78.勇者、冒険者ギルド試験を受ける
俺は同好会のみんなと合宿へ行くことになった。
数日後、王都南西にある【カシクザキ】の町へやってきた。
冒険者ギルドにて。
「それでは、ギルド入団テストを行う」
俺たちがいるのは、建物の裏にあった運動場だ。
40代くらいの筋骨隆々の、鎧を着こんだ男が言う。
「諸君らの試験を監督するのはこの私、元S級冒険者の【カマセーヌ】だ」
「かませいぬ? あにうえ~こいつ変な名前~」
「口を慎みたまえ。私の機嫌を損ねると試験不合格にして、冒険者にはなれないぞ?」
「雑魚の癖にどうしてこんな偉そうです?」
ビキっ、とカマセーヌが青筋を立てて言う。
「……私は元とはいえS級冒険者。つまりこの国最高峰の実力を持ったパーティに所属していたのだ。言うに事欠いて雑魚だと?」
「雑魚に雑魚って言ってなにがわるいです? ぼく、弱いくせにくちばっかりなやつ嫌いです?」
殺気が伝わってきた。
俺は義弟の頭をポンポンする。
「それくらいにしとけ。すまん、こいつ子供なんで、許してやってくれ。ほら、ごめんなさいは?」
「はーい、ごめんなさーい」
イラついた表情で、カマセーヌがため息をつく。
「……今日の受験者は全員子供だと? まったく、冒険者ギルドも、舐められたものだな」
ビシッ、と俺たちを指さして言う。
「冒険者とは危険と隣り合わせ。弱肉強食、力なきものは死ぬ厳しい世界だ。当然、最低限の強さを持っていないものは成る資格すらない。ゆえに実力を試させてもらおう。もっとも……」
ふんっ、と小バカにしたように鼻を鳴らして言う。
「子供が合格できるほど、冒険者は甘い世界じゃない。百戦錬磨の私の見たところによると、君ら程度の実力では合格はできんな」
「あにうえ、こいつ目が悪いです?」
「はいはい、少し黙ってような」
俺は義弟の背後に回り、手で口を押える。
ミカエルは目を閉じて、俺の胸にほおずりしてきた。
「それでは、テストを始める。冒険者は主に魔法を使う後衛、武器で戦う前衛に分かれる。まずはどっちか決めてくれたまえ」
協議の末、パーティ構成はこうなった。
前衛→俺、ガイアス。
後衛→エリーゼ、サクラ、ミカエル。
「あにうえー、ぼくも前に出て戦いたい~」
「後衛を守る役割もいるからな。おまえ防御魔法得意だし」
「でも~」
「頼むよ」
「わかったです! あにうえの頼みなら!」
そんなふうに、パーティでの役割が決定した。
「ではまず、後衛組の強さを見せてもらおう。おのおの魔法を的に向けて打ってくれたまえ、こんなふうに!」
カマセーヌは片手を伸ばす。
ぽひ……。
右手から初級火魔法【火球】が出る。
無詠唱での魔法発動だったが、威力は全然だった。
「ふっ! どうだい諸君。無詠唱魔法だ! さすがはSランク冒険者だろう?」
「「「…………」」」
「はは! すごすぎて声も出ないか! うんうん、無詠唱は高等技術だからな、無理もない!」
エリーゼも含めて、全員が唖然としていた。
俺もちょっとコメントに困るなこれ。
「ではそこのハーフエルフくんから」
「は、はい……」
困惑しながらも、エリーゼは前に出る。
「詠唱時間も評価点に入るからな。まあ無詠唱は無理だろうけれど、なるべく短い方が良い評価となるぞ」
「わ、わかりました。えっと【巨岩連突】」
エリーゼが手を前に出し、無詠唱で魔法を使う。
彼女の周囲に、巨大な岩が出現する。
その数は10。
全部が的に向かって、正確に飛翔した。
どがががががぁあああああん!
「…………」
ぺたん、とカマセーヌが腰を抜かす。
「い、今のはじょ、上級魔法……? しかも、無詠唱で?」
ぶるぶると体を震わせながら、カマセーヌが彼女を見やる。
「そ、その歳で上級魔法を使うなんて……宮廷魔導士でも使える人はわずかなのに……」
「次うちいくなー」
サクラが手をあげる。
「【落雷連剣】~」
上空に魔法陣が出現。
雷の剣が、100本出現。
グラウンド広範囲に落ちる。
ずががががががぁあああああああああん!
「ひぃええええええええ!」
カマセーヌが鼻水を垂らしながら震える。
「ま、また上級魔法ぉ……ど、どうなってるんだぁ……?」
最後に、義弟ミカエルが、指を前に出す。
「どーん」
カッ!
指先にすさまじい量のエネルギーが集約する。
それは極太のレーザーとなって、前方へと射出される。
ズドォオオオオオオオオオオオオン!
