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【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、学園で無自覚に無双する〜  作者: 茨木野
第5章

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75/237

75.それぞれが、勇者を欲して動き出す




 転生勇者ユリウスが、実技テストのついでに、各国の軍隊を撃破した。


 それから、10日後のこと。


 マデューカス帝国。

 謁見の間にて。


「ふむ……帝国、教会、王国。合計で1000いた兵士たちが、3発の極大魔法により戦意を喪失した……と」


「ええ、そのようですよ【父上】」


 皇帝の前に跪くのは、皇帝の息子。

 すなわち皇子だ。


「かの少年の強さを測ると同時に、反乱分子2名を排除することに成功する。すべてはあなたの筋書き通りですか、さすが父上だ」


 皇帝と同じ髪の色をした色男は、尊敬のまなざしを、父親に向ける。


「【チェザーレ】よ。この少年……ユリウスをどう見る?」


 第2王子【チェザーレ】は、父である皇帝に言う。


「恐るべき武力を秘めた、この世の法則を完全に無視した、イレギュラーですね」


 チェザーレは腕を組んで、神妙な顔つきで言う。


「そもそも極大魔法は、遙か昔に失われた究極の魔法。一撃で星を砕くこと容易いとまで言われ、平和な世では不要であると、賢者サリーが封印指定したはずです」


「しかし極大魔法の使い手が現れた。サリーの関係者か」


「そう考えるのが妥当でしょうね、父上」


「ユリウス=フォン=カーライル……彼は一体何者だ?」


「さぁ、そこまではわかりかねます」


 気取ったポーズで、チェザーレが首を振る。


「それで、父上。彼はどうします? どこかの国王のように、無理矢理彼を我が国に引き込みますか?」


 ふっ……と皇帝は笑って言う。


「そんなことはしない。前提条件が間違っている。彼は道具ではない、人間だ。生きている以上意思がある。それを踏みにじって自分の手札に加えようとする。そして失敗する。馬鹿のすることだ」


「しかし遅かれ早かれ、いずれみなユリウスの存在に気づき、自国に引き入れようとします。父上も彼をみすみす見逃すつもりはないのでしょう?」


「当たり前だ。彼は100年……否、2000年に一度の、逸材かもしれぬ」


「2000年……ですか。よもや父上は、彼が勇者神そのものだと言うのですか?」


 まさか、と皇帝は首を振る。


「だがしかし、かの勇者神に匹敵する強さを有しているのは事実。是が非でも彼は我が帝国に引き入れたい」


「ではどうするおつもりですか?」


 ふっ……と余裕のある笑みを浮かべて、皇帝が返す。


「幸運にも、ユリウスの懐には【不肖の家出娘】がいる。引き入れる方法は幾通りも思いつく。焦らずともよい」


 皇帝は深く椅子に腰掛けて、異国の地にいる娘ヘンリエッタ。


 そして彼女のそばに居る史上最強の男に向けて、つぶやく。


「ユリウス。貴様が欲しい。必ず、手に入れてみせるぞ」



    ★☆★



 一方その頃、天導教会本部では。


 最高幹部4人が集まっていた。


「いったい聖騎士どもは何をやっているのだ!」


「神器で武装した聖騎士が、全員が戦う前に敵前逃亡だとッ!」


「なんたる失態! これでは聖騎士のブランドイメージが完全に、【悪魔を前に逃げ出した腰抜け】になってしまうではないか!」


 幹部達はふがいない聖騎士達に、理不尽な怒りをぶつけていた。


「どうする……このままでは【上】がお怒りになるのは必定。いったいどうすれば……」


 と、そのときだ。


「うん、その通りだよ」


 幹部の頭の上に、スーツを着た【少年】が、姿を現したのだ。


 その背中には6枚の羽が生えている。


「て、天使様!!!」


「【ラファエル】様!」


 ラファエルと呼ばれた少年は、幹部の頭から降りて、机の上に着地する。


 バッ……! と幹部達は膝をついて、天使の前に並ぶ。


「あれ? 頭が高いよ?」


 パチンッ!


