表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

199/237

199.帝国の理事長



《アンチ視点》


 転生勇者、ユリウスの友にして、マデューカス帝国の皇子、アンチ=フォン=マデューカス。

 対校戦で、ユリウスたちとともに競い合った仲である、男。


「ふっ! は! せい!」


 深夜、アンチは帝都カーター、帝城の庭にて、剣を振るっていた。

 

「ふぅ……」

「「「「アンチ様ぁ! お疲れ様です!」」」」


 彼のフィアンセである、四つ子が、タオル等を持って近づいてきた。


「皆、ありがとう! だが深夜まで、僕の面倒を見なくて良いんだよ?」

「「「「いえ、好きでやってることですのでっ!」」」」

「ふ……! ありがとう!」


 アンチは四つ子からタオルと飲み物を受け取る。

 

「あの、アンチ様」


 四つ子の長女、【ララ】。

 茶髪に、犬耳が特徴的な少女である。


「どうしんたんだい、ララ?」

「アンチ様……少し、お休みください。日中は皇子としての公務をこなし、休憩時間に街へ行き民たちの悩みをきき、夜はこうして自主練……。いつか体を崩してしまいます」


 アンチはこれまでも、皇子としての職務を全うしてきた。

 が、対校戦を境に、そこに自主練も加えるようになったのだ。


 睡眠時間を削って……である。


「気にしてくれてありがとう、ララ。リリ、ルル、ロロも心配かけるね」


 四つ子たちは皆、アンチが大好きなのだ。

 だから……体を壊してほしくない。でも……アンチの思いも、ちゃんとわかってるのだ。


「僕はね……あの試合で、己のレベルの低さを痛感させられたのさ」


 対校戦に参加していたのは、どいつもこいつも、化け物じみた力を持っていた。

 ガイアスたち王立、カズマたち神聖皇国、そして悪魔の住む東部連邦……。


 正直、あの試合に参加していた四校のうち、アンチたち帝国学園が、一番レベルが低かったと言わざるを得ない。

 

「対校戦で勝てたのは、我が友、ユリウスの温情だ……。かの勇者がいなかったら、優勝は……星杯は手に入らなかった」


 星杯。星一つを作るほどの、莫大なエネルギーを秘めた、魔道具。

 ユリウスたちは優勝旗とともに、星杯の管理を、帝国に任せた。


 星杯のエネルギーのおかげで、帝国はさらに大きくなっている。

 ……ユリウスのおかげだ。


「僕はね、自分が恥ずかしいのだよ」

「恥ずかしい……? 何がですか?」


「あのような化け物たちが、この世界にいるというのに……のほほんと平和を享受していた、自分がね」


 アンチは皇子、つまり、時期皇帝となる男。


「僕は、強くならないといけないんだ。ユリウスたちと、並ぶことは……できないかもしれない。けど! 強くならないと。でないと……あのような化け物がまた現れたとき……民を守れない」

「アンチ様……」


 アンチは帝国のために強くなろうと、努力しているのだ。

 対校戦で自分の、そして世界のレベルを知ったからこそ、熱心に修行に打ち込んでいるのである。


 と、そのときだ。


「アンチ様、大変です!」

「どうした、ホサ?」


 アンチの部下である男、ホサが、息を切らせながらやってくる。


「星杯が! 奪われました!」

「なっ?! せ、星杯が!? そんなバカな!?」


 アンチはホサとともに、星杯が安置されている部屋へと向かう。


「あの部屋には、帝国の最新鋭の科学で作った、最高の結界が張ってあったはず……!」


 だが、それを突破したものがいるのだ。

 アンチは、すぐに現実を受け止める。


 あり得ない、ということは、あり得ない。

 対校戦で学んだことだ。


「ララは兵士を集めろ! リリ、ルルは父様と母様に報告! ロロは【あれ】の準備を!」


 四つ子たちに命令を出し、自分はホサとともに部屋へと向かう。

 ほどなくして、大きな扉の部屋の前までやってきた。


 アンチは扉に手を置く。

 魔力の反応して、部屋の扉が開いた……。


「な!? せ、星杯が……あるではないか!」


 部屋の奥、何重もの結界の奥。

 中空に、1つの輝く優勝カップがあった。


 あれが、星杯。

 そう……星杯は盗まれてなかった……ということは!


