153.勇者、暗躍す
俺たち王立学園は、対校戦の最終試合に挑んでいた。
最期の競技はトーナメント。
5VS5の団体戦だ。
俺の出番は、一番最後。
「で? どうしたんだい、我が友ユリウス。ボクらを集めて」
帝国競技場の裏手にて。
俺は帝国学園の主将、アンチとその嫁ノットたち。
そして東部連邦のメンバー、および俺の嫁のダンタリオン。
この対抗戦に参加していたメンバーを集めていた。
「悪いな、ちょっと人には話しづらいことなんだ」
俺は右手に剣を創成すると、ひゅんっ、と一刀両断する。
空間に裂け目ができる。
「内緒の話したいから、こっちかもん」
「いやちょっと! 今なにしたのだね!?」
アンチが目を剥いて叫ぶ。
「え、空間を切断して、異空間を作ったんだよ。ほら、人に見られても聞かれても困るからさ」
「さらっと会話の途中で、なに片手間でそんなすごいことしてるのだよ!」
「え、普通でしょ? 空間くらい切れるだろ?」
「切れないってば! いい加減ッ! 君は、自分の常識が全部非常識だって事を理解したまえよ! 学習って言葉を知らないのかい!?」
「おいおい馬鹿にするなよー、知ってるよ、学び習うってことだろ??」
「しまったバカだった! くっ……ま、まあいいよ。大事な話なのだろう?」
「おうよ。すまんな、おまえら」
東部のやつらもうなずいて、俺の後にやってくる。
東部連邦は悪魔の連中だ。
ザガンみたいな純粋な悪魔。
ヒストリアみたいな、人間だったけど悪魔になったもの。
そして……ダンタリオンのように、元々悪魔だったけど、人間になったものがいる。
「でゅふ……ユリウスさんとアンチ様の、濃密なツッコみ愛……いえ、突っ込み愛♡ でゅふふふ……♡」
黒髪美女のダンタリオンが、なんだかよくわからない笑い方をする。
「ちょっと!? 君の嫁がなんだかいかがわしい妄想をしているよ!?」
「妄想くらい誰でもするだろ、な、ダンタリオン?」
「ええ。ユリ×アンは至高ですわ♡」
「やめろぉおおおおおおおお! 言葉の意味はわからないけどもおおおおおおお!」
ややあって。
俺は異空間に生徒達を集めて、彼らに神聖皇国の陰謀を語る。
カズマたち生徒を使って、学園長は聖杯を手に入れようとしている。
しかも、彼らに本気を出させるため、人質を取ってだ。
「なんて……なんて卑劣なのだい!」
真っ先に声を荒らげたのは、帝国学園の主将のアンチだ。
「それが教育者のすることかい! 僕は……僕は皇国の学園長の非道を、絶対に許せない!」
嫁達も同意見なのか、うんうんとうなずく。
「我が友ユリウス、是非とも力を貸させてくれ」
「いいのか?」
「当然さ。カズマ達は同じ釜の飯を食った友だ。友の窮地を聞いて、黙っていられるほどこのアンチ=フォン=マデューカス、落ちぶれちゃあいない!」
「「「「さすがです、アンチ様!」」」」
嫁達の前だからかっこつけている、という感じはしない。
彼は、本気で怒っていた。
そう、そういうやつだからこそ、俺は助力を願い出たのだ。
「わたくしたちも、お手伝いしますわユリウス様」
「オレ様も~」
ダンタリオン、そしてザガンたち東部連邦の生徒達も、協力をしてくれるようだ。
「アタシも手伝うわよ」
「ヒストリア……」
元王女の彼女は、一度闇に落ちて、悪魔になった。
でも俺との試合を経て、元の人間の姿に戻った。
「あんたには借りがあるからね」
「さんきゅー」
よし、これで協力は得られたぞ。
「では具体的にどうするのだい? 今は、王立の試合中なのだろう?」
現在、先鉾の義弟ミカエルが、皇国の選手と戦闘中だ。
「ああ。俺は大将だ。それまでなんとかする。ガイアスたちは今、試合をなるべく長引かせてくれている」
「長引かせる?」
「作戦には時間が掛かる。しかも、学園長の野郎が試合に意識が行っている……今しか機会はない」
「なるほど……」
アンチがうなずいて言う。
「つまりだ。王立の生徒達が試合を長引かせ、時間を稼いでいる間、我々がこっそり彼奴らの野望を阻止すると」
「概要はそんな感じ。で、これからの方針なんだけど……」
俺はアンチたちに言う。
彼らは目を丸くする。
「そ、そんなこと……可能……いや」
ふっ、とアンチが楽しそうに笑う。
「君に不可能なんて言葉は存在しなかったね。いいよ、それで行こうじゃないか」
すっ、とアンチが拳を突き出してくる。
俺もまた、彼の拳にこんっ……と拳を付き合わせる。
「では行こう、我が友よ。友を救うために」
「ああ、頼むぜみんな!」
生徒達がうなずき、俺らは作戦実行へと移るのだった。
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