82.勇者、浜辺でバーベキューする
俺たちが邪神を討伐した、その日の夕方。
同好会メンバーは、海岸に集まって、夕飯を食べていた。
「わーい! バーベキューですー! うめーですー!」
浜辺にいくつもコンロが置いてある。
網の上には、炭火で焼いた海鮮やら肉やらが並んでいる。
ミカエルは肉の刺さった串を両手に持って、ご満悦の表情を浮かべていた。
「ユリウス君ほんとうにすごいね。料理もプロ級だなんて」
「あにうえはすごすぎるですー! なんでもできてすげーです!」
「ほんま、逆に何ができないのか聞きたいくらいやわ。さすがやで」
うんうん、とエリーゼたちが感心しきったようにうなずく。
「ほら、焼けたぞみんな。もっとくえー」
「「「わーい!」」」
俺の焼いた串を、みんなうまそうに食べる。
「……はぁ」
「どうした、弟よ。おまえも食え食え」
俺は串を弟に向ける。
ため息をつきながら、ガイアスが受け取る。
「……やっぱり兄さんは、すごいよ。こんな便利なもの作るし」
ガイアスはコンロを見てつぶやく。
「ひねるだけで火が出るとか、なんなのこれ?」
「え、ただの魔法コンロだけど?」
ひねると中に付与していた火の魔法が発動し、肉や野菜を焼いてくれる。
ちなみに自動で火加減を調整してくれる。
「魔法道具すらも作れるんだね……エリーゼの杖やサクラの札も、すごい威力だったし」
先ほどのダンジョンでの戦闘。
エリーゼは極大魔法を使い、サクラは魔族に匹敵する式神を召喚した。
実はどちらも、俺が合宿中に作成した、特別な魔法道具による効果だ。
「どこで習ったの、その道具作成の技術?」
「前世の師匠の賢者がさ、付与魔法が得意でよ。色々ならってたんだ」
「【魔法威力拡張】に【詠唱速度上昇】……いったいふたりの道具には、全部でいくつの付与がなされたの?」
「え、1000くらいかな?」
自動防御や緊急空間転移など、詰め込めるだけ詰め込んだ。
「せ、1000って! 最終兵器すぎるよそれ……。というか、ボクには何で作ってくれないのさ」
拗ねたように、ガイアスがつぶやく。
「2人にだけプレゼントして……ずるいよ」
「え、だっておまえには必要ないからな」
俺は焼けた新しい串を、ガイアスに渡す。
「魔法道具はあくまで能力の底上げする補助的なものだ。おまえは普通に強いから、道具に頼って、能力を上げなくていいんだよ」
「そ、そうなんだ……ふ、ふーん……あの2人より、ボクの力を認めてるんだ」
「え、そんなの当たり前だろ」
「あ、あっそ……! まあ……べ、別にまったくうれしくないけどねっ!」
ガイアスは顔を赤くして、俺から離れていく。
「あにうえー! がいあすとばっかりイチャイチャしないでですー!」
義弟は俺の腰にしがみついて、むぎゅーっと抱きしめる。
「ぼくも魔法道具ほしーほしー!」
「おうよ、安心しな。【とびきりのやつ】今作ってるからさ」
「わーい! あにうえ大好き~」
そんなふうに、俺たちは和やかに食事をした。
「ところでこのお肉めっちゃ美味いなぁ。何のお肉なん?」
「え、海神竜だけど?」
「「「り、リヴァイアサン!?」」」
みんながなんでか、驚いていた。
「う、嘘ぉ! 海に住む古竜の一種やでそれ!? そんなんお店で売ってるわけあらへんやん!」
「おう、だからさっき【採ってきた】んだよ。ほらあれ」
そのときだ。
ざっばぁあああああああああん!
