158.この世界の勇者
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対抗戦、ガイアスは転生者カズマとの一騎打ちを行っている。
窮地のガイアスを救ったのは、ミカエルをはじめとした、仲間たちからの声援。
「なんだ……これは……この、湧き上がってくるちからは……!」
止めどなくあふれ出る魔力、そして闘気。
どちらも今までとは比べものにならない量だ。
『マスター。この力はどうやら外部から送られてるようです』
「外部……?」
ガイアスの手に持つ無双剣セイバーが肯定する。
『マスターは手に入れたのです。勇者の力を』
「いや、そう言われても……」
己の手にした力の正体を聞いても、いまいちピンとこない。
一方でカズマは、さみしそうに笑う。
「嬉しいよ、ガイアス君。真の力を覚醒した、本気の君と戦えることが。できれば、こんな横やりの入らない戦いをしたかった……」
がちゃ、とカズマが剣を抜いて構える。
太陽神の力を身にまとったカズマの大剣は、プラズマによって青いレーザーソードになっている。
また炎の衣をまとっていることで、すべての攻撃を無効化し、敵を寄せ付けない。
恐るべき、あっと言う的な力を前に……。
ガイアスの心は凪いだようだった。
「よくわからないけど……これなら……」
ガイアスは双剣を構える。
「れいそ……」
霊装をまとうまにに、カズマが至近距離で突っ込んでくる。
人外の速度による一撃。前のガイアスはよけることができなかった。
だが……。
「(見える……攻撃が、見える!)」
ガイアスはカズマの大剣を攻撃反射する。
カズマがすさまじい早さで吹き飛び、リングの外へとはじき出される。
「今のは……?」
「がいあすー! すげーですー!」
観客席から義弟のミカエルが声援を送る。
「めっちゃ早かったです! まるで、あにうえみたいだったでーす!!!!」
……あにうえ、つまり兄ユリウスのこと。
確かにユリウスはどんな攻撃をも見切って見せた。
『あなたは進化したのです。勇者の力を手に入れて』
「だからその、勇者の力ってなんなんだよ」
『マスターが理解できるように言葉を換えるのならば、ユリウス様の力でしょうね』
「兄さんの……?」
がれきを押しのけてカズマが立ち上がる。
ごぉ……! と彼の体から炎が吹き出る。その推進力を利用してカズマが特攻を仕掛けてくる。
プラズマソードによる斬撃。目にも見えない剣舞。
だが……。
「(体が、動く! 自然に、最適な防御をとる! なんだこれ!?)」
ガイアスは今まで、攻撃も防御も意識しないと行えなかった。
彼はクレバーであり、どんな動作も意味と意義を持たせて行ってきた。
でも今の防御は、無意識だった。
身を守らないとと意識せずとも、体が自動的に動いて、敵の攻撃をすべて裁いていた。
『これが、勇者の力。無我の境地』
「無我の境地……?」
『戦うという意識を持たずとも、存在するだけで、最適な攻撃・防御がとれる。意識を超えた、無意識の戦法。勇者ユージーンのよく使っていた、武の極意です』
確かに兄は、いつだって心に余裕があった。
どんな難敵を前にしても彼はいつも彼を保っていた。
ガイアスの今の状態も、そうだ。
別に怒りも焦りもない。ただ力を抜いて、リラックスしている。
それだけで、カズマの攻撃を全部見切っている。
「(あ、隙ができるな。じゃあ……)」
ガイアスはカズマの腹に一撃を入れる。
本当に、軽く蹴飛ばしただけだった。
だが……その蹴りは恐ろしい早さでカズマの腹部を強打し、相手を吹っ飛ばす。
「え、嘘……なんで? そんなに力入れてないのに……」
困惑するガイアス。
彼は自分の力をまだうまく自覚できていないようだ。そう、これはまるで……。
「兄さんみたいな……あ」
そうか、とガイアスは気づく。
「これか……これが、兄さんが見ている景色なんだ……」
余計なことを考えず、ただ襲い来る悪を払う。
自然体で、最強。そう、ユリウスそのものじゃないか。
つまり……。
「勇者って……兄さんになるってことなんだ……」
……思えば。
ずっとガイアスは兄を否定してきた。
兄の転生を知る前から、知った後も。
ガイアスはずっとユリウスを追い抜こうと努力してきた。
でも、今は違う。
兄と同じになれたことを、喜んでいた。
強くなること。それはつまり、勇者神と同じになること。
兄と、同化すること。
それはガイアスがずっとずっと否定してきたことだった。
でもそれが間違いだと気づいた。
兄を追い抜くのではなく、兄と同じのように戦う。
「これが……勇者の戦い方なんだ」
すべて、理解できた。ガイアスはもう兄を否定しない。
「見事だよ、ガイアス君」
いつの間にかカズマが戻ってきていた。
彼は体にだいぶダメージが入ってるようだ。注意深く観察せずとも、わかった。
「まるで、ユリウス君を相手にしてるみたいだ」
ガイアスは……笑った。
それは彼にとって、最大の賛辞であったから。
「ありがとう」
ガイアスは構えを取る。
カズマはニッと笑って、彼もまた剣を手にする。
一瞬だった。お互いに限界を超えた速度でぶつかり合った。
カズマは上段からの強烈な一撃をお見舞いしてきた。
だがガイアスはどう攻撃が来るのか見えていた。
左手で攻撃を裁き、右手の剣でカズマの腹部に強打を加えた。
常人は、今のやりとりを目で追うことは不可能だっただろう。
がくん、とカズマは体を折り、その場に倒れ込んだ。
静寂があった。
あり得ない事態に、皆が驚いていた。
そんな中で、学園長ルシフェルの声だけが響く。
『勝者ぁ……。王立学園、ガイアス=フォン=カーライルぅ……』
勝者がコールされると、割れんばかりの声援が響いた。
「がいあすぅうううううううううううううううう!」
誰よりも先に、義弟のミカエルが突っ込んできた。
飛び込んできたミカエルを、ガイアスが受け止める。
「おめーすげーな! です!」
「あ、ああ……ありがとう……てか、ボク……勝ったの?」
未だに信じられなかった。カズマといえば、兄に並ぶ人外の化物だった。
自分では到底かなわない相手だった。でも……。
「あんたが倒したです! すげーです、がいあす!」
ミカエルをはじめ、王立のメンバーたちが笑顔で駆け寄ってくる。
そこでようやく、自分が勝てたことを自覚できた。
「は、はは……やった……」
喜びよりも、安堵のほうが大きかった。みんなの応援に答えることができて、ほっとした。
「ああ、そっか……」
これもまた、兄と同じ気持ちなのだろう。
兄はいつだって、戦いの後に喜んでいる様子はなかった。誰かを守れて、安堵していた。
そういうことだった。
「やっと……わかったよ、兄さん……」
ガイアスは嬉しそうに、そう言ったのだった。
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