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亡霊
名も知らぬ亡霊がここにいる。
半透明で濃度の希薄なその体は、
夕焼けを内包して発光している。
声が出せないのだろう。
何度も、何度も、何度も、何度も、
自身の喉元を引き裂いている。
やがて自身の姿の異常さに気付いたそれは、
驚愕とともに慌てふためいた。
なにせ、体の向こう側が透けて見えているのだから。
ゆらゆらと、風に吹かれる度に、
それは目を固く閉じて、両手を合わせ祈っている。
消えたくないという一心で。
やがて風が吹き去り、それは目を開ける。
自身の体がまだ消えていないことを知る。
その時、安堵と恍惚の入り混じった瞳を見た。
――あの形容し難い奇妙な瞳が、いまもおれの中に居座っている。




