179.霊気
大嶽丸を葬り去ったガイアスだったが……。
『ふはははは! 危ない危ない!』
「なに!? 復活しただと……!?」
ガイアスの夢の中にて。
邪霊、大嶽丸が復活して見せたのだ。
先ほどガイアスが、闘気を込めた一撃を食らわせて倒したはずだったのだが。
『この程度の攻撃で、精霊たるおれさまが死ぬはずなかろうがぁ!』
大嶽丸が斧を振り上げて攻撃してきた。
ガイアスは紙一重でそれを回避する。
がら空きのボディに、闘気を込めた拳を叩き込む。
ボッ……! と相手の肉体が消し飛ぶも……。
すぐに再生してしまった。
「そんな……!?」
『死ねやぁあああああああああ!』
大嶽丸の斧が青みがかった銀色に輝く。 そしてガイアスの体を両断しようとしてきた。
ガイアスはそれを回避しようとするも……。
ザシュッ……!
「くっ……!」
ガイアスは敵の攻撃を受けて、左腕が切断されてしまう。
「ぐ、あぁああああああああああ!」
オカシイ。
ここは夢の中であるのに、まるで本物の刃物で切りつけられたような、鋭い痛みを感じるのだ。
「そうだ……夢の中なら……あいつみたいに……再生できるはず……!」
だが、いくら治癒魔法をかけても、ガイアスの失った左腕が戻ることはない。
「そんな……!」
『はは! 無駄無駄ぁ……!』
焦るガイアスは対照的に、大嶽丸は余裕の笑みを浮かべながら攻撃を仕掛けてきた。
腕を失いパニックになりかけてるガイアスは、またも敵の攻撃を受けてしまう。
今度は右足を切断されてしまった。
「くそっ……! なんだ……どうして相手の攻撃はダメージを与えられるんだ……?」
やつと自分の何が違うのか……?
ガイアスは思考する。
ーーまた俺のアドバイスがいるか? ん?
脳裏の兄が、腕を組みながら、そんなことを言う。
……今まででもそうだった。
強敵と相対したとき、ガイアスはいつも、兄からアドバイスをもらっていた。
勇者となったはずなのに。
「ボクは……いつまで兄さんに頼ってるんだ」
『死ねぇええええええええええ!』
ガイアスは攻撃を見極め、それをギリギリで回避する。
目の前を大嶽丸の斧が通過していく。
……そのとき、見た。
やつの斧に、銀の光がまとわりついていることに。
「そうだ……さっきもそうだった。この銀の光は……いったい……?」
続いてガイアスは敵をじっくりと観察する。
彼は全てにおいて兄に劣るが、たったひとつ、勝るものがある。
それは……その二つの目だ。
彼は気づいていないようだが、彼の目は一度見た物を全て解析することができる。
「魔力でも、闘気でもない。禁術でもない……これは……別のエネルギー」
『何をごちゃごちゃとぉおおおおお!』
ガイアスは……見た。そして理解する。
大嶽丸の体から……いや、大嶽丸の胸の中心に、同じ青銀色の光が宿っていることに。
「あれか……!」
光の正体はわからない。
だが相手の体の中にある、エネルギーを、武器に纏わせてる。
その力を使うことで、この精神世界にいる相手にもダメージを与えられていた。
「ボクの中にもある……はず!」
ボッ……! とガイアスの右手から、青銀の光がほとばしる。
『ば、馬鹿な!? 人間の分際で、霊気を操ってるだと!?』
「霊気……なるほど。それがこの力の名前か」
普段のガイアスならば、兄に教えてもらわないと、新しい概念を理解でき無かった。
だが勇者として覚醒した今、彼は自分の持つ力だけで、敵の力を看破してみせたのである。
ガイアスは一瞬で大嶽丸の懐に入りこむ。
『は、早っ!?』
「でやぁああああああああああ!」
バコォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
大嶽丸にボディブローをお見舞いする。
霊気を纏った拳は、見事、大嶽丸の土手っ腹に大穴をあけた。
そして、攻撃を放ったことでガイアスは理解する。
「そうか……霊気は……魂の力。そして精霊を攻撃するためには、相手の魂に干渉する攻撃をしないといけないんだ」
『こんな短時間で……精霊との戦闘の極意を身に付けるなんて……貴様……化け物か……?』
消えゆく大嶽丸を相手に、ガイアスが鼻を鳴らしていう。
「ボクは化け物の、弟だよ」