『ぬぅおおおおおおおお! 海を荒らす不埒ものはどこだぁあああああああ!』
海から顔を出すのは、巨大なヘビだ。
青いぬるりとしたウロコに、ドラゴンの顔がついている。
そのウミヘビたちは、幾つも群れをなして、少し離れた沖合に並んでいた。
「ひぃいいい! り、海神竜めっちゃいるぅうううう!」
エリーゼが青い顔をして、その場にぺたんとしゃがみ込む。
「あにうえ! ぼくが倒してくるです!」
「いや、大丈夫だよ。ちょっと待ってな」
俺は剣を創生し、ダッ……! と走り出す。
砂浜を越えて、海の上を走る。
「す、すごい! 当たり前のように海の上を走ってるよ!」
「あははっ! あにうえすげー! どうなってるですー?」
背後で驚くミカエル達。
「え、右足が沈む前に、左足を出して、また右足を出してるだけだぞ? みんなも子供の頃やったろ?」
「そんなことできるの兄さんだけだよ!」
ややあって、俺は海神竜たちの元へやってきた。
「悪いな。弟たちのディナーになってくれ」
『くたばれぇええええええ!』
無数の海神竜たちは、俺めがけて、高圧の水流を口から放つ。
ドパァアアアアアアアアアアア!
しかし俺の体にたどり着くまえに、俺は剣を軽く振るう。
パリィイイイイイイイイイイン!
攻撃反射によって弾かれた水流は、海神竜たちの土手っ腹に穴を開ける。
あらかたこれで倒した。
魔法使うと消し炭になって食えないからな。
『こ、この異常な強さ。それにその黒髪……ま、まさかウワサの【暴虐の黒悪魔】か!?』
「暴虐の黒悪魔? え、なにそれ?」
運良く反射攻撃を逃れた海神竜が、目をむいて叫ぶ。
『魔物や魔神、邪神すらも容易く屠っていくという、今ウワサの【悪魔】だろう貴様ぁ!?』
「え、違うけど?」
生き残った海神竜たちが、いっせいに海へと帰ってく。
『逃げるな! くそっ! こうなったら一矢報いてやるぅ!』
「え、どうやって?」
ばらっ……! と海神竜が、バラバラになって海に落ちた。
俺は血ぬれた剣を、魔法で消す。
『斬撃が早すぎて、斬られたことに気づかなかった……やはり、暴虐の黒悪魔……おそる、べし』
事切れた海神竜を、亜空間に収納する。
俺はまた海を歩いて、弟たちの元へ戻る。
「ただいまー。新鮮なお肉採ってきたぞ」
レジャーシートの上に、取れたて新鮮、海神竜のお肉を大量におく。
「ま、まさかこのお肉……全部リヴァイアサンのなん?」
「おう。古竜の肉って美味いし、食べると魔力や闘気の量を増やすことができるからな」
「うちら魔物の肉食ってたん!?」
「ああ、合宿中ずっと。ちなみにガイアスは1学期から毎日毎食食ってるぞ」
「そうだったの!? 初耳なんだけど!?」
青い顔をしてガイアスが叫ぶ。
「け、けど魔物の肉には人間にとって有害な物質が含まれてるし、調理できる人なんて聞いたことあらへんで?」
「え、2000年前じゃ普通に料理して食ってたぞ?」
「もういい加減にして! 自分が異常だって学習しろよ! もう3ヶ月もたってるんだよぉおおお!?」
しかし料理したお肉達を、ガイアスたちは食べた。
「メチャクチャ美味いけど……なんだか怖いよ。知らぬ間に改造されてるみたいで……」
「わたし、上級魔法いくら打っても魔力切れにならないんだけど……」
「うち岩を片手で持てたわ……」
「どうした? たくさん食べなきゃ強くならないぞ?」
「「「もう十分すぎるんだよ!」」
「え、あの程度で? まだまだだろ?」
「「「そりゃ化物と比べたらね!」」」
そんなふうに、合宿の夜は、和やかに過ぎていったのだった。
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