171.あっちがわ
愛すべき弟ガイアスと、俺を兄と呼ぶ精霊女とが戦うことになった。
「あにうえの妹の座を巡っての、バトルです!」
「み、ミカくん。ガイアス君は男の子だよ?」
「ガイアスはめすです、エリちゃん。なぜならあにうえラブだからです?」
いやぁ、照れるなぁ。
とか思ってると、精霊女が手を広げる。
「最初から全力で行かせてもらいますよ。領域結界!」
精霊女を中心として結界が発動。
ガイアスと精霊とをつつみこむように、球形の結界が展開する。
「わっ、これってミカくんが使っていた技? 相手を結界内に閉じ込めて、さらに結界内部を術者にとってもっともパワーを上げる環境に変える?」
「そうだな。上位存在は普通にこれやってくる」
うんうん、と俺がうなずくと……。
「お兄様はともかくとして……なぜそこの有象無象もいるのですか?」
精霊女がエリーゼ達を見て言う。
「いやほら、仲間はずれは可愛そうだろ?」
「結界の展開は光を超える速度。それを上回る速度で動き、彼らを回収したのですね! さすがお兄様!」
「さすがかぁ? 光より早く動くことくらい、普通できるよなぁ?」
「でき……るからこまるんだよ!」
ガイアスがため息をつく。
さて、精霊の展開した結界内部は、密林が広がっていた。
領域結界内部はこの精霊女にとって最も都合がいい世界になってる。となると、樹木の精霊ってことだろう。
「死になさい人間」
じゅごごご! と無数の木の根がガイアスに襲いかかる。
「あれって魔法なん? 魔力の【おこり】を感じなかったけど」
「魔法だよ。ただ人間と違って精霊の場合は、魔法を使うっていう意識を持たずとも使えるんだ」
手をふる、歩く、そういった普通の動作が魔法になるんだよな。
樹木が一斉に襲いかかってきたとて、ガイアスはその場から動かない。
木の根達はガイアスを避けていく……。
「が、ガイアス君回避してない?」
「いや、してたよ。超最小限の動きで、敵の攻撃を避けて見せたのさ」
ふふふ、やっぱりガイアスはすげえなぁ。
前のガイアスなら大げさな動作で避けただろうけども。
カズマと極限の命のやりとりをした結果、度胸がついたのかもなぁ。
攻撃をギリギリまで避けないでひきつけたほうが、回避しやすい(相手が勝ちを確信するから)ってことを理解したようだ。戦いを通して学ぶとは、やっぱりすげえぜガイアスぅ。
「これが本気? 拍子抜けなんだけど」
「ほんの、小手調べです。本番はこれからぁ……!」
精霊女の背後に樹木の竜が現れる。
「九十九樹竜!」
99の首を持つ樹木の竜がガイアスに殺到。
ガイアスを丸呑みにする……が。
ぼこぉ……! と樹木竜たちの腹が膨張すると、ぱぁ……ん! とはじけ飛ぶ。
「な、なんや……何が起きたん!?」
「え、ただ魔力をちょびっと解放しただけだぞ?」
「ちょびっとって……あのたくさんいる竜が爆発するほどの、膨大な魔力が、ちょびっとなん!?」
ガイアスは魔力錬成、大気中の魔素から魔力を錬成する術を身につけている。
あいつが食われるその分間、大気中から最小限の動きで、最小量の魔素を取り込み、それを少し解放したのだ。
「てか今の攻防普通に見抜いて解説する、ユリウス君すごいよね……」
「ガイアスはんも化物がわにいってしまうんたんやなぁ……」
あっちってどっちやねん。




