03.勇者、優秀(だけどクズ)な弟と出会う
転生した俺、ユリウスの部屋にて。
「すげえ高そうな服だな、これ」
真っ白なジャケット。
シャツは糊がきいている。
革靴はピッカピカだ。
「着替えさせてくれてありがとな」
自分でやろうとする前に、シャルロットがテキパキと服を着せてきたのだ。
「あの、お体は本当に大丈夫ですか? 学園をおやすみしたほうがよいのではないですか……?」
「大袈裟だって、ん? 学園? 俺、学園になんて通ってるのか?」
「…………」
「いや! 大丈夫、大丈夫だからほんと! うん、学園へ行こう!」
今すぐにでもシャルロットが医者を呼びに行きそうだった。
ここは余計な口を挟まず、流れに身を任せよう。
その後、俺は部屋を出る。
まずは朝ご飯。
シャルロットとともに、俺は食堂へと向かう。
「でかいお屋敷だな」
王の城かと錯覚するほど、広く立派な廊下だ。
絵画や壺がいくつも脇に置いてある。
今更だけど、結構金持ちだな。
廊下を歩いていると、前から2人組のメイドが歩いてきた。
「……出涸らしよ」
「……魔無しがのうのうと歩いているわ」
メイド達はクスクス笑いながら、ちらちらこちらをうかがってくる。
「おはよう」
「「!? し、失礼します!」」
彼女たちは俺の脇を、駆け足で去って行く。
というか、出涸らしとか魔無しってなんだ?
「ユリウスさま! もうしわけございません! あのふたりにはきつく注意しておきます!」
シャルロットが俺の前で、真っ青な顔で頭を下げる。
「え、いや別にそんなことしなくて良いよ」
「え、えぇえええええ!?」
「というかほら、食堂いこう」
俺の後で、シャルロットがつぶやく。
「……信じられない。ユリウスさまはああ言われるのが一番嫌いなのに。もしや【ご乱心】からようやく立ち直ったの……?」
ややあって。
俺たちは食堂へとやってきた。
「当主様と奥方様。そして【弟様】が先にいらしてます」
入り口でシャルロットが頭を下げる。
家族達がなかにいるようだ。
メイドがドアを開け、俺は中へ入る。
広々とした食堂の奥には、びっくりするくらい長いテーブルが1つだけあった。
朝から凄い豪華な朝食がズラッとならんでいる。
「やはり【ガイアス】は我が【カーライル家】の誇りだな」
「さすがよガイアス。出涸らしの兄とは違って、あなたはわたしの自慢の息子です」
上座に座っている初老の男が親父か。
同い年くらいの女性が母親。
母親の正面に座っているのが、弟なのだろう。
それにしても、髪の毛の色が違った。
兄ユリウスは漆黒。
弟の髪は、輝くような金だ。
俺は彼らに近づいて、とりあえず朝の挨拶をする。
「おはよう、みんな」
「「…………」」
両親は俺を、チラリと一瞥した。
しかし声をかけることなく、食事を再開する。
妙なリアクションだ。
普通、息子があいさつしたら返すものだろう?
「やぁ兄さん、おはよう」
両親と違って、弟だけは、俺にあいさつを返してきた。
おお、なんだか良い奴みたい。
「今日も朝から重役出勤だね。出涸らしの分際で」
弟は爽やかなスマイルを浮かべる。
青い瞳がまるで夏の日の空みたいだな。
「いやぁ、寝坊しちゃってさぁ」
「!?」
「ん? どうした、ガイアス?」
「……なんでもないよ」
ガイアスは急激に不機嫌そうな表情になった。
俺が隣に座ろうとした。
しかしイスが近くになかった。
遠く離れた、端っこのとこに1つあった。
料理も置いてある。
仕方ない、今日はあそこへ座るか。
「……なんだよ今の。いつもの兄さんなら悔しがるのに、面白くない」
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