45.魔族、弟を誘拐するが瞬殺される
転生勇者ユリウスが、弟を鍛えることになってから、2週間が経過したある日。
とある洞窟のなかにて。
「うききっ! 誘拐してきてやったぜ、出来そこないの弟をよ!」
魔族【ゴクウ】はニヤリと笑う。
サル型の魔族だ。
「ライカンのやろう馬鹿だよなぁ。誘拐するなら、あの化け物がいないタイミング狙うだろ」
ゴクウは嬉々として麻袋を、地面に乱暴に放り投げる。
人がひとり入ってるように、膨れ上がっている。
「雑魚1人誘拐するだけ。楽な仕事だったね」
「誰が雑魚だって?」
ザシュッ!
麻袋が切り割かれ、金髪の少年が出てくる。
「ば、ばかなっ! おれの調合した【眠りの毒】を自力で打ち破れるはずがない!」
「確かに強い毒だったけど、兄さんが『解毒魔法の特訓だ』っていってボクにかけた【死の呪毒】と比べたらゴミだよ」
「あり得ない! 魔王様しか使えない即死級の毒を、たかが人間ごときが使用することなど不可能だ!」
「ほんとそうだよね……それで、何のよう?」
ゴクウは内心、動揺しまくっていた。
人間は魔族である自分を見るだけで、震え上がるはず。
しかしこの金髪少年は、微塵も恐れている様子がない。
「ききっ! 貴様をさらい、あの化け物に言うことを聞かせるためだ!」
「くそっ! まだボクは魔族から見たら、兄さんのおまけの雑魚だと思われてるのか! チクショウ! ブッ殺す!」
「ききっ! これは驚いた! おれを倒す気でいやがるのか! 不遜な人間だなぁ!」
「サルはおまえだろう?」
「!?」
ゴクウは、衝撃を受けた。
離れた場所にいたガイアスが、一瞬で間合いのうちに入ってきたのだ。
音もなく、まるで転移してきたかのように。
ひゅっ……!
「う、うおぉおおおおおおお!」
彼の双剣を、ゴクウは紙一重でかわす。
「ば、ばかな! なんだ今のは!? 速すぎだろ!」
「くそっ! こんなんじゃ遅いんだ! 兄さんと比べたらハエが止まって見えるレベルだよ!」
「ふざけるな! 今の神速の抜刀がトロいだと!?」
彼はまた一瞬で距離を詰める。
ゴクウは如意棒を取り出し、その剣を受け止める。
ガキィイイイイイイイン!
「重っ!」
「せいっ! せやぁっ!」
ガイアスは双剣を凄まじい早さで振るう。
2本の剣が、速すぎて4本に見えるほどだ。
キンキンキンキンキン!
「くっ! このおれが防戦一方だと!?」
ガキンッ……!
強めに弾かれ、ゴクウは吹き飛ばされる。
「ぜぇ、はぁ! は、話と違うじゃないか! 弟は弱いはずだろ!?」
「ああくそっ! そんなこと今更言われなくてもわかってるんだよ!」
ガイアスは右手をゴクウに向ける。
「【風刃】!」
びゅぉおおおおおおおお!
超巨大な風の刃が、目にもとまらぬ早さで、ゴクウへ飛んできた。
「ひっ……!」
ゴクウは避けるまもなく、風刃によって胴を真っ二つにされた。
「そんなバカな! 確かにおれは下級の魔族……けど、人間ごときに後れを取ることなんて!」
「くそっ! ダメだ! こんなんじゃ兄さんに全く届いてない!」
人間が魔族を倒した、という快挙を成し遂げたというのに、ガイアスは全く嬉しそうではなかった。
「こうなったら……奥の手を使う! 秘技【分身の術】!」
ゴクウは、全身の毛をむしって、息を吹きかける。
ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!
「ふははっ! どうだぁ! 100体の分身を前に、絶望しろぉ!」
吐き捨てるように、ガイアスが言う。
「チッ! まあ。前のボクならね。けど……今のボクは、10000の分身を作る人を知っている」
「は、はは! 嘘も大概にしろ! そんなことできる人間がどこに居る!?」
「確かに人間はいないよ。けど……化け物ならいるから」
そのときだった。
ボッ……!
100体居るゴクウの分身が、一瞬にして消し飛んだのだ。
「はぁあああああああ!?」
「よっ、ガイアス。おまえ音楽の授業サボってこんなとこで油売ってちゃだめだろ?」
剣を持った黒髪の少年が、いつの間にかそこにいたのだ。
ゴクウは混乱の渦中にいた。
「お、おまえ……どこから現れた!?」
「え、転移してきたんだけど?」
「どうしてすぐ駆けつけなかったんだ!?」
「いや、授業中だったし、サボっちゃ駄目かなって」
「弟が魔族にさらわれたのにか!?」
「え、おまえ魔族だったの?」
愕然とするゴクウに、ガイアスは隣にしゃがみ込んで、ぽん……と頭をたたく。
「わかった? これが本物の化け物だから」
「え、誰の話?」
「「おまえのことだよ!」」
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