174.妹は精霊
転校してきた少女は、この青き星の精霊、マーテルだった。
ややあって。
場所は俺たち同好会が使っている、部室。
「ふむ? そういえば勇者よ。青き星とはなんじゃ?」
そう聞いてきたのは、俺の相棒にして、魔王ヴェノムザード。
銀髪の爆乳姉ちゃんだ。
「なんだ知らんのか? 俺たちの住んでいる星のことだよ」
誰が呼んだか青き星。
ま、確かに外から見れば青い球体に見えるからな。
「ほう、人間の間ではチキューのことを、そう呼んでいるのか」
「? なにそれチキューって?」
「いや、なんでもない。しかし勇者よ、大精霊と契約していたとはな」
すると今度は俺の半身ともいえる、我がガイアスが尋ねる。
「大精霊ってなんだい? 精霊は聞いたことあるけど」
「おお! そうか知らないか。よーし兄ちゃんが手取り足取り教えてやろう!」
「手と足はいらないよ……」
そっか、ガイアスもまだ知らないことがあるんだなぁ。
最近兄ちゃん、ガイアスが成長しまくってて、教えること少なくなってて、結構さみしかったんだぜえ?
「あいにうえ、がいあす相手だと露骨にテンションがあがってるです? らぶでーすー?」
「でゅふ……♡ 兄×弟でわたくしはあとご飯1兆杯は食べれますでゅふふふ……♡」
義弟と嫁がなんだか楽しそうに会話していた。
「大精霊ってのは、上位の精霊のことだ。通常の精霊と違うのは、肉体を持ってることだな」
「なるほど……精霊って確かこの世界の肉体を持ってないんだったね。けど……そんな上位の精霊が、どうしてここに?」
ふぅむ、確かに変だな。
「たしか大精霊は精霊核……精霊の力の根源のもとから離れられなかったんじゃあないか?」
前世時代では、マーテルと出会ったのはこの青き星の中心地帯だった。
そこからマーテルは通常動けなかったので、契約の指輪をもらった。
魔王ヴェノムザードとの戦いの時は、その指輪を通して、マーテルの力を借りたのである(霊装)。
するとマーテルは言う。
「これは仮の肉体なのですわ、お兄様」
「ほぅ……誰かがおまえに肉体を与えたのか。して、誰……っつっても、一人くらいしか思いあたらないんだがな」
こういうことを企むのは……。
「どうもぉ~」
「あ、旧です。生きてやがったです? 最近影薄かったけども」
「生きてますよぉう。愚弟。どうも久しぶりです、学園長のルシフェルですよぉ」
シルクハットを被った、うさんくさそうな男……ルシフェルが現れる。
まあどう考えてもこいつが何かやったんだろう。
「なんでマーテルに肉体を与えた?」
「えぇ、わたしは知りませんよぉ。ただわたしは転校生を連れてきただけでぇ」
「で、何が目的なんだよ」
「目的なんてそんなそんな……ただぁ、彼女はSSクラスの一人として連れてきただけです」
ふむ?
SSクラス……?
「この学園の生徒の能力向上のため、わたしが各地からスカウトしてきた、すんごい人たちですよぉ」
「マーテル以外にも転校生がいるってことか?」
「ええ」
うーん、星の大精霊クラスが他にもいるってことか……。
うん!
「良い仕事してるねえ!」
「兄さん!?」
「だって愛する弟の練習台をいっぱい連れてきてくれたんだろぉ? いやぁ、感謝感謝!」
ばしばし、とルシフェルの肩を叩く俺!
なんだよ学園長、初めて良い仕事したなぁ!
「喜んでもらえて光栄ですよぉ。じゃ、そのうちSSクラスの人たちも、あなたに突っかかってくるでしょうが、あとはよろしくぅ」
「おう! さんきゅーな!」
いやぁ、学園長ってば良いことするじゃあねえか。
今まで裏でこそこそしてて、変なやつくらいの認識だったけどもな。
「悪の親玉相手でもこの対応……兄さんはやっぱりオカシイよ……」
「あにうえかっこいーです!」
まあなんにせよマーテルが転校してきた理由は判明したな。
「ところで……お兄様♡」
にっこぉ……と笑って、マーテルが言う。
「そちらにいらっしゃる、髪の長い雌は……だれ?」
お、なんだなんだ。
雌? ああ、ダンタリオンのことか。
「俺の嫁」
「…………………………………………………………は?」
おや? マーテルがなんだか怖い顔をして、ダンタリオンをにらんでるぞ?
どうしたんだぁ?