67.聖騎士、まるで歯が立たず敗北する
転生勇者ユリウスが、王女の策略によって、聖騎士に狙われることとなった。
数日後。
とある山中にて。
「くそっ! なんて強さだ……桁外れだあの【女騎士】!」
下級魔族オルカは、必死になって逃げていた。
「うわぁあああああん! 助けてぇええ!」
オルカの小脇には、人間の少女を抱えている。
村から食料として盗んだのだ。
しかし運の悪いことに、その村には【聖騎士】が逗留していたのである。
「ばかっ! さわぐんじゃねえ! 見つかるだろうが!」
「いや、もう見つけている」
その瞬間……。
スパァアアアアアアアアン!
周囲にあった木々が、一斉になぎ倒されたのだ。
「なぁっ!? なんだ今のは!? 斬撃か?」
オルカが見やる先には、ひとりの、黄金の騎士が立っていた。
若い女性だ。
「きれー……お日様みたい……」
騎士の鎧も、髪の毛も、剣も盾も。
すべてが美しい、黄金の色をしていた。
「その子を離せ」
「くっ! 来るなあぁあああああああ!」
オルカは口を大きく開き、高圧の水流を射出した。
巨岩すら容易く切り裂く水流。
聖騎士は盾を構える。
バシュッ……!
「そんなばかなっ!? びくともしないだとぉ!?」
「無駄だ、悪鬼よ。わが剣は【絶対切断】の剣。そして盾は【絶対防御】の盾。無双の力を持つ私に、敗北の二文字はない」
金髪の女騎士は、悠然とこちらに近づいてくる。
強者故の、余裕を感じられ、オルカは恐怖した。
「近づくんじゃねえ! この子供がどうなってもいいのかぁ!?」
「そんな子、どこにいるのだ?」
「なっ!? い、いねえ!? いつの間に!」
聖騎士の腕に、女の子が抱かれていた。
「早すぎて見えなかった! なんなんだよおまえは!?」
「私は【天導教会】の聖騎士【ヘンリエッタ】。悪鬼を討伐しにここへ来た」
ヘンリエッタは女の子を下ろす。
「くっ……! 聞いたことがあるぞ……隠れ潜んでいる魔族を片端からぶっ殺してく殺人集団だってな!」
「世界平和のための必要な間引だ。魔なるものは悪。悪はいてはいけない。だから聖騎士が排除する」
「くだらん御託を並べやがって! 死にやがれ!」
「いや、それは無理だ」
キンッ……と、ヘンリエッタが黄金の剣を鞘に仕舞う。
「ほへ?」
ばらっ……と、魔族の体が、細切れになったのだ。
「ふぅ……脆い。なんて弱いんだ。……いや、私が強すぎるのか」
金髪の聖騎士は、ため息をつく。
「おばちゃんっ! ありがとー!」
救い出した少女が、喜色満面で聖騎士の腰にしがみつく。
ヘンリエッタは笑顔を保ったまま、こめかみをピクッ……と動かした。
「む、無辜の民を守るのが騎士の【お姉さん】の勤めだ。礼など不要だ」
「わかった! おばちゃん!」
むぐぐっ、とヘンリエッタは歯がみしながらも、しかし「相手は子供。29はおばちゃんじゃない」と自分に言い聞かせる。
さておき。
聖騎士ヘンリエッタは、上層部からの依頼を受け、学園へと訪れた。
「ふむ、この学園に潜む悪魔の討伐か。容易い任務だ」
ヘンリエッタは胸を張り、学園内を闊歩する。
「……なにあの綺麗なお姉さん」
「……鎧に書かれた星十字のマーク。あれ天道教会の聖騎士様よ」
学生達の注目を浴びながら、ヘンリエッタは長い金髪をさらっ……と手ですくう。
ほぅ……と学生達から、感嘆の吐息が漏れた。
思わずにやけそうになるのを、必死に隠してヘンリエッタは進む。
「しかし上層部も無茶を言う。いくら私がエリートだからといって、学園に悪魔が居るという情報だけを渡されても困るな」
ふぅ……とため息をつく。
「しかし少ない手がかりでも私ならばなんとかするという、最強の聖騎士たる私への信頼が感じられる。……悪くないな」
そのときだった。
シュオンッ……!
