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158/237

158.この世界の勇者

漫画版好評連載中です!


https://seiga.nicovideo.jp/comic/55938?track=official_pickup


また、コミックスも2巻まで発売されてます!




 対抗戦、ガイアスは転生者カズマとの一騎打ちを行っている。


 窮地のガイアスを救ったのは、ミカエルをはじめとした、仲間たちからの声援。


「なんだ……これは……この、湧き上がってくるちからは……!」


 止めどなくあふれ出る魔力、そして闘気。

 どちらも今までとは比べものにならない量だ。


『マスター。この力はどうやら外部から送られてるようです』

「外部……?」


 ガイアスの手に持つ無双剣セイバーが肯定する。


『マスターは手に入れたのです。勇者の力を』

「いや、そう言われても……」


 己の手にした力の正体を聞いても、いまいちピンとこない。


 一方でカズマは、さみしそうに笑う。


「嬉しいよ、ガイアス君。真の力を覚醒した、本気の君と戦えることが。できれば、こんな横やりの入らない戦いをしたかった……」


 がちゃ、とカズマが剣を抜いて構える。

 太陽神の力を身にまとったカズマの大剣は、プラズマによって青いレーザーソードになっている。

 また炎の衣をまとっていることで、すべての攻撃を無効化し、敵を寄せ付けない。


 恐るべき、あっと言う的な力を前に……。

 ガイアスの心は凪いだようだった。


「よくわからないけど……これなら……」


 ガイアスは双剣を構える。


「れいそ……」


 霊装をまとうまにに、カズマが至近距離で突っ込んでくる。

 人外の速度による一撃。前のガイアスはよけることができなかった。


 だが……。


「(見える……攻撃が、見える!)」


 ガイアスはカズマの大剣を攻撃反射パリィする。

 カズマがすさまじい早さで吹き飛び、リングの外へとはじき出される。


「今のは……?」

「がいあすー! すげーですー!」


 観客席から義弟のミカエルが声援を送る。


「めっちゃ早かったです! まるで、あにうえみたいだったでーす!!!!」


 ……あにうえ、つまり兄ユリウスのこと。

 確かにユリウスはどんな攻撃をも見切って見せた。


『あなたは進化したのです。勇者の力を手に入れて』

「だからその、勇者の力ってなんなんだよ」

『マスターが理解できるように言葉を換えるのならば、ユリウス様の力でしょうね』

「兄さんの……?」


 がれきを押しのけてカズマが立ち上がる。

 ごぉ……! と彼の体から炎が吹き出る。その推進力を利用してカズマが特攻を仕掛けてくる。


 プラズマソードによる斬撃。目にも見えない剣舞。

 だが……。


「(体が、動く! 自然に、最適な防御をとる! なんだこれ!?)」


 ガイアスは今まで、攻撃も防御も意識しないと行えなかった。

 彼はクレバーであり、どんな動作も意味と意義を持たせて行ってきた。


 でも今の防御は、無意識だった。

 身を守らないとと意識せずとも、体が自動的に動いて、敵の攻撃をすべて裁いていた。


『これが、勇者の力。無我の境地』

「無我の境地……?」


『戦うという意識を持たずとも、存在するだけで、最適な攻撃・防御がとれる。意識を超えた、無意識の戦法。勇者ユージーンのよく使っていた、武の極意です』


 確かに兄は、いつだって心に余裕があった。

 どんな難敵を前にしても彼はいつも彼を保っていた。


 ガイアスの今の状態も、そうだ。

 別に怒りも焦りもない。ただ力を抜いて、リラックスしている。


 それだけで、カズマの攻撃を全部見切っている。


「(あ、隙ができるな。じゃあ……)」


 ガイアスはカズマの腹に一撃を入れる。

 本当に、軽く蹴飛ばしただけだった。


 だが……その蹴りは恐ろしい早さでカズマの腹部を強打し、相手を吹っ飛ばす。


「え、嘘……なんで? そんなに力入れてないのに……」


 困惑するガイアス。

 彼は自分の力をまだうまく自覚できていないようだ。そう、これはまるで……。


「兄さんみたいな……あ」


 そうか、とガイアスは気づく。


「これか……これが、兄さんが見ている景色なんだ……」


 余計なことを考えず、ただ襲い来る悪を払う。

 自然体で、最強。そう、ユリウスそのものじゃないか。


 つまり……。


「勇者って……兄さんになるってことなんだ……」


 ……思えば。

 ずっとガイアスは兄を否定してきた。

 兄の転生を知る前から、知った後も。

 ガイアスはずっとユリウスを追い抜こうと努力してきた。


 でも、今は違う。

 兄と同じになれたことを、喜んでいた。

 強くなること。それはつまり、勇者神と同じになること。

 兄と、同化すること。


 それはガイアスがずっとずっと否定してきたことだった。

 でもそれが間違いだと気づいた。


 兄を追い抜くのではなく、兄と同じのように戦う。


「これが……勇者の戦い方なんだ」


 すべて、理解できた。ガイアスはもう兄を否定しない。


「見事だよ、ガイアス君」


 いつの間にかカズマが戻ってきていた。

 彼は体にだいぶダメージが入ってるようだ。注意深く観察せずとも、わかった。


「まるで、ユリウス君を相手にしてるみたいだ」


 ガイアスは……笑った。

 それは彼にとって、最大の賛辞であったから。


「ありがとう」


 ガイアスは構えを取る。

 カズマはニッと笑って、彼もまた剣を手にする。


 一瞬だった。お互いに限界を超えた速度でぶつかり合った。

 カズマは上段からの強烈な一撃をお見舞いしてきた。


 だがガイアスはどう攻撃が来るのか見えていた。

 左手で攻撃を裁き、右手の剣でカズマの腹部に強打を加えた。


 常人は、今のやりとりを目で追うことは不可能だっただろう。


 がくん、とカズマは体を折り、その場に倒れ込んだ。


 静寂があった。

 あり得ない事態に、皆が驚いていた。

 そんな中で、学園長ルシフェルの声だけが響く。


『勝者ぁ……。王立学園、ガイアス=フォン=カーライルぅ……』


 勝者がコールされると、割れんばかりの声援が響いた。


「がいあすぅうううううううううううううううう!」


 誰よりも先に、義弟のミカエルが突っ込んできた。

 飛び込んできたミカエルを、ガイアスが受け止める。


「おめーすげーな! です!」

「あ、ああ……ありがとう……てか、ボク……勝ったの?」


 未だに信じられなかった。カズマといえば、兄に並ぶ人外の化物だった。

 自分では到底かなわない相手だった。でも……。


「あんたが倒したです! すげーです、がいあす!」


 ミカエルをはじめ、王立のメンバーたちが笑顔で駆け寄ってくる。

 そこでようやく、自分が勝てたことを自覚できた。


「は、はは……やった……」


 喜びよりも、安堵のほうが大きかった。みんなの応援に答えることができて、ほっとした。


「ああ、そっか……」


 これもまた、兄と同じ気持ちなのだろう。

 兄はいつだって、戦いの後に喜んでいる様子はなかった。誰かを守れて、安堵していた。

 そういうことだった。


「やっと……わかったよ、兄さん……」


 ガイアスは嬉しそうに、そう言ったのだった。


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