202.勇者ガイアス
《ガイアス視点》
世界に異変が起きていることを、ガイアスはすぐに感じ取った。
だが、そのときにはすでに、兄は居なかった……。
「……っ!」
兄はおそらくこの窮地に、誰よりも危険な場所へ行ったのだろう。
世界を救いに。
……今はまだ、ガイアスにはそれができない。
悔しくて歯がみするも……すぐに頭を切り替える。
ガイアスは念話を使い、同好会メンバーに状況を伝達。
「敵がせめてきてる! しかもかなりまずい状況だ! 兄さんが大本をたたく間、雑魚はボクらで片を付けるぞ!」
ガイアスの指示を聞いて、ミカエル他、同好会メンバーたちはすぐさま動き出す。
ガイアスは無双剣を持ち、屋敷を飛び出す。
ダンタリオンとミカエルに国に結界を張らせる。
エリーゼとサクラには国内の雑魚を相手させる。
そして……。
「いくよ、マーテルよ。ボクらは……アレの相手だ」
ガイアスの頭上には、巨大な魔神が浮かんでいた。
ガイアスは覚えている。かつて、兄が一撃で倒した魔神……。
「魔神、ガンデスブラッド!」
ガイアスは改めて、敵の強さを理解した。
あのときは、兄がたやすく、一撃で葬った相手。
だからこう勘違いしていた、魔神は弱いと。
……しかし己の認識は間違いだと、ガイアスは理解していた。
魔族、転生者、そして……精霊。
それらと戦ってきたガイアスだからこそ、わかる。
魔神の強さ。恐ろしさを。
だが……。
「今なら……戦える!」
たん! とガイアスは両手に無双の剣を持ち、魔神めがけて跳躍。
ガンデスブラッドが周囲からエネルギーを集めている。
「マーテル!」
「領域結界!」
ぎゅん! とマーテルが一瞬でガンデスブラッドの周囲に結界を構築。
ガンデスブラッドは、周囲から魔力を集めて、己の攻撃力に変えていた。
……兄が戦っていたときは、そんな力を持ってることにすら気づかなかった。
でも。
「見える……今のボクには……! 霊装展開!」
霊装。霊的存在と合体し、神のごとき力を得る超技術。
ガイアスは対校戦で完全な霊装を獲得していた。
ガイアスの目は、あの勇者神ですら褒めるほどの性能を持つ。
その本質は、敵への分析。そして、それを己の物に変える理解力。
敵が魔力を周囲から集めるならば、結界で周囲を囲い、魔力を奪えないようにする。
そして、魔力を外部から取り込む必要があるということは、自分の力はさほどではないということ。
「【崩壊剣】」
ガイアスはガンデスブラッドの胸の中心部に、強烈な突きを放った。
崩壊剣。それは兄が見せた、隕石すら消滅させるすさまじい奥義。
今のガイアスは、兄の技をトレースし、再現することが可能なのだ。
『ばかなぁ! 勇者でもないガキに、この我がぁあああああああああああああああああああああああああああああ!』
ぎゅぉおん! という音とともに魔神が消滅する。
討伐達成の高揚感からくるものではなく……純然たる事実を、ガイアスは告げる。
「ボクが勇者だ! 今……この世界の!」
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