242.進化
兄との修行で身につけたもの。その全てを失うことで、ガイアスは思い出した。
背筋を凍らせる、死の恐怖。
そして、人はどこまでも脆いという事実を。
自分を含めた全ての人間は、皆等しく脆い生き物だ。
殺せば死ぬ。そして一度死んでしまえば、二度と戻ることはできない。
死者蘇生を覚え、身体強化で肉体を鋼のように変えた。
数多の技術を身につけ、ガイアスは強くなりすぎた。その驕りが、目を曇らせていたのだ。自分もまた、首を斬られれば死ぬ、脆弱な人間の一人に過ぎないということを。
(……兄さんも。あの、最強無敵の兄さんだって……人間なんだ)
周囲は兄を人扱いしない。規格外の強さを持つ彼を、誰もが「バケモノ」と呼ぶ。
だが、違う。彼は勇者であり、血の通った人間だ。
(兄さんも……また、ニンゲン……)
敵の殺気が肌を刺す極限状態。だというのに、ガイアスの思考は奇妙なほど澄み渡っていた。
その精神的な余白が、彼にさらなる進化をもたらす。
ヒュンッ!
ガイアスは、迫りくる凶刃を紙一重で回避した。
思考するよりも速く、肉体が勝手に反応したのだ。
それは完全な、無意識の行動だった。
(!? な、なんだ今のは……。体が勝手に動いた)
敵の攻撃が来る。それを感じた瞬間、体は既に動いていた。
視界が制限された暗闇のダンジョン。目では捉えられないはずの攻撃を、彼は回避してみせたのだ。
ガイアスは感じていた。
肌が粟立つような、死の予感。
自分を殺そうとする敵の明確な殺意を、五感を超えた感覚で捉えたのだ。
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