 彼が指を鳴らすと、四人の最高幹部達の体が……【なくなった】。


「なっ!?」

「ひぃいいいいいいいい! おれの体がぁあああああああ!」


 首だけになった幹部を、ラファエルは見下ろす。


「君らクビ。首だけに……ぷすすっ、なんちゃって! ほら笑えよ」


 幹部達は、それどころではなかった。

 肉体を失い、今なお生きてることに困惑しきりである。


「笑えって言ってるだろ! 腹立つな!」


 パチンッ!


 ふたたびラファエルが指を鳴らすと、4つの首のうち3つが消えた。


「お助け! お助けおぉおおおおお!」


 泣きさけぶ最後の幹部に、ラファエルはしゃがんで言う。


「君たちアホすぎて使えないって、【パパ】がもうカンカンだよ」


 パパ、つまりこの大天使を創造せしめた人物。


 すなわち……天上にいる神のことだ。


「これからは僕たち【七大天使】が聖騎士達を仕切るから。おまえは用済み」


「そ、そんな……! 待ってください! あなたがた天使と【主様】に必死になってわたくしは仕えました! それをあっさり切り捨てるおつもりですか!?」


「うん。だって君ら使えないし。ばいばい」


 パチンッ! とラファエルが指を鳴らす。

 最後の幹部も、いずこへと消え去った。


「さて……と。みんな入っておいでよ」


 幹部の座っていた席に、どかっと腰掛ける。


 部屋には【6人】の大天使が集結した。


「さて、議題はわかってるね。パパの創ったこの世界の平和を乱す、【大悪魔ユリウス】の処遇について。みんな、意見は?」


 6人全員が、【死刑】と主張した。


「だよね、僕もあいつは生きて居ちゃいけない存在だと思う。だからこの6人……いや、ここにはいない七人目も含めて、【七大天使】の力を結集し、あの悪魔を殺そうじゃないか」