 アンチは懐の銃と、腰の剣を抜いて、ホサに突きつける。


「ホサはどうした!?」

「な、何を言ってるのですか……? おれがホサです……」


 ばん! とアンチはホサの眉間を銃弾で打ち抜く。


「おー、さすがですねええ」


 眉間に、穴が開いている……ホサの顔がぐにゃりと変化する。

 ニヤニヤ……と笑う、その顔に……見覚えしかなかった。


「おまえは……! 王国の理事長! ルシフェル!」


 ユリウスたちの通う学園の理事長、ルシフェル。

 シルクハットをかぶった男が、そこにいたのだ。


「それにしても、アンチ皇子、成長しましたねえ。私の変装を見破るなんて。たいしたものですよぅ」


 ……褒めてるようには全く聞こえない。

 変装を見抜き、急所を突いたはず。


 殺したはずなのだ。なのに……生きてる……!

 そうだった、この世には、殺しても死なない連中はゴロゴロいる。


 アンチは銃を構えた状態で、剣を腰に戻し……【それ】を手に取ろうとする。


「それはちょっと、今の貴方の手には余るモノではないですかぁ?」

「な!?」


 アンチの【奥の手】を、ルシフェルは見抜いているようだ。


「しかし見事な結界です。この私が、変装なんてしないと、この部屋にたどり着けないんですから。対校戦は思ったよりも、君を大きくしてしまったようです。これはうれしい誤算♡」


 ルシフェルはアンチなんて、歯牙にもかけた様子もなく、てくてく歩き出す。

 足下に銃弾を撃ち込んだというのに、彼は止まらない。


「止まれ!」

「といわれて、止まるバカがいるとお思いで?」


「くそ!」


 アンチが近接戦闘に持ち込もうとする。

 だが、ルシフェルはアンチの拳をぬるりとよけると、足を引っかけられる。


 ちゃきっ!


「…………」


 持っていた銃をいつの間にか奪われていた。

 そして、ルシフェルは銃をアンチの、眉間に突きつける。


「死にたくなければ動かないほうがいいですよぉ?」

「…………」


 死にたくなければ……か。


「断る!」


 がしっ! 

 アンチは銃身をつかむ。


「このアンチ=フォン=マデューカス! 民のために死ぬ覚悟は、とっくに出来てるのだよ!」


 ぐいっ、とアンチはルシフェルの腕を引く。

 そして腰の剣を抜いて、その刃をルシフェルの右目に突き刺した。


「とった……!」

「惜しい」


 アンチは驚愕する。

 声が……後ろから聞こえたのだ!


 目の前には、ナイフで右目をくしざしにされた、ルシフェルが確かにいる。

 だが……。


「がっ!」


 アンチはその場に崩れ落ちる。

 背後にも、ルシフェルがいた。


「どういう……ことだ……?」


 ルシフェルが二人……?

 どうなってる……分身の術だろうか!?


「アンチ皇子。あなたはほんとうにお強くなられた。ですが……それだけです」


 ルシフェルは帽子をかぶりなおす。


「我が【計画】を、阻むことは……できない」

「計画……なにを……するつもりだ……!」


 動こうとしても、体に全く力が入らない。

 ルシフェルはアンチを放置して、星杯に近づく。


「何をするか、ですって……? ふふ、そんなの決まってますよ♡」


 ルシフェルは星杯を手に取る。

 結界が彼を阻むことはない。


「【勇者】に、次なる試練を与えるのです。そのためにこの星杯を、少々お借りしたいのですよぉ」

「勇者……我が友、ユリウスにか!」


「彼は勇者神でしょぉ?」

「では……誰のことを……?」


 ルシフェルは星杯を掲げる。


「星の器よ! 時空の壁を取り払い、暗黒の時代と、今の時代を、つなぎ合わせなさい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] アンチくんはまさか、あのおばさん聖女に育てられた あのアンチくんと繋がりがあるのか???
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