08.勇者、魔法威力テストで壁を壊す
「次は、魔法の威力測定を行う」
先生が、カカシのようなものを持ってくる。
「ここに魔法を打つと、威力が数値化される。絶対に壊れないよう防護されてる。安心して打ってこい」
前世では、そんなものなかったな。
「では、誰かに手本を見せてもらおうかな」
「先生、天才のボクが、みんなに魔道のなんたるかを披露してみせましょう」
ガイアスが胸を張って、カカシの前に立つ。
自信満々だし、さぞすごいのだろう。
「我は望む！」
ど、どうしたガイアス、急に叫びだしたぞ？
「我が手に集え炎よ！ 其は魔を滅する破壊の炎！」
バババッ！ と謎の動き、謎の単語を発する。
弟はなんで、こんなおかしなことしてるんだろう？
「あーん♡ ガイアスの呪文詠唱ちょーかっこい～♡」
こ、こんな無駄の多い、わけのわからないものが、呪文詠唱だって……？
「我命に従え！ そして焼き尽くせ！」
ま、まあ大規模の魔法発動には、呪文は必須だもんな。
【煉獄業火球】みたいな極大魔法だろうか。
「【火球】！」
しょ、初級魔法に呪文詠唱だって……？
ガイアスの手から、小指の先くらいの火の球が出てくる。
それは蛍のように、ふよふよと頼りなく、非常にゆっくり飛んでいく。
時間をかけて、火の玉はカカシにぶつかる。
ぽひ……。
とてもお粗末な魔法だ。
先生からの評価も散々だろこれ……。
「素晴らしい！ 威力、射程、申し分ない！ まさに天才の名にふさわしい魔法だ！」
先生も同級生達も、ガイアスを大絶賛していた。
「嘘だろ」
思わず、本音がこぼれてしまった。
ガイアスは不機嫌な顔をして、俺に近づいてくる。
「何か言った、兄さん？」
「いや、この程度かって」
「はぁ！？ 魔法の使えないクズが、なにガイアスをバカにしてるのよ！？」
俺の常識とのギャップに戸惑っていただけだ。
弟を馬鹿にする意図はない。
「そこまで言うなら、兄さんの魔法見せてよ」
「お、いいぞ」
「まあ魔力のないクズに、そんなことできるわけ……って、え？」
俺はカカシの前に立つ。
「【火球】」
俺の右手から、３メートル程の火の玉が出現。
凄まじい早さで吹っ飛んでいき、カカシと激突する。
ドガァアアアアアアアアアアアン！
カカシはおろか、背後の壁すらも破壊してしまった。
「な、なんてすごい魔法だ……もしや、失われし極大魔法【煉獄業火球】では？」
「え、ただの【火球】だけど」
「「「はぁあああああ！？」」」
先生も、ガイアスも驚愕の表情を浮かべる。
「同じ火球であの威力、しかも呪文を詠唱しないなんて……！」
「え？ だいぶ手加減したぞ？」
弟はその場にへたり込み、がくりとうつむく。
「す、すごいじゃない！ ユリウスぅ♡」
ヒストリアは、喜色満面で俺に近づいてくる。
「あんた、実力を隠してたのね！ んも～早く言いなさいよぉ～♡」
彼女は俺の腰にしがみついて、気色の悪い声を上げる。
「アタシわかってたわ。あなたが本当は凄い人なんだって。さすがアタシのダーリン♡」
「え、何言ってんの？ おまえ弟の恋人だろ」
弟に悪いと思って、ヒストリアの肩をつかんで、引き剥がす。
「な、なによ……あんたあんなに、アタシに愛してほしがってたじゃない？」
「よくわからんが、自分の恋人ほっぽっといてダーリンはないだろ。そういうのよくないぞ」
ぽかんとするヒストリア。
ゆらり、と背後で弟が立ち上がる。
「よくもボクに恥をかかせたな、この出来損ない！」
ガイアスは立ち上がると、俺を指さす。
「勝負だ！ ボクの方が上ってこと思い知らせてやる！」
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