06.勇者、歴史の授業で目立つ
1限目は歴史の授業だった。
教壇に立つ女教師が、教科書を片手にしゃべりだす。
「今日は2000年前に起きた【聖戦】、勇者神ユージーンと、魔王ヴェノムザードとの戦いについて学びましょう」
「に、2000年!?」
俺は思わず、声を張り上げてしまった。
「どうしました、ミスタ・【カーライル】?」
先生が俺を見て言う。カーライルが俺の苗字か。
「す、すみません、なんでもないです……」
「授業妨害はやめてよ兄さぁん。同じカーライル家の人間として、恥ずかしいじゃないかぁ」
ガイアスの言うとおりだった。
反省せねば。
先生は授業を続ける。
「大昔、魔の物を率いて、世界に破壊と混沌を招いた最悪の存在、魔王がいました。魔王を倒すべく選ばれた存在が、勇者ユージーンです」
い、いったん整理しよう。
歴史の教科書に、魔王と勇者の記述があった。
勇者の名前は、前世の俺と同じだった。
教科書をペラペラとめくる。
聖戦以前の歴史は、前世で習ったものと同じだ。
「つまりここは、俺が死んでから、2000年後の世界ってことなのか……」
まったく別の世界かと思ってたけど、単に未来の世界へ転生してたのか。
「魔王を倒した勇者ユージーンは、討伐した功績として、天に導かれ【神】になったとされます」
「か、神だぁ……!?」
俺は思わず立ち上がって、声を張り上げてしまう。
「……ミスタ・カーライル。まじめに授業を聞く気がないのですか?」
「あ、いやそんなつもりは……真剣に聞いてます」
「ならば質問をいたしましょう。きちんと授業を聞いているのでしたら、答えられますよね?」
どうしよう、死んだ後の歴史についてだと、答えられる自信ないぞ。
「では質問です。勇者ユージーンに力をさずけた師匠である【四聖】についてお答えください」
「え?」
勇者に対してその質問、あまりに簡単すぎないかそれ……?
「どうしました? 答えられないのですか?」
「……ぷぷっ、そうだよ兄さん。あんたはそうでなくちゃっ」
おっと、答えないとな。
「まずは剣聖の【ソーディアン】。もともとは奴隷で、闘技場の剣闘士として活躍していました。彼の使う【虚空剣】は万物を、空間さえも切り割きます」
「「へ……?」」
先生も、そしてクラスメイトたちも目を点にする。
「次に賢者サリー。エルフの里出身の天才魔法使いで、この世に存在する魔法をすべて使う。詠唱破棄、つまり無詠唱魔法を発案したのも彼女だった」
師匠達のことは、よく知っている。
彼らの知識と技術は全部、弟子の俺にたたき込まれている。
「聖女セイファートは孤児院の出身。彼女の治癒術【完全再生】はあらゆるケガ病気を瞬時になおした。拳豪タケ・ミカヅチは島国の武家の出身。闘気を使わせたら彼の右に出るものはいない。禁忌の身体強化術・鬼神化をあみだしたのは彼が10歳の時だった」
なぜか呆然としてる先生に対して、俺は言う。
「こんな感じでどうですか?」
「え、ええ。大変よろしい。よく勉強してますね」
まあ特に勉強したわけじゃないんだけどな。
「……ね、ねえガイアス。今の、もちろん答えられたわよね?」
「……え?」
「え……? 知らなかった、の?」
「……し、知ってたよ! ボクが、出涸らしに学力で負けるわけないだろ!」
クラスメイト達が、にわかにざわついてる。
何か俺、しただろうか?
「……わ、わたしでも知らないような歴史を、こうも詳しく知っているなんて。こんな優秀な生徒、このクラスにいたかしら?」
先生は目を丸くしながら俺を見やる。
「……くそっ! 恥かかせやがって! 出涸らしの分際で!」
弟はなんでだか、歯がみしていた。
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