166.冥界
転生勇者ユリウスが、対校戦を終えて、しばらくたったある日。
理事長ルシフェルは、地上ではない場所へとやってきていた。
「ここは相変わらず、陰気臭い場所ですねぇ」
そこは光の届かない、闇の世界。
銀の砂漠がどこまでも続く、不毛の土地。
砂漠のあちこちで、青白い光の塊が倒れている。
彼らは、亡者。
死者の魂である。
亡者たちの世界を歩いていくと、やがて大きな宮殿へとたどり着く。
宮殿の前には2つの首を持つ化け物がいた。
「やぁどうもぉ。冥界の番人、オルトロスさぁん」
二首の犬、オルトロス。
見上げるほどの威容に、凶悪な顔つき。
見るものを委縮させる冥界の化け物を前にして、しかし、ルシフェルが怯えることがない。
『ルシファー。なんのようだ?』
オルトロスは理事長を見て、そう呼んだ。
おっと、とルシフェルはにやにや笑いながら言う。
「今は明けの明星ではなく、ルシフェルと名乗っております」
それは隠し事であるのだが、暴かれたとしても、別に焦ってる様子はない。
『堕天使が冥界に何の用だ?』
「ちょっと、同窓会に参加しようと思ましてぇ」
『まどろっこしい言い方は好かない』
「そうですかぁ。それでは、冥界神に会いたいんですがぁ」
やはりか……とばかりに、オルトロスがため息をつく。
『ハデス様に会わせろということだな』
「お察しのとおりでぇ」
ずぉ、とオルトロスから殺気があふれ出る。
大気を鳴動させるほどの、強い気配だ。
それでもルシフェルはおびえる様子はない。死が迫ってるというのに笑っている。
それは強者故の余裕だった。
……ルシフェル自身は全くと言っていいほど、殺気を見せないというのに。
やがて、オルトロスが殺気を収める。
『ついてこい』
「おやぁ? 侵入者を排除しないんですかぁ?」
オルトロスは彼を無視して、巨大な建物のなかへと進む。
それは……監獄だ。
『冥界の大監獄。冥界は罪人の魂の牢獄であるが、ここは特に大罪人の魂を収監されている。そんな監獄に、貴様は何を求めに来たのだ?』
にやぁ、とルシフェルは笑って言う。
「決まってるでしょぉ? 次なる試練を用意するんです。勇者にねぇ」