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鏡
(惨めだな)
「そうでもないさ」
(いいや違うね)
「何が違うのさ」
(昔のおまえはそんな顔をしなかった)
「過ぎた話さ」
(結局今も忘れられずにいるんだろう?)
「ぼくだけは、忘れちゃいけないだろう」
(そんな考えはエゴに過ぎないさ)
「それでもいいんだ」
(あぁ、そうかい。呆れちまうね)
「その態度にだって慣れっこだ」
(気付いてるんだろう?)
「さぁ、何のことだろう」
(惚けても無駄さ。おれが一番よく知ってるからな)
「――さぁ、何のことだろうね」
(まあいいさ)
「それでいいよ」
映っているのは僕なのに
向こう側には俺がいるんだ
俺の言うことは全部正しくて
それが虚しくて笑ってしまう
哀しくないし、悲しくない
どうしようもなく広がるこの味は
きっと、憧憬だったのさ