ミカエルの【天の矛】だ。
超高密度の熱線が、地面をドロドロに溶かす。
ギルドは町外れにあったので、背後には建物はなかった。
しかし街を囲む魔物対策の防壁には、巨大な穴が空いている。
「ミカ、手加減しないと駄目だろ」
俺は創生魔法を使って、壁の穴や地面を一瞬で直す。
「はひ……はひ~……」
カマセーヌはなんだか知らないが、完全に気が抜けていた。
「おいあんた、大丈夫か?」
俺は彼の肩に触れて、闘気を少し流す。
闘気は応用すれば、相手の体を活性させ、治癒効果を示すのだ。
「はっ! い、今私は……いったい……?」
よろよろとカマセーヌが立ち上がる。
「す、凄まじい才能だ……3人とも上級魔法が使えるなんて!」
「「「え……?」」」
エリーゼ達が首をかしげる。
「そんなにすごいかなぁ。ユリウス君と比べたらねぇ」
「旦那様は極大魔法を無詠唱で使うからな~。うちらはまだまだや」
「あにうえは全てにおいてすごいです! ぼくなんてミジンコです」
がくん……とカマセーヌが顎を下げる。
「さ、さらにすごい魔法の使い手がいるのか……! なんてことだ、あとで探さねば! ぜひうちのギルドに勧誘しないと!」
「あにうえ、やっぱりこいつ目が悪いです?」
ややあって。
「ま、魔法はわかった。次は剣だ。言っておくが、私は剣の方が得意なのでな!」
カマセーヌが黄金の剣を構えて、シュパパッと【無駄な動き】をする。
「ふ……どうかね、私の流麗な剣舞に目を奪われてしまったかい?」
「どうでもいいから、さっさと始めようよ」
ガイアスはなぜか、イライラした表情で言う。
「弟よ、なんでそんなイラついてるんだ?」
「別に。……こんな無駄なことして何になるんだよ、兄さん」
ビキッ! とカマセーヌが額に青筋を浮かべる。
「無駄……ほぅ、デカい口をたたくではないか。若さ故の無知かな。自分より強いものに会ったことがないのだろう?」
ビキッ! とガイアスの額に、青筋が幾本も浮かぶ。
「……なに、言ってるんだよ」
ゴゴゴゴゴゴ……!!!!!
ガイアスの体から、莫大な量の魔力と闘気が漏れ出る。
「な、なんというプレッシャー! 凄まじすぎる!」
「いいからさっさときなよ、三流」
カマセーヌは剣を構えて、びっくりするくらい遅いスピードで弟に斬りかかる。
「く、くらえ! わが秘剣【飛燕連剣】!」
たったの10連撃。
あまりに遅いその一撃一撃を、ガイアスは全て避ける。
「なっ!? わ、我が光速の剣を、かわすだと!?」
「もう終わりなの? じゃあこっちもいくよ」
「ふ、ふん! ちょっとすばしっこいだけでなんだ! 剣士の力量は早さだけでははかれんぞ!」
ガイアスは、カマセーヌが取ったのと同じ構えをする。
スパパパパパパッ……!
「ほ、ほげぇええええ! そんな馬鹿なぁああああ! 【飛燕連剣】だとぅうううううう!」
ガイアスの斬撃は、カマセーヌより明らかに早かった。
そして、10連撃じゃない。
「い、一度見ただけで、我が秘奥義を、完璧に模倣された……」
「は? 何言ってるの?」
「そうだぞ、今の1000連撃じゃないか」
「せっ……!?」
信じられない者を見る目で、ガイアスを見やる。
「て、適当なことを言うな! 1秒で1000もの斬撃が放てるわけがない!」
ガイアスは無言で、的の前まで移動。
スパパパパパパッ……!
的は、極小のブロックとなって、足下に山を作る。その数は1000。
「し、信じられない……て、天才か……?」
「は? 馬鹿にしてるの? こんなの兄さんに比べたらゴミカスだよ。くそっ! もっと強くならないと!」
ガイアスが肩を怒らせながら戻ってくる。
ミカエルは「がいあす頑張ったです」と弟の肩をたたいて慰めていた。
「い、異常者……今回の受験者は、化け物の集団か……?」
「「「いやいやいや」」」
全員が首を横に振る。
「あんた何言うてん? 彼がまだ残ってるやんか」
サクラが俺を指さす。
ふらり、とカマセーヌが立ち上がる。
「ふ……ふふっ。なるほど、君はほか4人と比べて、大したことなさそうだ」
「やっぱりこいつ目が悪いです。眼科行くです?」
カマセーヌは俺の前までやってくる。
「申し訳ないが、本気でいかせてもらおう。君も本気できたまえ。別に憂さ晴らしをするわけじゃないからね」
「え、まあいいよ」
「「「いやちょっと待て!」」」
ガイアス達が大慌てで、俺の元へやってくる。
「兄さん! やめて!」
「本気は出しちゃ駄目だよ!」
「さすがに死人を出すわけにはいかんからなぁ」
引き留めるガイアス達に、俺は言う。
「え、でも本気で来いって……なぁ?」
「そうだぞ、遠慮せず来い!」
「だってさ。よーし、いくぞぉ」
俺は魔剣ヴェノムザードを手に取る。
「「「やめてぇええええええ!」」」
「そーい」
ズバンッ……!
俺はその場で、斜めに切った。
しーん……。
「は、ははっ。素振りかい? まあいいだろう。では本気の立ち会いを……」
そのときだった。
ゴゴゴゴゴゴ……!
「な、なんだ!? じ、地面が! ずれていく!」
地面に線が入り、片側が沈んでいく。
「兄さん! 何をしたの!?」
「え、斬っただけだぞ、俺たちのいるこの星を」
切断した側の大地が、ずり下がっているのだ。
「ひぃいいいいいい! うぎゃぁあああああああ!」
沈みゆく大地を前に、カマセーヌがなんか泣き叫ぶ。
「もう! 何やってるんだよ! 【疑似・創生】!」
ガイアスの魔法によって、切断された大地が、元に戻った。
「…………」
カマセーヌが、ション便を漏らし、白目をむいて倒れる。
「ほんと、兄さん規格外すぎるんだよ……」
「「いやあんたも結構だよ!?」」
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