 ラファエルは、悪魔のような笑みを浮かべる。


「大悪魔ユリウス。君の首が欲しい。僕が、いただくよ」



    ★☆★



 さて、最後に、王女ヒストリアはというと……。 


「くそ! くそ! 役立たずのゴミどもめ!」


 ヒストリアは必死になって、大きなバッグにドレスや宝石を詰め込んでいた。


「あんなに数がいて全員がビビって逃げ出すとか、ほんっっと使えない屑ばっかりね!」


 先日、ユリウス討伐のため、魅了の魔眼で衛兵達を操った。


 しかも運の良いことに、帝国軍や聖騎士たちも、ユリウスを殺すつもりだったらしい。


 天は自分に味方した! と思っていたのだが、結果を聞いて愕然とした。


「もうだめ、わかった。あの男……ユリウスには一切関わっちゃいけないんだわ。あいつは……人間じゃない。正真正銘、化け物よ」


 聞けば、地上を焼き、星を貫き、さらには回復魔法でその全てを元通りにしたという。


 魔眼で魅了されていた衛兵達は、ユリウスの使った光の極大魔法の治癒の力で、全員が正気を取り戻したらしい。


 余談だが学園内にいた、ヒストリアの魔眼によって魅了されていた男子生徒も、今回の極大魔法で元通りになったそうだ。


「お父様はユリウスにご執心だけど、アレはもう駄目。あいつに敵意を向けることが馬鹿なんだわ。もう逃げるのが一番ね」


 宝石などの貴重品を、パンパンに詰め込んだ鞄のチャックを閉める。


「ふぅ……よし、あとは適当に衛兵を捕まえて魅了させ、荷物持ちにして……城を出ましょう」


 ヒストリアは、王女という立場を諦めた。


「もうあの理外の化け物にはうんざりよ! アタシはこの魔眼と財宝を持って、国外に逃亡するわ!」


 にやり、とヒストリアは邪悪に笑う。


「この魔眼さえあれば、どんな男もアタシにメロメロになる。手始めに帝国にでも亡命して、イケメンで有名なチェザーレ皇子でも捕まえれば……」


 ヒストリアは部屋に設えた鏡を見て嗤う。

 その目は魅了の魔眼。

 見た男を虜にする、特別な目。


 と、彼女が余裕でいられたのは、そこまでだった。


「え……? なに、これ……?」


 鏡に映ったその姿を見て、ヒストリアは呆然とする。


「この【おばあちゃん】……だれ?」


 今鏡に映っているのは、醜悪な姿の老婆だった。


「やだ……え、これ……アタシなの……?」


 鏡に映る醜い姿の老婆は、ヒストリアが手を上げると、同じ手を上げる。


「ひっ……いやぁあああああ!!!」


 半狂乱となって、ヒストリアが叫ぶ。


 鏡に両手をついて、何度も自分の顔を触る。


「アタシの美貌はどこにいったの!? いやっ、嫌ぁあああ! 返して! 返してよぉおおおおお!」


 と、そのときだった。


「ウルサいわよ、貴女」


「だ、誰!?」


 鏡の中から、黒い、蝙蝠のような羽を生やした、女が現れた。


「わたくしは【フェレス】。【メフィスト・フェレス】」


「メフィスト……フェレス?」


 女は鏡の前に座り、足を組む。


「聞いたことないわ……」


「失礼しちゃうわね。【悪魔わたくしの目】を使っておいて」


 フェレスは手を伸ばし、ヒストリアの魔眼に触れる。


「悪魔が何の用!?」


「もちろん回収よ。代償のね」


 フェレスは邪悪に笑う。


「あなた、その魔眼が、よもや無制限に使い放題だとは思っていなかったわよね?」


「え……?」


「あらあら、お馬鹿さん。悪魔がただで、人間に力を貸すわけがないでしょう?」


 クスクス、と哀れみの目を、フェレスが王女に向ける。


「悪魔は魂を代価として、人間と契約を交わし、力を授けるの」


 魂のほぼ全てを取られた。

 だから、魂が劣化し、肉体がつられるように老婆になったのだという。


「返して! アタシの美貌、返してよぉ!」


 ヒストリアは悪魔の足にすがりついて、泣き叫ぶ。


「だーめ。あなたは衛兵全員に対して魔眼を使いまくった。そのぶんの対価はちゃんともらわないと」


「いやよ! アタシの美貌! アタシの魔眼! 誰にも渡さないわよぉおおおおお!」


 その姿を見て、フェレスは笑う。

 それこそ……悪魔のように。


「わたくしの言うことを聞いてくれるなら、考えてあげても良いわ」


「! 何でも言うことを聞くわ! 美貌と魔眼が帰ってくるなら!」


 にんまり……とフェレスは笑い、ぱちんと指を鳴らす。


 するとヒストリアは、元の可憐な少女へと戻った。


「さて、返してあげたのだから、言うことをちゃんと聞いてよね」


「はぁ!? 嫌よ! 何で悪魔に従わないといけないのよ!」


「すがすがしいほど屑ね貴女。嫌いじゃないわ、そういう子」


 パチンッ、とまたフェレスが指を鳴らす。


 するとみるみるうちに、ヒストリアは老婆の姿に戻った。


「いやぁああ! 戻してぇえええ!」


 地べたにのたうち回るヒストリア。

 その顔を、悪魔は容赦なく踏み潰す。


「どちらが上か理解した?」


 ぐりっ、とフェレスはヒストリアの頭を強く踏み潰す。


「わかりました! 言うこと聞きます!」

「良い子ね。……さて、貴女には、引き続き【ユリウス】に近づいて貰うわよ」


「ひっ……! な、なんでぇ?」

「だってあの子、とっても素敵なんですもの♡」


 熱っぽい表情を、悪魔が浮かべる。


「あの他者を圧倒する暴虐なる力……ああ! 思い出しただけで絶頂しちゃいそう!」


 

 ヒストリアは頭を抱えたくなった。

 こいつも、ユリウスに取り憑かれているのかと。


「貴女はわたくしのお人形さんとなって、愛しの【大悪魔ユリウス】を手に入れるお手伝いをしてもらうわよ」


 ヒストリアは、取り返しのつかない選択をしてしまい、青白い顔になる。


「あぁ、ユリウス様。わたくしあなたが欲しい。愛しい、時代の悪魔王さま」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 登場人物全員頭悪すぎる。
[気になる点] え……あのMOBくん、今まで学園内であのままだったの? どうやってあの状態で生きていたんでしょう? 誰が世話していたの? 食事もまともに出来ないんじゃ? 学園生活なんてもっと無理だろ…
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