突如として、目の前に誰かが出現したのだ。
「なっ!? なんだ貴様ら!?」
ヘンリエッタは剣を抜き構える。
「え、誰?」
「あにうえ、どーしたです?」
「ちょっとミカエル! 兄さんにくっつくな!」
彼女は息をのむ。
「白昼堂々と現れたな……この化け物【ども】め!」
かつてない危機に、ヘンリエッタは直面していた。
「くそっ! 聞いてないぞ! 化け物が3体もいることなど!」
眼前の3人からは、それぞれ尋常ならざるプレッシャーを感じる。
剣の達人たる彼女だからこそ、見えるものがあるのだ。
特に黒髪の目つきの悪い少年は、異常な強さを感じる。
「ばけもの? なにいってるですこの人?」
「さぁな。いこうぜ」
黒髪の少年は、残り2人を引き連れてヘンリエッタの前から立ち去ろうとする。
「最強の聖騎士たるこの私を無視するとは! 良い度胸だ!」
震える体に渇を入れ、ヘンリエッタは斬りかかる。
「我が絶対切断の宝剣! 受けてみよ!」
神速の袈裟切りが、黒髪の少年にぶつかる。
ぱきーん!
「へ!?」
黄金の剣が、半ばで折れたのだ。
「そ、そんな馬鹿な!? 絶対切断の一撃を受けて無傷だなんて!?」
「え、何かした?」
黒髪少年は振り返り、とぼけた表情で、ヘンリエッタを見やる。
ぞっ……!
まるで、巨大な猛獣を前にしたような、圧倒的なプレッシャーを感じた。
「くっ……! 魔力放出による攻撃か! だが、我が絶対防御の盾と鎧があればそんなもの効かない!」
ぱりぃいいいいいいいん!
「へ……?」
ぽかん……とヘンリエッタは目を丸くする。
「わ、私の盾と……よ、鎧が……粉々に……?」
「あ、すまん。俺の魔力の鎧、攻撃を自動で防御するんだ」
先ほどの一撃を防いだカラクリはわかった。
だがなぜ盾と鎧は壊れたのか?
「え、魔力による自動迎撃術式って外出時に必須だよな? 無防備に歩いてりゃ暗殺されるの当たり前なんだし」
「修羅の国だった2000年前の常識で語るなよ兄さん!」
ガクン……とヘンリエッタは膝をつく。
「なんて強さなんだ……桁がちがう……」
すると黒髪の少年が、近づいてくる。
「くっ……! 殺せ!」
パサッ……と少年が毛布を、ヘンリエッタにかけてくる。
「くっ! 敵の施しは受けない!」
「え、だって今のアンタ、真っ裸だぞ?」
そう、鎧だけでなく、アンダースーツすらも破けてしまっていたのだ。
「つ、つまり私は……す、素っ裸でこんな、たくさんの学生の前でいたのか……?」
羞恥心で、顔が真っ赤になった。
「ひ、ひ、酷い辱めを受けた……もうお嫁にいけないよぉ~……」
ぐすんぐすん、とヘンリエッタが泣き出す。
「大丈夫だって。あんた綺麗だし、引く手あまただろ?」
「えっ!?」
ヘンリエッタは目を丸くする。
「わ、私……美人?」
「え、まあ普通に」
ボッ……とヘンリエッタの顔が真っ赤になる。
「……お」
「お?」
「覚えてろぉおおおおおおおお!」
最強の聖騎士は叫びながら、まるで三下のように走り去るのだった。
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