ、決心がつきましたらどうぞ、槍を抜いて下さいまし」

 ヘレンは銀の槍の前に立った。

 衆人は固唾を飲んで見守っている。

「ヘレン......! ああ、どうしてこんなことに」綾子が言う。

「マリア......彼女の悪意は中々のものだな」ヴァランダが吐き捨てるように言う。

 そして。

 ヘレンは。

 銀の槍に手をかけた。

 沈黙。

 そして。

 ヘレンは力を込めた。

 だが――。

 槍は抜けなかった。

 その様子を見て、カーチャたちマリアの取り巻きは安心する。

「残念でしたわね。さあ、次は私の出番ですわ」

 マリアはヘレンの横に立った。

 しかし。

 ヘレンは退こうとしなかった。

「あの?」

「ねえ。私が失敗したら貴方が抜くんだよね」ヘレンはぞっとする声で言った。

 ――何か悪い予感がする。

 マリアはそう思った。

「貴方は既に失敗しました。そこをお退きになられて?」焦るようにマリアは言う。

「そう......私が失敗したら、貴方が抜くんだ......ふうん、それは、結構、結構」ヘレンはそう言って、にやりと笑った。

 そして。

 スーツの内側からそれを取り出した。

 マリアはぎょっとする。

 ヘレンが手にしているものは、指であったからだ。

 そう、ヘレンは魔導士の指を手にした。

 それから、呪文を唱えた。

「応用魔法! 神よ、圧を高め給え!」

 そしてヘレンは魔導士の指を銀の槍に触れさせた。

「な、何を」マリアは言う。

 瞬間。

 パーティに参加した全員が、銀の槍から驚くべき圧を感じ取った。

 ――今、ヘレンは銀の槍に蓄積された魔力の圧を高めている。その為である。

 その行為を止めさせようとマリアがヘレンの腕を掴もうとした時。

 ヘレンは言った。

「神よ、我に武力を与え給え! 爆発の太陽!」

 辺りは凄まじい光に包まれた。


 あまりの轟音と光に、綾子は目と耳を閉じてしまった。

 ヴァランダも同様である。

「何が......どうなった」呟くヴァランダ。

 綾子は徐々に目を開けていき、ヘレンのいる方向を見た。

 そこには。

 砕かれた聖なる岩と、銀の槍を手にしたヘレンがいた。

 パーティ会場は沈黙した。

 長い間、静寂が場を支配していた。

 そして、カーチャが叫んだ。

「何やってんだお前えええええええ!!!!!!」

「何って......槍の魔力で岩を無理やり壊しただけですが」ヘレンはさらっと言う。

 口をぱくぱくさせるマリアであったが、何とか言葉を捻りだした。

「槍が......槍が......持ち主を認めないと意味が......無いのですよ」

「あ、そう。じゃあ差し上げます」

 ヘレンはぽいっと、槍をマリアの足元に放った。

 そして、ヘレンは歩き出した。

 マリアはヘレンの後ろ姿を眺めていたが、とりあえず、槍を手に持つことにした。

 ――計画が崩れた。けど、これで私が銀の槍を手にするのは間違いない。

 そう思いながら、マリアは足元の槍を手に取ろうとする。

 だが。


 銀の槍はマリアの手を避けた。


「......え?」

 マリア、何度も銀の槍を拾おうとする。

 だが、拾えなかった。

 何度も、銀の槍はマリアの手を避ける。

 どうしたことか、と思ったマリアの目の前で、銀の槍が浮かび上がった。

「お、おお!?」どよめく衆人。


 そして銀の槍は、去ってゆくヘレンの後ろ姿目掛けて、矢が放たれるように飛んで行った――。


ここまで読了ありがとうございます。

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