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銀の槍の聖女~青春期の終わり~  作者: ふわふわ羊
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07.星は微睡む


 月日はあっという間に過ぎる。

 魔法を幼い頃から学んできた上流階級にとっては太陽のような二か月であった。

 やはり、中流階級と下流階級の人間は例外を除いて苦労する。

 こういう時、綾子は輝いた。

「夏休み前にー! 一度交流会を開こうー! ぱちぱちー!」寮の部屋で唐突に綾子はヘレンにこう言った。ヘレンは目をぱちくりさせる。

「どういうこと?」

「ヘレン、頼む! 我々の星になってくれー! 中流階級も下流階級も、魔法の扱いに難儀しているー!」

「あ、そう。まあ講義するくらいなら」ヘレンは言った。

「よし! じゃ、人集めるから! 今週末ね! よろ!」綾子は言う。

 そういうわけで、週末の休みに演習場Bに人間がぞろぞろと集まった。

 十数名、いる。

 綾子は叫んだ「はーい! こちらが我らの星! ヘレン・F・カミンググラフでありますー! ヘレンよろしく!」

 ヘレンは、

 ――要は魔法をうまく使わせれば良いのだろう。

 と考えた。そして講義の内容を考えてきた。

「では皆さん、白線の上に立ってください」

 ヘレンは促す。生徒たちはぞろぞろ歩いた。

「基本からやっていきましょう。あの的に向かって、適切な威力の火魔法を放って下さい」

 それを聞いて、生徒が各々、魔法を放つ。

 火が小さい者。的に放つにしては火力が大きすぎる者。すぐに火が消えてしまう者。そもそも火が出ない者。

「先生、どう? これが中流と下級の現実よ」綾子がこっそりヘレンに耳打ちする。

 ヘレンは順番に生徒を見回る。

「君、名前は?」

「オスカーだ!」

「君の魔力は少ないね。だから火が小さいんだ。毎日瞑想をしてる?」

「さ、さぼってる、かも」

「さぼるな、というか今からやれ」ヘレン、鬼教官モードに入る。

 次の生徒をヘレンは見た。「君、名前は?」

「デーン......だ」

「デーン、君の指は魔力の出口としては巨大な部類に入る。閉まる門をイメージしろ。そうすれば放出する魔力の量を調整できるだろう」

「そうか......ありがとう」デーンは言った。

「どういたしまして。次の君、名前は?」

「リャックです」

「ふーむ。魔力が乱れているね。もしかして集中出来ない?」

 リャックは言った。「昔から落ち着きがないって言われていますです」

「リャック、中腰になって」

「はいです」

 中腰になったリャックの頭に大きな氷塊をヘレンは乗せた。

「そのまま......そのまま......じゃあこの体勢を一時間維持することを毎日続けてみようか」

「スパルタです」リャックは弱音をあげる。

「魔力の乱れている者が質の高い魔法を放ちたいなら、集中力を上げるしかない。幸せに生きたいなら別の方法があるけど」ヘレンは言った。

「どんな方法です?」リャック、聞く。

「とにかくあらゆる魔法を覚えたり、応用力を磨くこと。それで質の低さをカバーできる。魔物の討伐依頼をする人は質の高い魔法を欲しがってるんじゃなくて、魔物を殺してほしいの。言ってる意味わかる?」

 そんな調子でヘレンは次々と生徒を見て回った。

 その中に、一人、ちょうどいい塩梅で魔法を放つ生徒がいた。

「君、筋良いね。ここに来なくて良かったんじゃない?」ヘレンは言う。

 その生徒はこう答えた。「見聞を広める為、君と話したかったんだ」

 ヘレンはまじまじと全身を見る。

 長身。痩せ過ぎではないが、細い。銀の髪。オールバック。細い目。薄い口。

「名前は?」ヘレンは聞く。

「ヴァランダ。一応これでも、勇者と言われている」

 ヘレンは唖然とした。

「綾子君があちこちに声をかけてる様子をたまたま見てね。好奇心から話を聞いてみたら、あの秀才ヘレンが講師をするじゃないか。ぜひ講義を受けてみたい。と、そういう次第だ」

「私に教えられることはあるかな?」ヘレンはようやく声を出した。

「火魔法をもう一度放つ。気になるところを言ってくれ」

 ヴァランダは火魔法をそつなく放った。

 ヘレンは考え、こう言う。

「非常に優秀。ただし、魔法を放つ時、一瞬だけ魔力の出口がより広がるのが気になる」

「ああ、やっぱりそう思うか」ヴァランダは残念そうに答えた。

「どういうこと」ヘレンは聞く。

「以前、巨大な魔物を討伐する時に、無茶をしてしまったんだ。巨大な敵を倒す為に巨大な魔法を、ってね。それ以来、魔法を放つのに少し、出口が広がる為にロスが生じるようになった」

