184.神が認めた天才
無意識領域下にて、邪霊の九尾と戦闘している。
義姉ダンタリオンが霊気の使い方をレクチャーして見せた。
ダンタリオンは敵の拘束を解き、ガイアスにバトンタッチ。
後で腕を組み、ガイアスの戦闘を見守ることにする。
『舐め腐りよって! わらわがこんな霊気知りたてのガキに、負けるとでもおもっておるのか!』
巨大な九尾の狐が、ダンタリオンに叫ぶ。
びりびりと空気が振動する。
だが、ダンタリオンは涼しい顔をしてうなずいていた。
「当たり前です。ガイアスさんは、ユリウスさんが認めた男なんですよ?」
……兄が、自分を認めてくれる。
それは多分ダンタリオン視点でそう言ってるのだろう。
お世辞かもしれない。
でも……凄く嬉しかった。
愛する勇者神である兄から認められることは、彼にとって最大の賛辞。
何よりも代えがたい褒め言葉なのだ。
にやけそうになる表情をひきしめ、ガイアスは前に出る。
『ふん! こんなガキ怖くもなんとも……』
ぞくっ、と九尾が全身の毛を立てる。
かたかた……とその体を微細に震わせていた。
『な、なんじゃこやつ……どうなっておる!? 先ほどまでとは、纏う空気がちがう……!』
強大な力を持つ邪霊が怯えてしまうほどのすごみを、ガイアスからは発せられていた。
「行くよ……」
ガイアスが……跳ぶ。
次の瞬間、九尾の尾が吹き飛んでいた。
『なっ!?』
九尾はガイアスの動きが目で追えていないようだ。
何をされたのかわからない。
彼女が現状を把握する前に、ガイアスは次の攻撃を放つ。
ズバッ……!
一瞬で残り8本の尾が全て消し飛んだ。
それで、ようやく九尾は気づいたようだ。
『それは……霊気の剣!?』
ガイアスは両手に、霊気で構築した、青銀の剣を持っていた。
彼が愛用する双剣とは、また別の形の、美しいフォルムの剣である。
「さすがです、ガイアスさん。霊気が魔力と同様、付与できる性質があるというヒントから、霊気を固め、具現化する技術まで習得してしまうなんて」
『あ、ああああ、ありえん! 霊気の具現化じゃと!? わらわが長い年月をかけ、ようやく修得した奥義を!? 霊気のれの字も知らぬガキが!?』
ふっ……と義姉が笑う。
その間にガイアスは攻撃のモーションに入っていた。
「言ったでしょう? ガイアスさんはただの天才ではないのです。勇者神が認めた、超天才なのです」
ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
霊気を凝縮し、九尾めがけて斬撃を放つ。
エネルギー波となって九尾の体を包み込む。
『なんという……恐ろしい……やつ……化け物……じゃぁ……』
完全に九尾が消え去る。
霊気を使いすぎて、ガイアスはその場に崩れ落ちる。
「よっと」
そのガイアスを受け止めるものがいた。
ダンタリオン……ではなかった。
「ナイスキル」
「兄さん……」
兄ユリウスがしれっとした顔で、ガイアスの無意識領域に入ってきていたのだ。
「いつから見てたんだよ……?」
「え、最初からだけど」
「ここボクの無意識領域……夢の中なんだけど……?」
他人の無意識領域に入るのは、悪魔や邪霊にしか出来ないかと思っていた。
だが。
「え、できるけど?」
「そっか……」
この人を人間と思ってはいけなかった。
非常識が服を着て歩いてるようなやつなのである。
「おまえが気づかないように気配を消して、ダンタリオンと一緒にずっとおまえの活躍を見てたよ」
「……あっそ」
どうやら、また兄は自分を教育するために、敵を利用したようだ。
何かあったとき、自分が出張っていくつもりだったのだろう。
……兄のこういうお節介なところは、嫌いではない。
「いやぁ、しかし霊気波動剣を使えるようになるとはなぁ。さすがだぜ」
「なにそれ?」
「さっきやったろ、霊気を凝縮させて、敵にぶつけるワザ」
「あんたが開発したワザだったのか……」
「おうよ」
兄に少し追いついたかもと思ったが、やはり、兄は自分の前を歩き続けているようだ。
それを聞いても……ガイアスは落胆しなかった。
「兄さんは凄いな」
「うおぉ! まじぃい~? え、そう思うぅ~? もうガイアス! やめろよぉ、嬉しくなっちゃうだろ!」
ぎゅうぎゅう、と兄が抱きしめてきた。
「ば、ばか兄さん! 人前はやめろって言ってるだろ?!」
「大丈夫大丈夫、な、ダンタリオン?」
するとダンタリオンが……死んでいた。
「ダンタリオン!? どうした!?」
ユリウスはガイアスをぽいっと放り投げる。
……自分より義姉を優先されたのが、地味に傷付いた。
慌ててユリウスがダンタリオンのそばまでいき、抱き起こす。
「お、おい大丈夫か!?」
「尊……死……」
凄く良い笑顔のダンタリオン。
「し、死者蘇生を! 転生の秘術を! アアどうすれば!?」
どうやらダンタリオンは、ガイアスたちのやりとりをみて、悶絶しただけのようだ。
死んだわけではないのに、そのことを理解せぬユリウスは慌てふためくばかりである。
……だが。
「どうすれば!?」
「知らないよ」
ふんっ、とガイアスはそっぽを向く。
……さっき自分を放り出して、ダンタリオンのもとへ駆け寄ったことへの、意趣返しだ。
「えええ! ガイアスなんかおこってるし~。ダンタリオンは死んでるし~。どうすりゃいいんだよぉおう」
戦闘では一切動揺しない兄であったが、弟と嫁に関しては例外のようだ。
ガイアスは一抹のさみしさを覚える。
自分だけが、兄の特別では無くなってしまったのだと。
でも……それでいいと思っていた。
ガイアスもまた、ダンタリオンのことを、家族として大事に思っているから。
「義姉さん、起きなよ。兄さんが困ってる」
「そ、それはいけませんわっ」
ぐわばっ、とダンタリオンが体を起こす。
ほぉ……とユリウスは安堵の息をついた。
「すみません、ユリウスさん。お二人の濃厚なからみが……尊くて……」
「? まあ、おまえが無事ならそれでいいや」
ふふふ、と笑い合う二人を、ガイアスは少し離れたところから見てる。
「やっぱりお似合いだよ、兄さんたちは」
ガイアスは微笑みながら、二人にそう言うのだった。