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対岸
部屋の窓から外を覗くと
そこには海があった
今さっきまでありもしなかった
幻の海が広がっていた
その海に目を奪われていた一瞬に
世界の全てが変わってしまった
自分がいたはずの部屋も
キレイさっぱり無くなって
頬を撫でる風が
若草の匂いを運んでくる
ここはどこだろう、と疑問に思った
けれどここから戻りたくない、と感じた
元いた世界よりも心地良くて
自然と笑顔になれる
何もかも置いて行って
ずっと笑っていたい
どこからか鐘の音が聞こえる
踊るような音楽が溢れ出す
海を挟んだ対岸から
その音色は聞こえてくる
裸足のまま、この気持ちのまま
向こう側に渡ってみよう
風にそよぐ曼殊沙華
誰かが笑顔で呼んでいる
手を伸ばして――




