15.勇者、魔王すら圧倒してしまう
従魔となった魔王と手合わせすることになった。
また戦おうって約束したからな。
同級生や生徒達が、グラウンドに倒れてる。
「え、どうして気絶してるんだ?」
魔王は今、人間の姿で、魔力量を大分抑えているはずなのだが。
「単におまえが強すぎるだけだ。一般人は我を見ただけでこうなる。さて……試合開始だ」
銀髪の美女は、アメジストの目を爛々と輝かせる。
その刹那……魔王は俺のすぐ目の前に居た。
俺は創生魔法で剣を作り、襲い来る彼女の拳を攻撃反射する。
パリィイイイイイイイイン!
「ははっ! よい! よいぞぉ!」
ヴェノムザードは拳を弾かれ、すごい勢いで空中へと吹き飛ぶ。
だがすぐ空中で立ち止まる。
重力魔法で浮いているのだ。
「剣の冴えは今なお健在のようだな! さすがだ!」
俺は飛び上がって彼女に斬りかかる。
ガギィイイイイイイイイイン!
俺の剣と、魔王の拳とがぶつかり合う。
彼女の右腕が今の衝撃で消し飛ぶ。
「なんて破壊力! そう! これが勇者の剣だったな!」
再生魔法ですぐさま、右腕を元に戻す。
魔王は刹那の間に、1000発もの拳を繰り出してきた。
ドガガガガガガガガガガッ!
「同時に千発の打撃! 回避不可能のこれを容易く避けるとは! やはりおまえは最高だ!」
さすがに、俺は違和感に気づいた。
重力魔法で宙に浮かびながら言う。
「なぁヴェノムザード」
「【ヴェナ】と呼ぶが良い」
「じゃあヴェナ。おまえ、手を抜いてるのか? 魔力制限してるとは言え、さすがに弱すぎるぞ?」
2000年前。
勇者と魔王の力量はほぼ互角だった。
だが今は、俺が彼女を完全に凌駕してた。
「なんだおまえ、気づいていないのか? 我との間に【魔力経路】が繋がっていることに」
「魔力経路?」
「主人と従魔をつなぐ霊的なラインだ。これを通し主人と従魔は魔力を渡しあえる。つまりおまえは勇者の力だけでなく、魔王の莫大な力すら手に入れたのだ」
「え、そうだったのか?」
「ああ。勇者と魔王は互角の存在。両方の力を持つおまえは、転生前の倍の強さを持っていることになる」
「いまいち実感がわかないんだが?」
「ならば試せ、この我の全力を相手にして!」
カッ……! とヴェナの体が黒く輝く。
厄災邪竜ヴェノムザードが、姿をあらわした。
制限していた魔力が嵐のように押し寄せる。
『本気でゆくぞ、勇者よ!』
邪竜が俺めがけて、翼で打つ。
ビョオォオオオオオオオオオオオオ!
荒れ狂う暴風が、地面をえぐりながら、俺めがけてやってくる。
俺は闘気で体を強化。
暴風を受けても、しかし、俺の体は傷一つ負っていなかった。
無造作に、俺は右腕で払う。
パンッ……!
さっきまで猛威を振るっていた嵐が、一瞬にして消し飛んだ。
『素晴らしい! 魔王の力が加わって、かつての倍以上の丈夫さと膂力を手にしたのだな!』
勇者が強くなったというのに、魔王は実に嬉しそうだ。
気を抜いた瞬間、邪竜が神速で俺めがけて突っ込んできた。
俺は右手で邪竜の鼻先を掴み、受け止める。
ドッゴォオオオオオオオオオオオン!
衝撃が俺の体に走る。
前なら粉々になっていただろう。
しかし、俺の体はびくともしない。
『全力の突進で無傷かっ! 見事! 見事!』
「え? おまえ、本気出してるのか?」
『魔王の全力に対してその態度、よいぞ! それでこそ、魔王の主にふさわしい!』
魔王が距離を取る。
『では最後に、我が最大出力の【竜の息吹】を受けてみよ!』
邪竜の口に、全身全霊の魔力が集約されていく。
かつて勇者が苦しめられた、最強の破壊の光線だ。
『さぁ! いくぞ勇者ぁ!』
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
竜の息吹は、学校のグラウンドはおろか、敷地内にあった広大な森を一瞬で無に帰す。
目で追える早さではない、さりとて威力は絶大。
攻撃の軌道が、俺の目にはしっかりと追えていた。
全身に満ちる魔王の魔力は、勇者の能力値を底上げしたのだろう。
超強化した膂力で、俺は剣を振るった。
ズッバァアアアアアアアアアアアアアアアン!
竜の息吹を、真っ向から打ち破る。
斬撃はその先にいた、邪竜を真っ二つにした。
『うむ! 天晴れだ、勇者よ!』
邪竜化が解除され、ヴェナは地面に大の字になって倒れる。
さすが魔王、今の一撃を受けても生きてるとは。
「やはりおまえは、史上最強の男だ。我はおまえの下僕になれること、心より嬉しいぞ!」
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