「出口の挙動を抑えることを検討した?」

「僕の師匠によれば、数年かければ可能だそうだ。だから魔法学校にいる間に、なんとか抑えるつもりだ」

 これがヘレンとヴァランダの出会いであった。

 後で説明するが、数年後、二人は恋人になる。

 ヘレンはその場の全生徒にアドバイスすることを完了した。綾子が声をかけてくる。「お疲れー! 色々助かったわー! これで単位ゲット間違いなし!」

「継続して努力しないと身に付かないよ」鬼教官モードが抜けてないヘレンであった。

「スマンスマン......うん、魔法学校に来てるんだから魔法を確実に身に付けなきゃね。将来の為にも」

 ヘレンは聞く。「綾子は将来、魔導士に?」

「いや、魔導士と民間を繋ぐコンサルみたいなことをするつもり......っていうか、親がそれをやってるんだよね。それで言われたのさー。跡を継ぐなら魔法を学べって」

「なるほどね。じゃあ魔法を学ばないと後が無いわけだ」

「ぐさー! プレッシャーになること言わないでー! ヘレンー!!」

 その後、打ち上げと称して食堂に一同は集まり、食事を取った。

 こうして第一回交流会は終わったのだが、歴史的に見てヘレンの講義に意義はあっただろうか。

 筆者は、あったと考える。

 何故なら、後ほど説明する聖女誘拐計画に関わってくるからだ。


 その頃、一方で。

 西モスキーナ山のアーガン・F・カミンググラフは、自動車を輸入した。

 一八〇〇年台後半に蒸気機関の車がB国で主に生産されたが、それがこの時代、ガソリンエンジンの自動車となって改められた。

 高価であったが、見世物小屋で魔法を使って大部分の資金を稼ぎ、残りは仲間内でカンパしたことで解決する。

 輸入した自動車を走らせてアーガンは感動した。

 ――どこにでも行けるな、こりゃ。

 そう思った。

 アーガンは輸入した自動車をさらに高価にし、上流階級に売りつける。

 それを繰り返し、行うことで、自動車の台数を増やした。

 やがて、それが本業の商売になる。

 父の手伝いをやめて、自動車売りになってから、羽振りが良くなった。

 元々カリスマを持っている人間であることはすでに述べている。

 さらにアーガンは人を惹きつける人間となった。

 人々は金の匂いに釣られ、腕力と気合に畏怖し、それからアーガンの魔法に驚愕する。

 慕う人間はどんどん増えていった。

 そういう、慕う人間と時々、昼間にレースをした。

 定員四名の自動車に八人乗り込んだ車が数台、高速で山を駆け巡る。

 ここから、人々に暴走族と呼ばれた。

 悪名である。

 アーガンはさらに羽ばたこうとしていた。

 そんな中。

 妹の長期休暇期間がやってきた。


「明日、妹が帰ってくると連絡があった」アーガンは恋人のミシェルに言う。

「さぞ驚くでしょうね。今の兄の状況を見たら」ミシェルは言った。

「いや、妹は肝がある。動じないさ」妹が転生者であることはまだ、ミシェルには言ってなかったアーガンである。

「例の話はするの」ミシェルは窺うように聞く。

「どの話だっけ」

「ヤクザからスカウトされてるって話」

「ああ。話すよ。断るってこともね」アーガンはさらりと言った。

 ミシェルはほっとして、「それなら良かった。承諾するなら別れてた」と言った。

「俺のことを見誤るなよミシェル。人としてやっちゃいけないことは分かってるさ。俺は親父の仁義の血を引いてるんだ」アーガンはこの頃、お父さんではなく、親父と言う。

「ねえ、将来はどう生きていくの」ミシェルは聞いた。

「そうだな。まずミシェルと結婚することは確実として」アーガンは言う。「自動車をA国全体に広めたい。あちこちでインフラが整備されつつあるから、かなり普及するはずだ」

