159.ピンチにヒーロー
対校戦、最終試合。
王立学園の副将、ガイアスは、神聖皇国の主将カズマを打ち破った。
最終試合は5VS5の団体戦。
ガイアスが勝利したことで、王立は2勝2敗。
次の大将戦で、勝負が決まる。
『ですがぁ? 皇国は現在4名しかいない状況でぇす。皇国はもう一人ぃ、二回目の戦いをしないといけませぇん』
学園長ルシフェルのアナウンスが、帝都闘技場に響き渡る。
ガイアスは相手を見やる。カズマをはじめとした、皇国のメンバーはもうボロボロだ。
とても戦える状態にないのは明白である。
「カズマ。棄権してくれ」
ガイアスはリーダーであるカズマにそう提案する。
カズマはふるふると首を振る。
「すまない、ガイアス君。それは……できないんだ。おれたちはどうしても、君たちに勝たねばならない……ぐっ!」
最も頑強な体を持つカズマですら、立ち上がるのがやっとのようだ。
ガイアスは痛ましいものを見る目で彼らを見る。
皇国のメンバーたちの首にはチョーカーがつけられていた。呪いの道具である。
彼らは家族と、そして己の命を、皇国の学校長に握られているのだ。
負ければ自分だけでなく家族まで死んでしまう。だから、死力を尽くして戦っていたのである。
「その通りだ」
「皇国の学校長!」
学校長がカズマに近づいてきて、彼のほおを殴り飛ばす。
「この愚図が! 何をこんな雑魚に負けている! 貴様らは転生者! この世界における最強の存在のはず! だのに、何を負けてるんだこの愚者どもがぁ!」
学校長は生徒たちに罵声を浴びせる。
ガイアスはそれを聞いて静かなる怒りの炎を胸の中で燃やす。
「ふざけるな、何が愚図だ! 懸命に戦った生徒たちに対して、なんだよその言い方!」
だが学校長はフンッ、と鼻を鳴らすと、懐から黒いナイフを取り出す。
「否が応でも戦ってもらうぞ、カズマ」
「なんだよそれ!」
「これは呪具【狂化凶刃】。刺したものをバーサーカーへと変貌させる呪いのアイテムさ」
「狂化だって! だめだ! 逃げろカズマ!」
だがカズマはうなだれている。
学校長の命令には背けないのだろう。
諦めたような目を、こちらに向けてくる。少しだけ笑っていた。
「ありがとう、ガイアス君。おれのために怒ってくれて。勇者に覚醒した君と、真正面から戦えて……おれは幸せだったよ……」
「やめろ! カズマ! カズマぁああああああああ!」
学校長は躊躇なく、カズマの肩にナイフを振り下ろす。
ザシュッ……!
「が、ぐ、うごぁあああああああああああああああああああああ!」
カズマの体から黒いオーラが噴出する。黒煙は彼の体を包み込み、やがて別のものへと変貌させる。
みるみるうちに巨大化した彼は……黒い魔神へと変貌した。
「魔神……!」
2つの顔に四本の腕。どことなく神聖を感じさせる、悪なる神へと変貌を遂げたのだ。
「ひゃはは! その力は悪神! 【リョウメンスクナ】! かつて勇者神すらも対応に苦慮したという、伝説の神だぁ!」
「兄さんが……!」
邪悪なるオーラが周囲にほとばしる。それだけで……。
「ガイアス君! 観客のみんなが!」
「し、死んではる……!」
同級生のエリーゼ、そしてサクラが戦慄している。
見ただけで人を殺すほどの、強烈なオーラを放つリョウメンスクナを前に、ガイアスは戦慄する。
「セイバー! もう一度霊装を……ぐ!」
ガイアスは己の相棒、無双剣と一体化しようとした。だが彼は先ほどの戦いで深いダメージを負っている。
『無茶です。あなたは勇者に覚醒したとはいえ、もうボロボロ。やつと戦うのは無理です』
「それでもボクは戦うんだ! この世界の……勇者だから!」
だがリョウメンスクナからほとばしる悪のオーラにガイアスが吹き飛ばされる。
宙を舞うガイアスを……。
「よっと」
ぱしっ、と受け止めるものが一人。
「あれは!」「あにうえー!」「ユリウス君!」「ユリウス様!」
王立のメンバー、そして【彼】の嫁ダンタリオンが、希望のまなざしを向ける。
そこにいたのは……。
「遅くなって、悪いな」
「兄さん……!」
ガイアスの兄、ユリウス=フォン=カーライルその人だった。
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