 慧眼であった。

 A国国土交通省は市場活発化の為に、インフラを強化していくことを決定していた。

 国土交通省の大臣、ラフ・T・クーキュルは、

「俺の残りの寿命で、ダイナマイトを使いまくってやる。そしてあちこちの山と山を繋げてやる」

 と首相に言っている。


 長期休暇期間初日。

 ヘレンは通常の馬車で帰ることにした。

 スレイプニルは高額であったからである。

 悪路に重なり、工事している道があって、結局二日かかった。

 ギルガンの屋敷に一五時頃、着く。

 メイドが応接室にヘレンを通した。

 少しして、ギルガンが応接室に来る。

「お久しぶりです。先生」ヘレンは言った。

「うむ。万事うまくいっているようだな。定期的に魔法学校の教諭から電報を受け取った」

「電報を」そんな話は聞いていないヘレンである。

「校長のキールの気遣いであろう。さて、さっそくお主の魔力を見せてもらうぞ」ギルガンは言った。

 久しぶりに、二人で屋敷の庭に出る。相変わらず、芝生は見事であった。

「そう......そう......集中せよ。ふむ」ギルガンは言う。

 それから、賞賛した。

「ヘレン、お主はよくやってる。一三歳にしては驚愕すべき魔力の量だ。質もよくなっておる。やはり一日を学習に費やすと良いのであろう」

「ありがとうございます。先生」ヘレンは答える。

「そうだ。一つ、手ごろな魔法を教えてやろう。ヘレン。手に土の塊を出すことは出来るかね」

「やってみます。先生」

 ヘレンの手にみるみる土の山が出来上がる――。

「よし。そうしたら、土の塊を球状にして、魔力を込める。それから火魔法で一気に燃やして、投げるのだ」

 ヘレンは言われたことをやってみた。造作もなかった。

「では次のステップだ。今やったことをなるべく高速で、自分の上空から連続で放つのだ」

 ヘレンは試みる。高速とは言えないが、自分の上空から火の玉を放つことに成功した。

「それが隕石魔法だ。火魔法と土魔法の融合、応用魔法の一つだな。これを極めると、高い確率で敵を仕留めることが出来る。狙いを定めて斬撃を放つより、確実であろう?」ギルガンは言う。

「先生は素晴らしいですね。ますます敬服します」

「お世辞は良い。数回やって速度と連射数を向上させよ」

 ヘレンとギルガンは夕方まで訓練を行った。


 夕方。

 ギルガンと別れたヘレンは実家に帰った。

 父は目を細めて、「ああ、ヘレンか。よう戻った。飯を食うか」と言う。

 ヘレンは笑顔で、「うん。食べる。目は大丈夫?」と答えた。

「あんまりだな。目の医者にも通ってるがうまく見えん。だから按摩ばっかりやっておる。ヘレンは魔法学校をどうしておる」

「うん。まあまあうまくいってるよ。先生にも褒められた」

「それならよか。ささ、机に座れ」

 それから、兄のアーガンが帰宅した。

「ヘレン、お帰り~。どうよ? 魔法学校ってやつは」

「ただいま~お兄ちゃん。結構楽しい感じだよ」

「そいつは良かったな! それじゃあまずは飯だな! 親父の手伝いするから座ってろ」

 ヘレン、しばし机で待つ。そして辺りを見回す。

 ろくに物がない棚。古臭い匂いの家屋。それから――。

「あ。ランプ買ったんだ」ヘレン、独り言を言う。

 少し、嬉しくなった。変わらない家のように見えたが、少しだけ進化している。

 三〇分位して。

 机にリス肉入りスープとパンが運ばれた。

 それと、デザートの林檎も付いて来た。

「今日はリッチだね。お兄ちゃん」

「妹が帰ってきた日だからな。それにこのお兄ちゃん、実はこの三か月で色々進化してよぉ~。羽振り良いんだぜ。とりあえずスープ食ってみな」

 スープを食べるヘレン。それから、驚く。

「なんか深みがある!」

「出汁ってやつを使ったんだぜぇ~。金があるから、かつお節があるんだ我が家には」

 日本を思い出して思わず笑顔になるヘレンであった。

 三人で、夕飯を食する。


「ヘレン、お前に一応、言っておく」アーガンは言った。

「何?」

「ヤクザからスカウトされた」

 ヘレン、無言。

「だが、俺は断るつもりだ」

「報復の可能性は?」

「無い、とは思う。俺はまだガキだし、そこまで本気出さないだろう」

「そう。――安心したよ。断ると聞いて」

「麻薬には手を出さねえ。使うのも、使わせるのも、だ。前にヘレンに言った通りにな」

 この頃、ヤクザの麻薬業は活発であった。

「それが良いよ。お兄ちゃんはカタギじゃないと駄目」

「ああ。わかってる。それからな、将来はミシェルと結婚する」

「ふうん。良いんじゃない。私は誰と結婚しようかな」

「お前は引く手あまただ。魔法を学んだなら、上流と結婚するのも出来るぜ、きっと」

「上流より将来性ある人と結婚したいな」

「これだから転生者は」アーガンは言う。

 ヘレンは答えた。

「これだから人生一度目の人間は」

 それからヘレンは兄にウインクする。

 その光景を、父は黙って見つめていた――。

ここまで読了ありがとうございます。

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